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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
782/845

自棄は強さを求むるため③

******


「凍りなさいッ! あと少しよ。気張りなさいグラン!」


「おぉよっ!」


 ファルーアが足下を凍らせ動きを止めたところを、グランが大盾でぶん殴る。


 彼ら(・・)はやはり熟練の冒険者だ。自身の武器や防具でしっかりと防御姿勢を取った。


「このひとたち本当に強いね……また動き出したってことはセウォルがいるってこと? たあぁッ!」


「その可能性はあるね。早く眠らせてハルト君のところに戻らないと!」


 大剣でぶった斬るわけにはいかないため彼らの動きを止めることに専念しているボーザックの横、吹き抜けた疾風が着実にその意識を狩っていく。


 舞い踊る双剣の軌跡は〈爆風のガイルディア〉とはまた違って軽やかで華があった。


「あっは! ティアってやっぱり強い!」


「ボーザックが足止めしてくれたお陰! あとひとりだよ!」


 背後で壮絶な戦闘が行われているが、デミーグは手元に視線を落として完全な集中状態にあった。


 薬を完成させなければ、なにも終わらないからだ。


 自我を失った者たちが再び暴れ出したとき、彼は咄嗟に攻撃魔法を放った。


 しかしすぐに追い詰められ、〈疾風のディティア〉が駆け付けてくれなければ死んでいただろう。


 だからこそ、集中しなければならない。


 けれど――。


 ズンッ……


 視界の端、壁に自我を失った女性が叩きつけられたため、さすがに視線を動かした。


『グウゥゥ』


 こぼれる呻き声はまるで魔物だったけれど、デミーグは彼女の肩に刃を突き立てている人物に意識を持っていかれる。


「さて〈逆鱗の〉。君のバフを試してくれたまえ」


 銀色の髪に煌めく蒼い瞳。


 艶消し金の鎧と美しい蒼のマント。


「はあ……これが騎士、かな?」


 思わずこぼすデミーグに、騎士はキラキラと微笑んでみせた。


******


「は? お前なに言って――」


 シュヴァリエのひとことに体が強張る。


 本気で言っているのはわかったけど――俺の話聞いてそれを言うか?


「その眼をはっきり開いてよく視るといい。僕の剣とて彼らを傷付けるのに十分だ。〈光炎の〉や〈爆炎の〉の魔法とて君のバフとなんら変わりない。――それにほかの村や町でも同様に戦いが起きている。誰しもやられるのを待つつもりはない――最後まで言わなくてもわかるだろう?」


「そ、れは……」


 つまり、皆が互いを傷付けあっている。命のやり取りも含めて。そういうことだ。


 そんなこと言われなくてもわかっているのに、いざ口にされると背筋がすうっと薄ら寒くなる。


「君の名付けを行った者として君の行動の責任は僕が取ろう。さあ」


 シュヴァリエは女性を壁に縫い付けたまま、余裕綽々の顔で言い切った。


 だけど。


 その言葉が、行動が、俺には許せなくて。


「お前……自分の言っていることわかってるのか? なにが責任だよ。名付け? 好きでもらったんじゃない!」


 その強さがありながら抗いもせず、狩ることを優先するような、そんな言葉に誰が頷いてやるか。


 一発殴ってやる……!


 不快な気持ち悪さなんか忘れていた。


 頭の奥がカアッと熱くなって、本気で腹が立って。


「ま、待ってくださいシュヴァリエ! ハルト君にそんなこと――むぐぅ」


 言いかけたディティアの口をデカい手で塞いだのはグランだった。


 俺はグランに頷いてそのままズカズカと部屋を進む。


 そこかしこで昏倒している奴らは皆がやってくれたんだろう。


 俺たちのやり方が正しいかなんてわからない。だけど、シュヴァリエのやり方は絶対に認めない!


 シュヴァリエは向かっていく俺に、いつものキラッキラした爽やかな笑みで応えた。


「ふ。バフもなしに僕を殴れるとでも? 舐められたものだね」


「ふん! ならお望みどおりに思いっ切りやってやるよシュヴァリエ! 『肉体強化』『肉体強化』『速度アップ』――ッ!」


 振りかぶった右腕、その拳をギリリと握る。


 だけどその瞬間。


 シュヴァリエは俺から女性が見えるように半身をずらした。


「〈閃光の〉と付けてくれてもいいよ、〈逆鱗の〉。さて〈祝福の〉。ありったけのヒールで〈逆鱗の〉を援護してくれるかい?」


「おう。任された! やれ〈逆鱗の〉!」


「……はっ?」


「ふふ。さすが君の逆鱗は反応がいいね。名は体を表す……素晴らしい言葉だと思わないかい〈逆鱗の〉? 聞いてのとおり〈祝福の〉が君のバフを援護する。それで肉体の崩壊を防げないか試そうか」


「え、は?」


 混乱する俺に、ファルーアがため息をこぼす。


「最初からそのつもりだったのよ〈閃光〉は。ハルト、今度は私たちもいるわ。駄目ならすぐにバフを消せばいい」


「そうだねー。なんなら俺、手繋いであげようかハルト?」


 ボーザックが笑うと、グランの手から解放されたディティアが慌てたように手を挙げた。


「え! えっと? そ、そうだったんですか? え、それなら私も……!」


 ……ディティアは違うみたいだけど、まさか皆、気付いてたのか?


 恐る恐るグランを見ると、彼はいつものように顎髭を擦りながらニヤリと口角を上げる。


 嘘だろ……格好よく頷いてみせたぞ俺……。


 するとデミーグさんが眼を輝かせながら声を弾ませた。


「なるほど、バフと同時にヒール! それなら体への負担を減らせるかもしれない、かな! ヒールで修復した箇所が変質前に戻るならあとは魔力だね。始祖の魔力が破壊されていくとして、たしかアルミラが魔力回復の妙薬を買い込んでいたはず、かな。それを使ってみよう!」


 俺は聞きながら思わず自分の手を開き、まじまじと見つめた。


 そういえば俺、さっきバフを使えた……?


 ちらと視線を戻すと、爽やかな空気がぶわあっと頬をなぶった。


 くそ、なんだよ! 普通に言えばいいだろ! ふざけんな!

 

こんばんは!

いつもありがとうございます。

応募用に別のお話を投稿開始しましたが、

こちらも継続です!

よかったらどうぞー。

よろしくお願いします~!

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― 新着の感想 ―
[一言] さすが名付け親、ハルトの事よく分かってるww扱い方がうまい
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