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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
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知己に思いを馳せるため①

「やっぱりいやがったな、タトアル――!」


 グランが振り向きざまに大盾を突き込むと、茂る低木などものともせずに躱した男の黒ローブが夜闇にはためく。


 目深に被ったフードの下、白い肌と紅い瞳がちらりと覗いた。


 こいつ、ほかの奴らよりはるに気配が薄い。


 魔物でも、まして人間でもないような。


 武器はなんだと確認するより先、首すじがチリリとして飛び退いた俺がいた場所を踏み込んだ男の腕が薙ぐ。


「……ッ、鉤爪……!」


 その腕の先端、鋭利に研ぎ澄まされた爪が鈍く光った。


「影が薄いタトアルも覚えてくれてたのか? ひひ、中々記憶力があるなーグラン君」


 セウォルの馬鹿にした笑いが耳朶に触れると同時、グランはドンと右足を開いて笑ってみせた。


「はっ、安っぽい挑発になんざ乗らねぇよ! ディティア! 後ろを頼む! ファルーア、ボーザック、援護してくれ!」


「はいっ!」

「いつでもいけるわ」

「了解ッ」


 返事をして構える三人を見ることなく、グランは続けざま俺に視線を送って頷く。


「ハルト! 判断は任せた(・・・・・・)ぞ!」


「おう、任せろッ! 『肉体強化』『魔力活性』!」


 前者はファルーアを除いた全員、後者はファルーアに。


 俺のバフを合図に皆が一斉に地面を蹴った。


「はあ――ッ!」


 最初はディティアがタトアルへの一撃を繰り出す。


 右、左、くるりと体を回して右。


 タトアルは爪でそれを受け、滑るようにディティアの背後へ回る。


「ディティア!」


「――甘いです」


 咄嗟に声を上げた俺に目配せする余裕さえみせ、彼女は後ろ手で背後に左の剣を突き込んだ。


 黒ローブを刃が掠め、タトアルは跳ねるように大きく右へ移動してさらに距離を取る。


 フードの下はそれでも無表情のまま。


 けれど、ゆるりと腰を落とし地面を踏み締めた姿に警戒の念を感じた。


「私は大丈夫! ハルト君、皆を!」


「ああ!」


 ディティアに返した俺はさっと状況を把握する。


 セウォルの周りにいた十数人が立ち上がり紅い瞳を爛々と光らせていて、グランたちは迂闊に踏み込めない状況だ。


 気配はずっと色濃くなっていて、敵意や殺気が体中をピリピリさせる。


「突きなさい!」


 そこで唯一攻撃可能なのはファルーアだ。


 セウォルの立つ岩の周り、十数人の足下から石筍がボゴボゴッと突き上がる。


 彼らが一斉に飛び退いた瞬間、ファルーアは龍眼の結晶の填まった杖をくるりと回した。


「凍りなさい!」


 着地と同時に十数人の足下が白く煙って地面とブーツとを縫い留める。


 何人かは体勢を崩したけれど武器は構えたままで、ほとんどはしっかり踏み止まっていた。


 あいつら……捕まえた奴とは違うな。


 ちゃんと判断して行動しているし、狙いは俺たちだ。


 自我を失った状態でも戦っているってことか?


「いまよグラン、ボーザック!」


「おぉよッ!」

「たあぁぁ――ッ」


「『脚力アップ』――『肉体強化』!」


 俺は考えながら踏み切るふたりのバフを掛け変え、彼らがセウォルに肉迫したところで戻す。


 セウォルまでの道はファルーアによって開かれている。


 大盾を振り抜くグランの後ろからボーザックが大剣を閃かせ、どこか色彩に欠ける若い男は僅かに目を瞠って軽やかに後方へと跳んだ。


「なかなかどうして、いい連携だ。でも駄目だな、お前たちからは弱い匂いしかしない。ただ――タトアルとやってる子はいい匂いだ。あれは欲しい」


「はッ、気持ち悪ぃこと言うんじゃねぇよ!」


「……俺はアルミラちゃんが気に入っていたんだ。グラン君、お前たちじゃ無理だし、アルミラちゃんのためにもおとなしく退いてくれないか?」


「姉貴のためだ? ふざけてんじゃねぇぞ。あいつなら言うはずだ。『その顔ぶん殴らせろ』」


 振りかぶったグランの大盾をニヤリと笑って見つめる瞳。


「いいね、たしかに言いそうだ。……タトアル、来い!」


 瞬間、ディティアと対峙していた黒ローブが凄まじい速さで身を翻した。


「!」


 タトアルはハッとしたディティアも、その近くにいた俺も、魔法を撃ったファルーアも無視してグランとボーザックに向かう。


「眼中に無しとか本当に腹立つな。でも――」


 俺は手を上げてバフを練る。


「『速度アップ』『速度アップ』! いけ、フェン(・・・)ッ!」


 投げたバフに向けて茂みから白銀の月がひらりと舞い踊り、その鋭い牙が並んだ顎が開かれる。


 月は銀色の風となって黒ローブの背中に喰らいついた。


 押し倒されたタトアルの喉元にボーザックが大剣を突き出し、フェンは喰らいついたまま前脚でタトアルの背を押さえる。


「な……フェンリルだって?」


「っは! いい顔すんじゃねぇか? なあセウォル!」


 双眸を見開くセウォルの正面、グランが笑みをこぼして大盾を振り抜く。


 セウォルは上体を左に倒しながら大盾を躱し、舌打ちをして一気に下がった。


「やってくれるよ。仕方ない、手の内は見せたくないんだけどね。タトアル! 眠らせろ!」


「…………!」


 ここだ、と思った。


 アルミラさんはタトアルの目を見て意識を失ったと話していた。


 だからいまフェンに押さえ付けられていたとしても、タトアルの目をつぶさない限り『なにかある』可能性は高い。


 そしてそれに耐えることができたなら――!


「…………」


 首元に大剣を突き付け、正面からタトアルを見据えたボーザックの瞳が揺らぐ。


 それでもフェンはジッとボーザックを見つめ、タトアルを押さえ付けて離さない。


 どうだ、ボーザック……お前ならきっと……!


 次の瞬間、彼は右足でタトアルの顔を地面にズンと押し付けた。



「……行儀悪いけど踏んづけちゃうよ、ごめんね! 大丈夫。効いてるよハルト!」



 俺は体の脇で小さく拳を握り、口角を吊り上げて頷いた。


 最初から二重にかけていた『精神安定』バフが効いてるんだ。これなら戦える……!


こんにちは!

本日もよろしくお願いします!

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