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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
777/845

知己に思いを馳せるため⑤

******


「……ハルト君、眠ったみたい……」


 か細い声で伝えながら、ディティアが後ろ手で扉を閉める。


 小さな部屋のソファで髪を弄んでいたファルーアは彼女を手招きして隣に座らせ、抱き寄せた。


「そう。ミラの薬が効いたのね」


「……私、なにもできなかった……」


「大丈夫よティア。少し休めばハルトも落ち着くわ」


「……う、うぅ……」


 ディティアは大粒の涙を落とし、ファルーアの肩に頬を埋める。


 ハルトのバフで体中に傷を負った男性は治療を終えたいまも昏睡状態だった。


 そしてハルト自身は自分のバフがそうさせたと理解し、激しく動揺して吐いたうえに錯乱状態になってしまった。


 グランがなんとか押さえてアルミラの薬を呑ませ、ようやく眠ったところである。


「ティアはハルトのそばにいてあげなさい。それがハルトのためになるわ」


「……ファルーアは、どう、するの?」


「グランとミラたちがタトアルに口を割らせようとしているし、デミーグはタトアルの血から治療薬を作るのを急いでいるようね。だから私はデミーグから攻撃魔法を教わって残りのひとに使うつもりよ。もちろん問い詰めてからだけれど」


「……え?」


「ハルトのバフでこうなる可能性に気付いていないはずがないわ。それをあんな簡単にやらせた――グランとミラの恩人だとしても返答によっては許さない」


「……。ねえ、ファルーア。私……」


 ディティアは抱き寄せられた体を起こし、涙を腕でごしごしと拭ってから真っ直ぐファルーアを見る。


 ハルトのバフが与えた効果を目にして慄いたのと同時、彼女の胸にはある考えが生まれていた。


 そしてそれが、いまも胸の奥でじくじくと燻っているのだ。


「もしかしたら『浄化』のバフは始祖人(しそびと)の脅威になるんじゃないかって思ったの……ハルト君が息を呑んでいるあいだに、私、そんなことを考えてた。……デミーグさんは……私と同じことを考えてやらせたのかも」


 考えてしまったことで、ハルトへの贖罪の気持ちが膨らんだ。


 赦されたいとも思った。


 でもそれは、きっとずるい。


 直接手を下すわけじゃない自分だからこそ見出せた考えだ。


 ハルトはただ助けたくてそうしたのに。


 苦しむハルトの重荷をなにひとつ一緒に背負っていなかったのだと、ディティアは痛感していた。


 けれどファルーアはディティアの額を指先でぴしりと弾くといつもの妖艶な笑みをこぼす。


「だとしたら、なおのことハルトのそばにいなさい」


「え?」


「最初から聞いていたら、わかっていたら、ハルトもティアも対策を練ったわ。私だってそうよ。まったく……なにも考えなかった自分自身にも腹が立つわね。だから素直にハルトに寄り添ってあげて。一番近くにいる貴女が。いいわね?」


「……ファルーア……。うん、わかった」


 ディティアは弾かれた額をそっと押さえ、唇を引き結んでしっかりと頷く。


 ファルーアはそんなディティアの髪をハルトがするようにわしわし撫でると、立ち上がって出ていった。


 ――ハルトもティアも傷付いた。ことによっては問い詰めるだけじゃ済まさないわ。


 そんな決意を胸に。


******


「おう、ファルーア」


「あら? グラン、ボーザック……? ……そう。貴方たちも」


 デミーグのいる部屋の前、まさに乗り込もうと意気込んでいるグランとボーザックにファルーアは苦笑する。


 どうやら同じことを考えたらしい。


 するとボーザックがファルーアの後ろを確認し、口にした。


「ティアは大丈夫……?」


「ええ。ハルトに着いているよう伝えといたわ。……先に聞くけれど『浄化』のバフが始祖人(しそびと)対抗策になりうることはわかっているわね?」


「ああ。セウォルとタトアルが始祖人じゃねぇとしても、俺たちとは別の種族には違いねぇだろうよ。操る人間だけに効くのか、本体に効くのか、どっちにしても痛手を与える手段になる」


「そうだね。だからってバフを使わせるかどうかはまた別の話だけど。……俺はハルトを犠牲にしたやり方を許さない」


 真剣なボーザックの言葉にグランもファルーアも頷きを返し、三人は確認もせずに扉を開けた。


「デミーグ!」


「……わかっている、かな。さすがに返す言葉もないよ」


 どうやら聞こえていたらしい。


 デミーグはこちらに背中を向けたままそう言った。


 なにかの作業の途中らしく、彼の腕は針に糸を通すような繊細さで慎重に動いている。


「背中越しで申し訳ない、かな。でもこれは僕なりの誠意だ。一刻も早く治療薬を完成させるよ。それが彼への謝罪かな」


「ふん、そこは反対しねぇし咎めねぇよ。それで? あんた最初からわかっていてハルトにやらせたのか?」


「……正直、彼のバフを過小評価していた、かな。あそこまでの効果は予測していなかったんだ。僕の全力の攻撃魔法でもあんなに酷い傷にはならないよ。彼のバフはすべての原因を滅する力があった、かな」



皆さまこんにちは!


なんと777話になりました!

めでたい!


1000話までには書き切れそうかな。

引き続きよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] スリーセブン!! おめでとうございますぅぅ!!
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