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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ アイシャ
768/845

意図をたぐり寄せるため①

******


 シエリアとシュレイスの婚姻。


 小さな式典は溢れんばかりの祝福で満たされ盛大に盛り上がった。


 果物と花を混ぜ合わせたようなサッパリとした香りのなか、白地に銀色の宝石が散りばめられたドレス姿のシュレイスはシエリアが摘んできた花を手に笑う。


 綺麗だな、なんて……柄にもないことを思うくらいには眩しい。


「必ず帰ります、シュレイス」

「あったりまえでしょ! 絶対に絶対に帰ってきなさいよね王子様! ……待ってるから」


 ふたりの言葉に俺はぎゅ、と手を握り締める。


 シエリアを必ずここに帰してやらないとな。


 ちらと視線を向ければ、皆もどこか真剣な表情で彼らを見守っていた。


******


「空って最高~空って速い~!」


 俺の隣、ボーザックは籠から顔を出して歌のようなものを口ずさみ風を浴びている。


「飛ばされるなよー」


 俺は言いながらゴロリと寝返りを打った。


 ユーグルが育てた風将軍(ヤールウィンド)はトールシャとアイシャをものの一週間程度で横断するらしい。


 船で一ヶ月と考えれば相当速いもんである。


 冷えないよう工夫の凝らされた籠はふたりで収まればそこそこいっぱいだ。


 さすがに海の上じゃどこかに降り立つこともままならず、一番困るのは排泄だったりする。


 そこはユーグルの叡智ってやつで……まあ簡単に言えば下水処理と同じ。専用箱に粘液状の魔物が飼われていて彼らが分解してくれるそうだ。


 背に腹はかえられないので使うしかない――そういう箱ってことだな。


 さて。飛行中にできることといえば、とりあえず鍛練とバフを練るくらい。


 デミーグさん曰く、自我を失ったり昏睡状態に陥った人々を救うために俺の『浄化』バフが使えるかもしれないとのこと。


 とはいえ『浄化』は修得済みである。いまさら練習するものでもない。


 ならデバフを練習……と思ったけど、そもそも始祖ってひとか? 魔物か?


 魔物寄りだったとしたら口のなかにバフを突っ込む必要があるけど大丈夫か……?


「んー、ならやっぱこれかな。『五感アップ』」


 俺はひとりごちて手の上でバフを広げる。


 きっと多くのひとにバフを付加するときがくるはずだ。


 だからもっと……百といわず二百人、三百人と包み込めるようにしたい。


「……ん、ぐぐ」


 まだいける、まだやれる、まだ……。


「ぐ、ぶはぁッ!」


 思い切り吐き出してしまった息に散らされたかのようにバフが掻き消える。


 百人入ったら御の字どころか大成功だけど……どうだろうな。


「なに? ハルトどうかした⁉」


「いや、悪い。ちょっとバフを広げようと思って練習してるんだ」


「あぁーそっか、必要になるかもしれないよね。ハルトのバフ」


「おう。どれほど重ねられるかはわからないけど、鍛えてるなら二重か三重までならいけるんじゃないかな」


 振り返ったボーザックに応えつつ、再度バフを練り上げる。


 手のひらの上で魔力をぐるぐる流して広げていくと、ボーザックは籠の中に引っ込んで寝転んだ。


「アイシャのこと考えるとちょっと焦っちゃうからさー。俺もハルトみたいにやれることがあったらいいんだけどー」


「なんだ、それで変な歌うたってたのか……うわ、駄目だ」


 応えたらバフが歪んで散ってしまった。


 ある程度までは意識しなくても広がるんだけどな……それ以上は集中してないと難しい。


 ふうと息を吐いて狭い籠で僅かに体を起こし、俺は続けて口にした。


「どうせなら気配を読む練習とか……〈爆風〉なら遊びのひとつでも思い浮かぶかもな……あ、ロディウルと話ができれば伝言してもらえるかも。あいつの風将軍(ヤールウィンド)が群れを率いてくれてるわけだし?」


「……うん? それはそうだけど。どうするつもり?」


 ボーザックがこっちを向いて右肘をついて頭を支えつつ訝しげな顔をする。


 俺は口角を吊り上げて笑ってみせた。


「いまの会話を届けるんだよ! いくぞ『知識付与』ッ!」


 広げたバフがロディウルまで届けばなんとかしてくれるはず。


 ほかの皆にも俺の意図が伝わるだろうし、俺はバフの練習にもなるし、いい案だろ?


「おお……ハルト冴えてるー!」


 はは! そうだろ、そうだろ!


******


 びゅおおおおおおぉぉぉ。


 凄まじい風が頬を打ち付け、髪がバサバサとなぶられる。


 足下はフカフカで踏ん張りにくく、当然目をガッツリ開けていられない。


「違う……俺の想定と全然違う……!」


「あっは! 諦めてよハルト! 俺もめちゃくちゃ恐いしー!」


 向かい合って立っているボーザックは言葉とは裏腹にすこぶる楽しそうだ。


 そう、想定外なんだよ!


 俺たちはいまロディウルの風将軍(ヤールウィンド)の上で対峙していたりする。


 あのあとロディウルがいきなり俺たちのところに飛び移ってきて「よっしゃ! 模擬戦しよかー!」なんて言ったときは耳を疑ったけど――本気だった。


 眼下に広がる濃紺の海が太陽の光を反射させて輝き、潮の香りが鼻を突き抜けていく。


「ええ訓練になるでー! 模擬戦の様子はさっきのバフで共有できるやろ? ほかの奴らにも順番に動いてもらわんとな! ほな、始めよか!」


 怪鳥の首元にどっかり腰を据えたロディウルは手に盃を持って……なんだあれ、酒呑んでないか?


 俺が呆れると、彼はその盃を掲げて高らかに告げた。


「転ぶか落ちるかしたら負けや。動き回るより足下しっかり踏ん張っときぃ。三、二、一、始めッ!」



アイシャに帰るまでに鍛えておかねばです。

引き続きよろしくお願いします!

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