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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
784/845

騎士は誇りを捨てぬため①

******


 アルミラさんの商品と思しき魔力回復の妙薬を昏倒している冒険者たちに飲ませていく。


 シュヴァリエが壁に縫い留めていた女性も意識を失っていたが、顔色はそこまで悪くない。


 デミーグさんが擦れ違いざまに俺の肩をポンポンと叩いていった。


「アイザック、貴方も飲んでおくといいわ」


 そこでアイザックに妙薬を投げたのはファルーアだ。


 アイザックは座り込んでいるけれど、飛んできた瓶を空中で易々と受け取って笑った。


「おう、助かる。さすがにきちぃわ……。二重のバフとはいえこの人数をあの速度にされると一気に魔力を持ってかれちまう。〈逆鱗の〉はもっと広げられるだろう? ヒーラーが足りなくなるな」


 薄青く透き通る美しい妙薬を飲み干して彼は口元を拭う。


 けれどファルーアが首を振った。


「おそらくあの精度を出せるのはハルトだけよ。狙った魔力を一網打尽になんて、通常の『浄化』ではできないと思うわ。〈重複のカナタ〉くらいの実力者ならやれるかもしれないけれど、範囲バフを使うのだってそのふたりしか見たことがないし、そもそもバッファーが足りない。不人気職だもの」


「えぇ……それ地味に傷付くんだけど……?」


 思わず突っ込むと妖艶な笑みを浮かべ、彼女は続けた。


「とにかく。うちの最高のバッファーが隣の大陸(トールシャ)で精度を磨いたのだからこれは当然の結果ね。問題は魔力回復の妙薬がそれほど出回っていないことかしら。ヒーラーの分も必要になるわ」


「それであれば僕のほうで手配しておこう。他国とも連携しておく必要があるからね」


 シュヴァリエが言うとアイザックが頷いてみせる。


 すぐに立ち上がって出ていく黒ローブの厳ついヒーラーを見送り、俺はなんとなく気恥ずかしさを感じながら口を開いた。


 急に褒めるんだもんなぁ、不意打ちすぎるだろファルーア。


「えぇと。ところでナーガ。アルミラさんは大丈夫だったのか?」


「ええッ⁉ それナーガに聞くの?」


 突っ込んだのはボーザックだけど、シュヴァリエの後ろで影のように控えている黒髪の女性は紅い吊り目を伏せた。


「会っていない。荷物を取りに行ったのは違う場所」


「いや応えるのかよ――って待て待て、おい、じゃあ姉貴は……?」


 しっかり反応してから問い掛けるグランに、ナーガは僅かに首を振る。


「アルミラさんと冒険者にタトアルを任せてあるって〈爆風〉から聞いた。おいシュヴァリエ、少しここを頼む。グラン、皆、見にいこう」


 俺が言うとグランがすぐに動き出す。


 するとシュヴァリエが一歩踏み出してディティアの前に立った。


「〈疾風の〉。少し話があってね。時間をもらえるかい?」


「え、私……ですか?」


「…………」


 本当なら無理矢理にでも割って入りたかったけれど、どうもシュヴァリエは真面目な話がしたいように感じる。


 いや、俺が知るか! とも思うんだけど……ああくそ。


 俺が思いきり顔を顰めていると、なにを思ったかシュヴァリエがキラキラした笑顔をこっちに向けた。


「安心してくれたまえ〈逆鱗の〉。今回は残念ながら〔グロリアス〕への勧誘ではないのでね。少々確認しておきたいことがあるだけだ」


「……安心要素なんてどこにもないだろ。ひとつ教えろ。それは俺たち〔白薔薇〕全員で聞くことはできないのか?」


「君たちにその資格(・・)はないよ」


「……ッ」


 なんとなくだけれど、わかっていた。


 断られること、拒否されることが。


 それはきっと俺たちの血が……魔力が関係しているんだろうから。


 ディティアがどこか悲痛な顔をして俺を見る。


 そのエメラルドグリーンの瞳が悔しげに眇められるのが見える。


 俺は黙っているグランたちに先に行けと促してシュヴァリエに体ごと向き直った。


「なら〔グロリアス〕は全員その資格があるのか?」


「……ふ、言ってくれるね」


「お前にはある、俺にはない。当ててやるよ。……始祖はお前たちの血を――そのなかの魔力を使って操るんじゃないか? そのときどうするか、その話だろ」


 セウォルはディティアに対していい匂いだとか言っていた。


 あれが古代の魔力のことなのだとしたら自ずと繋がる話だ。


 シュヴァリエの蒼い瞳が俺を真っ直ぐ見ていたから、俺は背筋を伸ばして真っ向から視線を合わせる。


「俺は資格なんてなくてもやってきた。皆で考えてきた。トールシャのアルヴィア帝国でもそう。キィスヘイム=アルヴィアの病だってなんとかなる、絶対に。知ってるだろ、その方法を探して――俺がここまできたんだってこと! だからお前だろうとなんだろうとッ! どんなことがあっても治してみせるッ! だからそんな話は必要なんてないだろ!」


 キィスはシュヴァリエと手紙のやりとりをしているはずだ。


 そこにカナタさんを手配したのは目の前の嫌味な騎士本人なんだから、知らないはずがない。


「……ふ」


 けれどそこでシュヴァリエが笑った。


「なんだよ!」


「いや、たしかに君と同じ結論には至っているし、どうするかの話だというのも間違いない。実は彼女ほどの者が万が一にも操られた場合を考えて組織している部隊があってね。その参加の打診をしようとしたんだ〈逆鱗の〉」


「は……? はぁあ⁉ ふっざけんな! 結局勧誘かよ⁉」


「ふふ。君の啖呵はなかなかだったよ。勿論、先程のバフも必要になるが、そもそも操られている者の動きを止めなくてはならないだろう? 〈疾風の〉の動きを止めるのは容易いことではないはずだ」


「ぐ。それは……」


「ああ、それと。別に君たちを評価していないわけじゃないから安心してくれたまえ」


「…………は?」


「操られるような資格など、ないほうがいい。そうだろう?」


 俺はあれだけ大口を叩いておきながら、情けないことになにも返せなかった。


こんばんは!

クリスマスが終わりそうですね、一気に年末ですね……

信じられない。

よろしくお願いします!

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