表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
774/845

知己に思いを馳せるため②

「……耐えた? そんな馬鹿な」


 こぼすセウォルに向けてグランが大盾を振り抜く。


 ゆらりと身を躱したセウォルの頬、僅かに盾が掠った。


「さすがに想定外だな」


 痛みなど微塵も感じないのか続けざまに言うと、セウォルはゆっくり目元に右手を当てる。


 するとその瞳が文字通り紅い光を帯びて夜闇にくっきり浮かび上がった。


「完全に侮っていたよ。そこまで対応されているなんて――アルミラちゃんが俺の顔をぶん殴りたいってのが本気ってことか。ちゃんと忠告したのにな、残念」


 瞬間、小さな気配が寄り集まって上空から一気に舞い降りてくるのを感じ、俺は咄嗟に空を仰ぐ。


 ……なんだ?


 月明かりのなかに見えるのは、闇の塊が帳を降ろそうとしているかのような『なにか』だ。


「くそっ! なんだこいつらは! ぐぅッ」


 塊はバタバタと無数の羽音を響かせながらセウォルを包み込み、その傍ら、大盾で体を守るグランが唸った。


「斬り裂きなさいッ!」


 ファルーアの一撃が塊の一部を弾けさせたけれど、それはまた寄り集まって上空に舞い上がる。


 当然、そこにセウォルの姿はない。


 俺は咄嗟に踏み出し、一気にバフを練り上げた。


「『脚力アップ』『脚力アップ』――グランッ!」


「!」


 このときの感覚は……そう。


 もう遠い昔のように思える『飛龍タイラント』討伐……あの感覚だ。


 グランの大盾に足を掛け、思い切り撃ち出してもらって――。


「うおおおおぉ――ッ」


 上体を思い切り反らし、自身の体重を載せて。


「逃 が す か あぁッ!」


 ズダアァァンッ!


 振り下ろした双剣が闇の塊を撃ち抜いた。



 ……けれど。



 地面に叩きつけられてバタリバタリと暴れるのはセウォルではなく、俺の腕ほどの小さな魔物。


 翼膜のある羽と二本の後ろ脚は龍と蛇を併せ持っているように見える。


「ふーん。いいもの見せてもらったな。……ああ、そいつらは邪魔だから処分しておくよ。ひひ、それじゃまたね」


 着地した俺のはるか上空からセウォルの声が響く。


 苦い気持ちに唇を噛んだとき、ディティアの悲鳴にも似た叫びが木霊した。


「なにを――だ、駄目ですッ! 駄目! やめて!」


 タトアルだけじゃない。


 地面に縫い留められた十数人が、一斉に口をぽかりと開けて――ゾン、と閉じた。


 聞いたことがないような音に息を呑む。


「くそったれ! 舌を噛みやがったッ! 処置だ急げ――ッ」


 グランが弾かれたように駆け出す。


「……っ、『治癒活性』『治癒活性』『治癒活性』ッ!」


 その光景は四肢が竦むほどに恐ろしく、寒気を感じるほどで。


 だけどバフを広げられたのは――たぶん気持ちが先走ってくれたからだ。


 助けたい、助けなければ。その気持ちが俺を突き動かしてくれたから。


「繋がってるならいい! また舌を噛まねぇように口を縛れ! 繋がってねぇやつは気道確保! ボーザック! タトアルは任せたぞ!」


「わ、わかってる……!」


 グランの的確な判断と指示。


 俺たちは手分けして処置にあたり、冷や汗でびっしょりになりながら必死で手を動かした。


 幸い、それ以上暴れる奴はいなくて――誰ひとり死なせることはなかったんだ。



 だけど処置が終わったあと、しばらくは誰も口を開けないくらい憔悴していた。



******


 命を絶つ、その行為をなんの躊躇いもなく実行するってことは、やっぱり彼らに自我はないんだろう。


 セウォルの指示に従っていたように見えたし一種の魅了状態なのかもしれない。


 タトアルの眼はひとを眠らせるようだけど、それも同じだろう。


『精神安定』で回避できたのも、なんらおかしくはなかった。


「…………とりあえずひとり捕まえたわね」


 温暖な大陸といっても夜になれば冷えもする。


 俺たちは焚火を起こし、念のために縛り上げた十数人の『誰か』をその周りに転がし、タトアルは目隠しもしたうえでフェンに見張ってもらった。


「そいつが始祖ならいいが――。ハルト、そいつらの傷はどうだ」


「ん、たぶんもう大丈夫……ヒーラーがいれば治せるんじゃないかな」


「結構バフ使ってたよね。ハルト君は平気?」


 グランに応えるとディティアが青い顔で聞いてきた。


「おう。ディティアも大丈夫か?」


「――うん、ちょっと驚いちゃったけど」


「無理するなよ。俺も皆もそばにいるから」


「…………」


 ディティアはその瞬間、双眸を瞠って薄く唇を開けた。


「ハルトってよくそんな言葉が出てくるよね……俺はちょっと口にできない」


 何故かボーザックから言われ、俺は首を傾げる。


「は? なんか変だったか? ……あれ、ディティア?」


「ちょ、ちょっと待ってねハルト君。心臓が……痛いです」


「え、心臓?」


 聞き返すと俺から目を逸らしたディティアは右の手のひらをこちらに向けて「なんでもない」と振り、深呼吸を挟んで顔を上げた。


「……と、とりあえず夕飯にしましょう! そんな気分じゃないとしても食べないと……!」



おはようございます!

働く皆さまいつもお疲れ様です!

本日もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ