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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
778/845

知己に思いを馳せるため⑥

「えぇっと……どういうこと?」


 ボーザックが眉をぎゅっと寄せると、デミーグはするすると言葉を紡ぎ始めた。


「感染って例えたけれど、自我を失ったり昏睡状態になるときに彼らの体は蝕まれて『変化している』かな。風邪を引けば喉が痛んだりするでしょう? それと同じで、魔力が変化するってことは体そのものにも影響が出るんだ。〈逆鱗〉君のバフはその変化したものすべてに効果を発揮して――ああなったってこと、かな」


 そこで言葉を止めてゆっくりと振り返る彼の手には小瓶があって、紅い液体が揺らめいていた。


「アルミラや僕程度なら多少具合が悪くなるくらいで済むかもしれない。でも自我を失うほど蝕まれた相手はそうじゃなかった。完全に読み違えたよ」


「僕程度って……そうだったわね。貴方は自分を使って実験しているって話だった」


 ファルーアが腕を組んで言うとデミーグは小瓶を揺らす。


「これはタトアルの血。僕やアルミラの血とも〈爆風のガイルディア〉の血とも違う、かな。彼らは始祖で間違いない。自我を失ったひとの血はタトアルに近い状態でね。僕の見立てどおり始祖は僕たちの血を――正確には魔力を始祖に近いものへと変質させる、かな。その結果、昏睡状態か自我喪失かに分かれるんだ」


「昏睡状態になるか自我喪失するかの条件もわかったのか?」


「おそらく古い血、その魔力量、かな。〈逆鱗〉君が活性化しようとしていたでしょう? あの魔力が始祖の魔力に変質する素なんだ。だからその血が濃いと自我を失うほどに蝕まれる、かな。薄いと中途半端な変質に耐えられず昏睡する」


「……つまり王族たちはとくに危険ということね。それに〈爆風のガイルディア〉や、たぶんティアも」


「うん。セウォルが言ってたよね、俺たちは弱い匂い、ティアはいい匂いって。あいつ、匂いでわかるんだ」


「ああ。連れてきた奴らはそれなりに強かったが始祖の血で補強されているだけじゃねぇってことだ。〈爆風〉やディティアほどじゃねぇにしても、元々似たような奴らってことだな」


 ファルーア、ボーザック、グランはそれぞれ口にして頷き合った。


「これだけわかれば対策は取れるかもしれないわね。あとは感染の方法だけれど、デミーグ。なにかわかっているのかしら?」


「そっちも予想できてるよ。血と血の触れ合い、かな。傷から傷へ、それが一番有り得る。タトアルにある犬歯、長いでしょう? 口のなかを傷付けて噛みついて流し込むんじゃないかな。彼らが吸血鬼なんて口にしてたのは半分本当ってことだね」


「犬歯って……さすがにそこまでは見てないなぁ俺……」


 ボーザックはため息混じりにこぼして頭をガシガシと掻き回した。


「ねえ、ハルトへの謝罪って言うなら薬にも目処は立ってるんだよね?」


「うん。彼らの血、その魔力を不活性化するように調整して流し込むかな。その過程で元々の魔力に戻していくようにする。そうすれば自然と体も治ると思う。魔物の始祖から作った薬が僕たち人間には似たような効力を発揮しているね。残念ながら始祖人によって古代魔法のための魔力を高める研究は難しい局面ってことになる、かな」


「…………わかった。とりあえずデミーグさんの言葉を信じる。だけどハルトにやらせたことは許さない」


「あんなことをさせてしまったのは謝罪する、かな。でもひとつ伝えておくね。僕は不要なことだとは思っていないよ。アイシャでなにが起こっているかはわからないけれど始祖が脅威であることは明らか、かな。その対抗手段は必ず要る」


「それでも。俺たちはハルトのことをデミーグさんよりずっと知ってる。ハルトが苦しむってわかってたなら、最初から対策してた。離れなかった」


「そうだな。ともに背負ってやらねぇでなにがパーティーだって話だ。あんたは姉貴の恩人だが、今回のは悪手だぞ」


「覚えておく、かな。……ひとつ僕も聞きたいことがあるんだ。君たちはいまも〈逆鱗〉君に思いを馳せているけれど、目の前で大惨事が起こっていたら――〈逆鱗〉君はどうするのかな」


 デミーグさんはボーザックとグランの言葉に小瓶を置くと、別の小瓶を取り出して背を向ける。


 グランとボーザックは唇を引き結んだ。


「それじゃあ専念させてもらう、かな。……あと、そうだ。自我を失ったひとたちは操られてしまったんだよね? いまは操られていないから条件があるはず。近くにいないと操れないと仮定するなら始祖人を見つけるのはかなり楽になるかもしれない。対策はアルミラと練っておいてね」


「……ええ。わかったわ。それと彼らの治療に使える攻撃魔法を教えてくれないかしら? 薬ができるまでにやれることはやりたいわ」


「うん、それは助かる、かな! 僕だけじゃ手が足りなくて困っていたんだ」


 ファルーアはグランとボーザックより一歩前に出ると、ふたりを肩越しにちらりと見た。


「タトアルのところへ行って。……ああ、安心して、消し炭にはしないわ?」


「……お、おう。頼んだ」


「うん。ありがとうファルーア」


 出ていくふたりを見送ることなく、ファルーアは龍眼の結晶が填まった杖をくるりと回す。


「それじゃあ、すぐ始めてもらえるかしら?」


「うーん。すごく物騒な台詞が聞こえた、かな……?」



こんにちは!

風邪がぶり返してしまい声がカスッカスです。

皆さまも喉をお大事に……

本日もよろしくお願いします。

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