目指す場所があるので。③
「さてと、この辺かな」
ボーザックは王都から少し離れた岩場にやってきていた。
銀色の毛並みを日の光に惜しげも無く晒して、フェンが隣に寄り添う。
ボーザックはしゃがむと、その背中をぽんぽんと撫でた。
******
何処行こうかな。
食べ歩きもいいし、買い物もいいかもしれない。
ボーザックは、ハルトとディティアを見送った後にぼんやりと考えていた。
王宮から8本伸びているメインストリートも、まだ半分以上行ってない。
とは言え、少し動き足りない気もするし、どうしようかなあ。
そんな時、窓から外を眺めているフェンが眼に留まる。
「フェン」
呼ぶと、美しい銀狼は賢そうな蒼い瞳をボーザックに向けた。
「散歩でも行く-?」
「!、わふっ」
嬉しいらしい。
尾をぱたぱた振って、幾分でっかくなったフェンリルが足元に駆け寄ってきた。
「うんうん、フェンは今日も可愛いねー」
そのもふもふの毛並みを堪能する。
そういえば、ハルトにはなかなかもふらせないなあ。
「へへ、こんなにふわふわなのに撫でられないの、可哀想だね」
笑うと、出掛ける準備をしているファルーアが呆れた顔をした。
「ハルトのこと?…まあ、あの無神経さだものね」
「がう」
フェンが応えて、眼を細めた。
そんなわけで、フェンを連れて出て来たけど、行く先は決まってない。
ボーザックはふらふらするうちに、ギルドまで来てしまった。
「我ながら職業病ってやつ?」
思わず苦笑する。
すると、フェンはするするとギルドに入っていってしまった。
「あれ、フェン?」
慌てて追い掛けると、彼女は依頼掲示板の前に座り、こっちを見ている。
相変わらず元奴隷達がたくさん集まっているギルドで、フェンの姿は神々しい。
そこだけ…脅えとは違う、尊敬みたいな空気だ。
「うん、いいねフェン。軽く暴れてこよっか!」
お小遣いにもなるし、ナイスアイディアだった。
******
そんなわけで岩場に辿り着いた。
受けた依頼はゴブリン討伐。
王都から程近いにも関わらず、数匹のゴブリンが岩場を縄張りにしたらしい。
「よし」
ボーザックは剣を構え、集中した。
ふぅー…。
細く息を吐き出す。
いつもはハルトのバフがあって、感覚が研ぎ澄まされている。
ハルトは、あんまりかけると本来の感覚が変になるかもしれないからって言って、移動中でもバフを消す時があった。
だから、自分の感覚を、より鋭く出来るようにしなければならない。
バフの時の感覚は、身体が覚えている。
「……」
風が頬を撫でる。
目を開けて真っ直ぐ先を見ながら、全体をとらえるように。
フェンはボーザックの邪魔にならないようじっと息を殺してくれていた。
何かが動いた。
視界の端、自分が立つ岩場より上の方。
「すぅ……よし、フェン行くよ」
「がうっ」
ボーザックは弾かれたように走り出す。
岩場を飛び越えるようにして登り……少し擦り傷は出来たけど……すぐに何かが動いた場所まで辿り着いた。
「ぐる…」
フェンが、岩の向こうに向けて顎を振る。
「うん」
ボーザックはゆっくりと、距離を詰めた。
そして。
『キキィ!』
不意打ちを狙った一撃が、岩の向こうから繰り出される。
大剣の腹で弾き返して、ボーザックは弾いたものを追うように走る。
「うりゃぁーっ!」
『キィッ!!』
ザンッ!
ゴブリンがギリギリの所で避けきれず、浅い傷を負った。
ここにいるのは1匹。
あとは何処だ?
『ギキィーーッ!』
咄嗟に避けると、岩に登っていたらしいもう1体が上から飛び掛かってきていた。
それをフェンが弾き飛ばして、窘めるようにウォウ、と鳴く。
「危なかった、ごめんごめん」
ゴブリンはそれ程強くは無いが、油断していい相手でもない。
まして、複数なのだから。
「…そうだね、俺がケガしたら、ティアが困る」
「がう」
「俺……やっぱり有名になってみたいな」
そのためには、こんな所で傷付くような弱い大剣使いでは駄目だと思う。
ティア……疾風のディティアに負けないくらい、速くて格好良い剣士になりたい。
「よし」
ボーザックは辺りにも気を配りながら、踏み出した。
タイラントの角で造った剣の、羽のような軽さ。
大切に磨いているので、切れ味は落ちてない。
「はあぁーっ」
気合と共に振り抜く。
まずは1体、そして、すぐ隣の2匹目に矛先を向ける前に、後方に次の個体が現れる。
「ばればれ!」
反転して片手で剣を振るう。
後ろからの個体が飛び退いたところで、フェンが襲いかかった。
『キイイッ』
ボーザックもすぐさま体勢を戻し、目の前の1体を屠る。
少しでも速く。
少しでも強く。
……ゴブリンを8体倒したところで、ようやく気配が無くなった。
息が少し上がっているが、まだ戦えそうだ。
ボーザックは満足して、近くの岩の上に座り込んだ。
「っ、はぁー!動いた!」
日は落ち始めて、もう少ししたら空が茜色になるだろう。
眺めていきたい気もするが、王都までは少しある。
共に強くなるはずの仲間に心配を掛けるのも気が引けた。
フェンが、鼻先でボーザックをつつく。
「うん、わかってるよフェン。帰ろうかー」
まだまだこの先、強くなれる。
何が起きても、きっと屈しない。
不屈の名に恥じない思いを抱いて、ボーザックは岩場を後にした。
ちなみに、依頼の完了報告を忘れたため、心配したドルムが後で宿に訪ねてくることになる。
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