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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
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自棄は強さを求むるため⑤

「……はー。わかった、やるよ」


 俺は思いっ切りため息を吐き出して視線を上げる。


『グウゥ、グ』


 元の色はわからないが呻いている女性の瞳は紅い。


 傷付いても戦おうとする姿が痛々しい。


 けれどその体に剣を突き立てているシュヴァリエは冷静だ。


 笑みすら浮かべているのが腹立たしいのに、それがまるで――「やれるはずだ」と、そう言っているみたいで。


 悔しいけど乗せられてやろうと思ったんだ。


「頼むぞ、アイザック」


 俺は震える右腕を上げ、手を広げる。


 大丈夫。今度こそ。


 瞬間、俺の左手がぎゅっと掴まれた。


「こ、今度こそッ! ちゃんと私も一緒に背負うから!」


「うわっ、えぇっ、ディティア⁉」


 び、びっくりした……。


 彼女の両手で包み込まれた左手は温かい。


 ディティアときたら眉根をぎゅっと寄せ、眉尻はすっかり下がっている。


 口元なんか必死に結ばれていて、俺は思わず頬を緩めた。


「ふ、ありがとな」


 とはいえ……なんだろ、なんかちょっとむず痒い……というか。


 これはこれで緊張する、というか?


「……あー、ボーザック」


「ん? 俺?」


「お前も、その、手置いてもらっていい?」


「……ぶはっ! えぇッ?」


「ぐ、グランとファルーアも! 悪い、頼む!」


「わあ、うん! 皆一緒だもんね!」


 なぜかディティアが意気込むけど、照れくさかったなんて口にできない。


 ボーザック、グラン、ファルーアは顔を見合わせて笑うと俺とディティアの手の上にポンと手を載せてくれた。


「お前ら相変わらず仲いいな……」


 アイザックが呆れたように呟いたけど無視だ無視!


 それに、なんか、うん。


 効果抜群だ。


 俺は皆に励まされ支えられているような気持ちになってしっかり頷く。


「いくぞ! 『浄化』ッ!」


 瞬間、壁に縫い留められた冒険者らしき女性が絶叫する。


 同時にアイザックの掲げたとげとげしい杖が柔らかな光を発し、彼女を包み込んだ。


 傷らしい傷が広がる前にどんどん塞がっていく。


 その血がこぼれる一瞬の間さえ与えない。


「いけるかアイザック……!」


「大丈夫だよ〈逆鱗の〉。この程度なんとかできない者が〔グロリアス〕を名乗れるはずがないのだから」


「うるさい! お前にはッ、聞いてない……ッ!」


「ふふ、余裕そうだね〈逆鱗の〉。ではここにいる全員を一斉になんとかしてしまおう。魔力回復の妙薬は足りそうかい、研究者殿?」


「すごい、すごい、かな……! こんな方法があるなんて! アルミラの在庫はこの人数なら十分だと思うよ」


 爽やかな笑顔と空気を振り撒くシュヴァリエに問われ、デミーグさんが眼をキラッキラさせながら応える。


 シュヴァリエは頷くと扉を指さした。


「ならばすぐに持ってきてくれたまえ。……〈迅雷の〉、彼の護衛をお願いできるかい」


「はい、お任せください〈閃光のシュヴァリエ〉様」


 は? 〈迅雷の〉? 〈迅雷のナーガ〉?


 しゅっと視界に入ってきて俺と一瞬視線が交わったナーガは、小さく頷いてみせる。


 任せてくださいと言われたような気がして頼もしい。頼もしいけど……いつからいたんだよお前……っていうかどこから?


 少なくともボーザックは俺と同じこと考えてるな。


 ……とにかく。俺は俺のやることをやらないと。


 デミーグさんとナーガが部屋を出ていくのを最後まで確認せず、俺はフーッと息を吐いて意識を集中する。


「バフ広げるぞアイザック! 無理なら言えよ!」


「お前こそ無理なら言えよ〈逆鱗の〉? 俺はまだまだいけるぞ!」


「了解。なら……『浄化』、『浄化』ぁッ!」 


 広げたバフが昏倒していた奴らを包み込む。


 俺は縫い留められた冒険者らしき女性も含め、全員が『浄化』の二重になるように調整した。


「おらぁっ! いくぞヒールッ!」


 アイザックのヒールがぶわぁっと光を放ち、片目を瞑りやり過ごす。



 ――そうして。



 シュヴァリエが剣を収め、アイザックのヒールがすべての傷を癒やしたところで俺はバフを解いた。


「……ふう……」


 使えた。


 ちゃんと、バフが。


 息をついて右手を握り締める。


 今度は――大丈夫だった。傷付けずに……いや、傷付けても助けてもらって。


 ああ、そうか。俺だけじゃ駄目だったんだな。


 視線を移すと……ディティアが瞳を濡らして唇を引き結んでいる。


 ほかの皆も困ったような安心したような笑みを浮かべた。


「もう大丈夫。ありがとな。一緒に背負ってくれて」


 左手の温もりが支えてくれてる。それがよくわかる。


「うん……うん! よかった、ハルト君……!」


「ハルト、俺、結構心配したかんねー」


「あまり抱え込まないで頼りなさい?」


「まったくだ。なにもしてやれねぇのも(こた)えるんだぞ」


 ボーザック、ファルーア、グランがゆっくり手を放す。


 最後にディティアの手が離れ、俺は彼らに笑みを返した。


「あとは魔力回復の妙薬だね。強くなりたいが故に自棄になるのも程々にしてほしいところだけれど……よくやってくれた〈逆鱗の〉」


 そこにシュヴァリエがキラキラした笑顔を向けてくる。


 爽やかな空気に身震いして俺は鼻を鳴らした。


 程々にしてほしいところだとか、よくやってくれたとか、いちいち上からなのはイラッときたけど……。


「ふん。一応、礼は言っとく。一応な!」

昨日更新のつもりが一瞬で寝落ちしました……

よろしくお願いします!

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