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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
775/845

知己に思いを馳せるため③

******


 乾いたパンと肉をかじり温かいお茶で胃に流し込む。


 俺は黙って考えを巡らせた。


 広げた『治癒活性』のバフが効いたってことは、タトアルは魔物ではない(・・・・・・)


 だとすればデバフも使えるはず。ここぞってときまでは温存しておこう。


 それにセウォルだ。わざわざタトアルを呼んだってことは、あいつの眼は眠らせることはできないのかも。


 いま俺たちの近くに転がされている十数人の『誰か』たちはセウォルの命令で動いていたような気がするから、魅了みたいな力が使えるのはセウォルって可能性が高い。


 しかもディティアのこと欲しいってどこぞの騎士みたいなこと言ってたし。


 ……まあ、絶対に渡さないけど。なんとなく腹が立つ。


 そういえばタトアルも命令に従ったけど――もしかして彼も操られてるってことは……? いや、眼を見るだけで眠らせるなんて普通はできない。


 やっぱりセウォルとタトアルは俺たちとなにか違う。


 俺は乾いたパンを口に運び、その香りが鼻を掠めた時点でふと止めた。


 最初に捕まえた男は自我を失った状態で真っ直ぐにセウォルのところに行こうとしてたけど……もしかしてこいつらも同じように集まったのか……?


「……なあフェン。お前が辿ってくれた匂いってセウォルの匂いか?」


 思わず聞くと、身動いだタトアルの頭をボーザックがしたようにドンと踏み付けたフェンがこっちを向いた。


「えぇと、セウォルはわかるよな」


『がう』


「セウォルの匂いに、最初に捕まえた男は引き寄せられてたと思うか?」


『がう』


 フェンは肯定するように頭を上下させると、タトアルの匂いを嗅いでみせる。


「ん、もしかしてタトアルも同じ匂いか?」


『がうがう』


 これは朗報だ。


 俺はフェンに頷いてからグランを見た。


 フェンなら始祖人(しそびと)がいれば嗅ぎ分けられるってことだからな。


 グランは顎髭を擦りながら瞬きをひとつ返し、タトアルの近くに移動して腰を降ろす。


「……久しぶりだなタトアル。バレちまってるから言うが、姉貴から全部聞いてるぞ。よくも騙しやがったな」


「……」


「セウォルに見放されてもその態度か。念のため聞くが、ここにいた理由を話す気はねぇか?」


「……」


「お前らがなんなのかは知らねぇ。でもな、絶対に思い通りになんざさせねぇぞ。……まあまずは姉貴に一発殴られろ。話はそれからだ」


「……」


 唇を固く結んだタトアルにグランはふんと鼻を鳴らし、ポンと膝を打って立ち上がり背筋を伸ばす。


「フェン、ボーザック。お前たちで先にこいつを連れていけるか? さすがに全員を担いで歩くわけにもいかねぇしな。姉貴に引き渡したら応援を連れてきてくれ。ヒーラーがいればそいつもだ」


「了解。そうと決まればすぐ行くよ。ここから麓までそんなに遠くないし。フェン、タトアルひとりくらいなら運べる?」


『がう』


 フェン、でかくなったもんなぁ。


 俺が考えているとディティアが眉をハの字にして唸った。


「うう、それフェンに乗せるってこと、だよね……? そ、それは少し羨ましいような……」


 頬に掛かる横髪を両手の指先でちょんちょんと弄りながらの台詞。


 フェンが大きいせいで小動物感がさらに増したなと頬を緩めると、タトアルを踏んでいるフェンが尻尾でディティアをもふもふと叩いた。


「わ、ふふ、慰めてくれるの? ありがとうフェンー今度私も乗せてね?」


『わふぅ』


「よし。じゃあ行こうか、フェン!」


 和んだところでボーザックがタトアルを担ぎ上げてフェンに縛り付ける。


 俺はそれを手伝い、デミーグさんへの伝言を頼むことにした。


『浄化』のバフを試していいか教えてほしい、ってさ。


 勝手に試してなにかあったら困るし、デミーグさんなら判断できるだろう。


 別行動で戻っている〈爆風〉が先に到着しているだろうしな。


「『五感アップ』『速度アップ』『脚力アップ』」


 俺はボーザックとフェンにバフをかけ、その背中を見送った。


******


 さて、真っ暗で静かな夜中を交替で見張りをして過ごし、翌朝。


 ギルドに依頼して何人かの冒険者を手配してもらい、ボーザックと〈爆風〉が戻ってきた。


 ちゃんとヒーラーを連れてきてくれたんで眼が紅くなっている十数人の『誰か』は無事に舌を取り戻したんだけど。


 こいつら、全然喋らないし、ほとんど動きもしないんだよなぁ。


「話しかけても駄目だったね、反応もしてくれない」


 出発の準備をしながらディティアが口にする。


 俺は肩を竦めて自分の寝袋をギュッと纏めた。


「デミーグさんがなんとかできるって信じよう。『浄化』はデミーグさんの前で試してほしいってことだったし」


「アルミラさんと同じように治せるといいね。タトアルから薬ができればもっといいのかな」


「……うん。その血が危惧するものじゃなければなお良しってところだな」


 そうして俺たちはそれぞれひとりずつを背負い、汗水垂らしながらニブルカルブまで帰ったのだった。


 バフがなかったらもっとしんどかったと思うとゾッとするな……。


 ちなみに、皆と相談して俺が落とした魔物も縛って連れていくことにしたんだ。


 なにかわかれば、と思ってさ。

よろしくお願いします!

いつもありがとうございます✨

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