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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
772/845

意図をたぐり寄せるため⑤

******


 新鮮な肉を食べたかったけど、もし目当ての奴らがいるとしたら焚火なんかしてバレたくない。


 俺たちは自我を失った男に縄を繋いで先頭を歩かせ、着いていくことにした。


 とはいえ……。


「本当に迂回する気は、ない、のねっ」


 息と言葉を切らせながらファルーアが非難するような声を上げる。


「歩きにくい、とか、感じないのかもなっ!」


 かくいう俺も、かなりきてたり。


 男はただ前へ前へと進むだけ。枝が伸びていようが茂みがあろうが関係ない。


 さすがに太い幹や枝は幹沿いにぐるりと避けたり潜ったりするものの、基本的には目元を守りながらズンズン進んでいくのだ。


 俺たちからすれば体力だけでなく気力も削がれる無謀な行進である。


「食べ物、とかさっ! どうしてるの、かな!」


 ボーザックも息が上がっているようで、途切れ途切れに言いながら足下の蔓草を踏み付けた。


「生存に関する行動はとるのかもしれん。顔色は悪くない。なにを食べるかはわからんが」


〈爆風〉はスイスイと歩みながら応えると、ちらと空を仰ぐ。


「……とすると日が暮れれば眠るかもしれんな」


「だいぶ暗くなってきましたし、それなら様子を見て止まったほうがいいかもしれませんね」


「ああ。焦っても仕方ねぇしな。ファルーア、魔力は感じるか?」


「それらしく大きなものは感じないわね。埋めていたっていう石に強い魔力でもあればと思ったけれど……望み薄かしら」


「うーん、でも、こいつ真っ直ぐにどこかに向かってるぞ? なにか道標がありそうに思うけど……」


 皆が口々に話すのを聞きながら俺が言うと、フェンが『あおん』と鳴いて風の臭いを嗅いだ。


 風上は俺たちの向かう先。


 誰からともなく歩みを止め先を窺うけれど、俺たちでは感じないほどの臭いなのかも。


『……フーッ、フーッ……』


 縄で繋がれた男はそれでも進もうとして地面に倒れ臥し、両腕で掻く。


 爪に小石や土が挟まって、道中で枝葉を掻き分けた指先は血だらけになっていた。


「もし敵がいたとして、俺たちの目的は捕縛だ。目的を聞くことは勿論、昏睡したり自我を失った奴を救うのに薬を作らねぇとだからな。できるかどうかは知らねぇが」


 グランは男の手を掴むと無理矢理布を巻き付けて鼻を鳴らす。


「――こういう奴らがアイシャ中にいるってことだろうよ。やってもらわねぇと困る。まあ攻撃の意志はねぇようだが」


「そうですね。なんのためにこんな……」


 ディティアはそう言うと気を昂ぶらせているフェンの背をそっと撫でた。


「あの、グランさん。提案が……」

 

******


 そいつの気配はまるで影のようだった。


 言われてみればある(・・)とわかるけれど……当たり前にあるものだと錯覚して認識しにくいというか。


 気を抜いたなら濃いのか薄いのかわからないまま夜闇に溶けてしまって認識できなくなる。


 しかも、それだけじゃない。


 開けた場所、大きな岩の上に立つそいつの足下では十数人の男女が跪き頭を垂れていたんだ。


 それなのに異様な静けさが満ちていることにゾッとする。


 彼らの気配もまた影のようで、月明かりのなか身動ぎひとつしない。


「おやおや? こんなところにお客様ですか? さすがに嗅ぎつけられちゃいましたかね。ひひ」


 呆然と立ち尽くす俺の正面、そいつは芝居がかった動作で両腕を広げた。


 二十前半だろうか。白い月の灯りが小麦色の髪を照らし、紅く光る瞳が細められる。


 俺の隣、グランの拳がギギと軋むほど握られたのを感じ、俺はハッとした。


 色彩に欠ける若い男――まさかあいつは……。


「嗅ぎつける、ねぇ。お前こそ、なにしていやがる? セウォル」


 瞬間。ぴくり、と男の眉が動いた。


「あれあれ、その名を知っているのかな? ――最近は名乗っていなかったはずだけどなぁ」


◇◇◇


 遡ること少し。


 俺たちは暗くなった山のなか自我を失った男を〈爆風〉に任せ連れ帰って(・・・・・)もらうことにした。


 自我を失った者の被検体というわけだ。


 デミーグさんなら彼の状態をどうにかできるかもしれない、という期待もある。


 難しいことはわからないけど、薬を作るのに始祖本体じゃなくてもいいとしたら彼が役に立つかもしれないし。


 そもそも本当に始祖かどうかはわからないけどな。


 その判断をしたのはフェンがなにかの臭いを捉え、ディティアがフェンに追跡させる提案をしたからだった。


 フェンに聞いたら『当然できる』とでも言うように力強く頷いたのもある。



「……ああ、もしかしてグラン君? ひひ、なるほどね。アルミラちゃんの墓参りってところかな?」


 やはり芝居がかった動作でポンと手を打つセウォルに、グランは顎髭を擦りながらフンと鼻を鳴らした。


「墓だとは思っちゃいねぇが、思うところがある場所ってぇのは間違いねぇな。それで、質問には答えてもらえるのか? 俺としてはお前の意図を無理矢理にでもたぐり寄せるつもりだけどな」


「……ふぅん。答えてほしいなら、その敵意と殺意は隠したほうがいい。()、危うく噛みつくところだったけど? それに俺があのときのままだってことに動揺もない――となれば」


 そのときの感覚は忘れられない。


 ビリリと雷が駆け抜けたように体が硬直して、四肢が強張ったのと同時。


 紅い眼が――頭を垂れていた者たちの双眸が――一斉に振り返ってこちらを見たのである。


「俺について、なんらかの情報を誰かから得たってことになるか。困るなぁ、どこの誰だろうな」


 刹那。


「……! はッ!」


 ギィンッ……!


 ディティアが跳ねるように身を捻り、双剣を閃かせた。


「……ッ!」


 咄嗟に振り返る俺の後ろ、白い肌を見え隠れさせた黒ローブが揺らめいた。


こんにちは!

お昼に投稿です。

遅くなってしまった!

なんだか宣伝のガイドラインが変わるそうなので、変わったらやってみたいと思います。

引き続きよろしくお願いします!

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