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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
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意図をたぐり寄せるため②

 ちなみに、俺とボーザックの腰にはしっかり命綱が結ばれているので落ちたとしてもなんとかなる。


 引っ張り上げてもらえるまでめちゃくちゃ恐い思いをするくらい……だろう、たぶん。


 だけど落ちたいかと言われると――うん。絶対嫌だ……。


「先手必勝ぉッ!」


 瞬間、ボーザックが突きを繰り出す。


 即座に反応できたのは〈爆風〉との遊びの賜物かもしれない。


「甘いッ!」


 俺は体を右に捻って躱し、左足で大剣の横っ腹を思い切り蹴飛ばした。


 俺の右、ボーザックの左が進行方向なので後方――つまり風下に向けて、だ。


「う、うわッ⁉」


 引き戻そうとしたのであろう大剣が強風に煽られて揺らぐ。


「隙だらけだぞッ!」


 ほくそ笑んだ俺は踏鞴を踏むボーザックに詰め寄って双剣を振るう――と見せかけ、屈んで足払いを掛けてやる。


「ッた⁉ うわっ、わっ……!」


 体が仰け反ったのでダメ押しで剣を突き出すと……ボーザックは咄嗟なのかなんなのか、それを躱しつつ左手で俺を掴んだ。


「げっ⁉ おいボーザッ……」


 軽い素材といえど曲がりなりにも重装鎧。俺の体が一気に持っていかれた。


 やばい、やばい、やばい!


「うわああぁぁっ!」

「おわああぁぁッ⁉」


 仲良く転がって体が空に投げ出されそうになったところを、二人同時に風将軍(ヤールウィンド)の背にしがみつく。


 冷や汗がどっと噴き出し、俺はぶるりと身を震わせた。


「おいボーザックッ! お前なぁッ!」


「いまのは自業自得でしょ⁉ 掴める位置までハルトが手を出したからで! と、とにかく上がろうよ!」


「上がるのには賛成ッ、ちょっと耐えてろよ、『腕力アップ』!」


「おおっ、さっすがハルト! 助かるー!」


 そうして俺たちがなんとか這い上がると、ロディウルが腹を抱えて笑っていた。


「いや、最高やったわ! は、ひひ、はっはは!」 


「こっちは必死だよ……」


 ほんと恐かったんだぞと思わずぼやく俺の隣、四つん這いのままでボーザックが頭を振った。


「ねぇロディウル……俺、大剣落とすかと思ったんだけどさぁ。その場合は拾える……?」


「ははっ、あー、そりゃ無理やなあ! ひひ、くくく」


「笑いごとじゃないんだけど……落ちないように縛っておかないとじゃんか!」


 ボーザックは眼を瞠ると慌てて大剣を抱き寄せ肩の力を抜いた。


「はあぁ……。それにしても……ハルトの体術が久し振りだったから完全にやられたんだけど」


「はは、双剣は好きだけど隙を突くのが俺の戦い方なんだって思ってさ」


 応えると、ロディウルが慣れた足取りで俺たちのそばにやってくる。


「よっしゃ、次は誰を連れてこよか? 〈逆鱗〉はここに残ってバフを使ってもらうで! アロウル! ちぃと重くなるんやけど頼めるな?」


 その言葉に俺たちを背に乗せたひときわ巨大な怪鳥が高く嘶く。


 どこかフォウルに似た音程に、俺はふと柔らかな羽毛を撫でて聞いた。


「こいつ、アロウルっていうんだ。フォウルの子供か?」


「お、よくわかったなぁ? せやで。雄はある程度強くなると独立して別の群れを作るんやけど、フォウルがいなくなったあとでアロウルの群れを見つけたんや。雄の数自体が相当少ないんで次の雄を見つけるんは苦労するかと思ったんやけど……どういうわけか近くにおってな」


「そっか。きっとフォウルがロディウルのために呼んでくれたんだな」


「ん……なんやこそばゆいなぁ」


「は?」


「惜しげもなく臭い台詞吐くんやもん」


「なんだよ、真面目に言ってるのに……」


 俺が顔を顰めるとロディウルは破顔して風に乱された前髪を手櫛で掻き上げる。


「ふ、それでこそって気はするんやけどな! ほな、次いこか!」

 

******


 結局、シエリア、ラウジャ、アルミラさんは不参加だったので、模擬戦は俺たち〔白薔薇〕のための鍛練になった。


 フェンはさすがに大きすぎて頭数に入れられなかったんだけどな。


 総当たりで模擬戦をした結果、風ふたりはまあ想定の範囲内。けれど予想外だったのはグランとファルーアが強かったこと――というか強すぎた。


 当然、俺とボーザックは四回ずつ落下する羽目になったわけで。


 いや、グランときたらあの鎧に大盾だろ? どっしり構えられたら打つ手がなくてさあ。


 ファルーアに至っては風の魔法を自分の周りに展開していたので近付くことができなかったんだ。


 無理にでも距離を縮めようものなら杖の一撃が容赦なく振り下ろされて呆気なく弾き飛ばされたりして。


「ここだから使える戦法であって陸地じゃ意味がないわね。集中も必要だから魔法を自分の周りに展開し続けるのは難しいわ」


 なんて言ってたけど……その表情は絶対に使うと決めているかのように自信たっぷりだ。


 ちなみに〈爆風〉とディティアはそんなグランとファルーアにも負けなかった。


 はー。悔しいけどやっぱ別格だな。


 最後に、グランとファルーアに関してはファルーアの勝ち。


 さすがの重さも風魔法の前では紙みたいなもんだったからな。


 派手に吹き飛ぶ――とまではいかなかったけど、グランが落ちるのには「よし! 仲間が増えた!」とか思ったりして。


 そんなこんなで俺たちはアイシャまでの約一週間を模擬戦という名の鍛練に使うと決めたのだった。



皆さまこんばんは!

いつもありがとうございます。

そういえば前回からアイシャ編開始となっております。

始祖編とどっちにしようか迷ったんですけど……どっちがしっくりきますでしょうか……よかったら教えてくださいませ……。

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