表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
767/845

空ははれわたるのです④

 ……まあそんなこんなで。


 俺たちはだいぶ夜も更けてから解散となった。


 まず明日には怪鳥ふたりに確認のうえで薬を試してもらい、俺たちはシエリアの式典に参加する。


 式典っていっても極々少人数、身内だけの簡易なやつらしい。


 シュレイスが「どうせ一緒に行きたいとか言うんでしょ、王子様」なんて言って、シエリアを送り出そうとしたからだ。


 ちなみに準備を請け負ったのはアルミラさんである。


 そんなわけで今日はもう休むだけ……なんだけど。


 酒が程よく回っているのに眠れないので俺はひとり城の中庭に出てきた。


 勝手に歩いていいのかわからないけど、まあ誰にも止められなかったしいいだろ。


「……星、よく見えるなぁ」


 空を仰げば満天の星空で、町中とは違って枝葉もないから迫力があって。


 俺は手近な長椅子に寝そべって思い切り深呼吸をする。


 なにか香草でも植えてあるのかほのかに甘く爽やかな香りがして、冷たい空気が火照った頬に心地よい。


 ずっといたら風邪引きそうだけどな。


 式典が終われば俺たちはすぐにラナンクロストへ向けて飛ぶんだろう。


 一緒に行くのは俺たち〔白薔薇〕とアルミラさん、デミーグさん、シエリアとラウジャ、そしてユーグルのロディウルだ。


 始祖の研究については担当者から研究結果を共有してもらうそうで、ラナンクロストではデミーグさんが調薬やらなにやら全部やるとのこと。


 そんなすぐ覚えられるもんか? というのは愚問らしい。


「…………」


 ……それにしても。なんというか。


 もうすぐ俺たちの故郷、アイシャに戻ることになるんだよな。


 この大陸(トールシャ)にきてから、もう一年ちょっとが過ぎている。そのあいだ色々な環境でたくさんの冒険をしてきた。


 つらいこともあったし、すべてが順風満帆とはいかなかったけど成長できたはずだ。


 なら、こうやって少しくらい休んでもいいだろう。


 けれどいま、この空のずっと向こうで――あの嫌味で無駄にキラキラした騎士は戦っているのかもしれない。


 そう思うと…………はあ。やめだ、やめよう。


 きっと『僕を心配してくれるなんて、随分と強くなったようだね〈逆鱗の〉』とか嫌味ったらしく言われるんだ。


 なんとなく爽やかな空気を感じた気がして、俺は瞼をギュッと閉じて長椅子の上で体を擦った。


 そのときである。


「こんなところにいたんですね、ハルト君」


「んん? ……おう、シエリア」


 瞼を持ち上げれば、頭の上から覗き込んでいたのは恐い顔――もとい普段どおりの笑みを浮かべるドーン王国第七王子だった。


 ちゃんと厚手の外套を羽織っているし、なにか話があってきたんだろう。


「座るか?」


 俺は体を起こして隣をポンと叩く。


 シエリアは破顔すると優雅な所作で腰を下ろし、少し伸びた髪をさらりと指で梳いた。


 そういうとこ本当に王子なんだって実感するよな。


 俺はそこで「あ」と声をこぼした。


「そういえばちゃんと言ってなかったな――その、おめでとう。シエリア」


 うん、どういうわけか照れ臭い。


 頬を掻く俺にシエリアはゆっくりと瞼を下ろし、僅かに唇を噛む。


「……ありがとうございます。これが幸せを噛み締めるってことなんですね」


「ふ、大袈裟だろ」


「いいえ。大袈裟じゃないですよ。僕は君のお陰でここにいるんですから。そして……君のお陰でシュレイスとも逢えた。君が僕とシュレイスを結びつけたんですよ」


「はは。シエリアって結構頑固だよな、決めたら曲がらない感じ」


「えっ? そうですか?」


 俺は思わず声を上げて笑ってから空を振り仰いだ。


「おう。すごいと思うぞ。俺にはまだ結婚とかそんなの考えられないしな」


「ふふ。ハルト君の場合はずっと近くにいますから、実感できないんですよ」


「ん? あー…………ディティアのことか?」


「はい」


 当然のことながら、シエリアに茶化すような雰囲気はまったくない。


 俺は気恥ずかしいのを堪えようと肩を竦め、ふーっと息を吐いてから……ゆっくりと口にした。


「……ずっと近くに、ね。でもシエリア。〔白薔薇〕として一緒に冒険して、一緒に強くなって、俺自身が目指す場所でもあって――だけどまだ届かないんだ。近いけど遠い。だから一歩ずつ進んでる。そうしないと俺が納得できないってだけなんだ……とは思うけどな」


「そうですか。きっとハルト君なら追いついて……ともに歩むことができますよ」


「――ふ。待っててくれると思うか?」


「ふふ、それこそ愚問です。しびれを切らしたとしても彼女はハルト君を置いていきません。……いえ、彼女だけじゃありませんね。〔白薔薇〕全員がそうしますよ」


「そっか、なら、そうなる前に追いつかないと」


 脳裏でディティアの笑顔が色づく。


 自分でも随分と素直に真面目な受け答えをしたなと思って、俺は知らず口元を緩めた。


「そのときは一緒に花を摘みに行きますからね」


 シエリアはそう口にすると俺と同じように空を仰いで笑った。


「きっと明日も空は晴れ渡って僕たちを祝福してくれます。さ、風邪をひかないうちに休みましょう。遅くとも明後日には出発しないとですから」


「そうだな。……シエリア」


「はい?」


「ありがとな」


 俺が言うと、シエリアは立ち上がって右の拳を差し出した。


「いえ。僕もハルト君にお礼を言いたかっただけですから」

いつもありがとうございます。

トールシャに来てどのくらいだったかなと調べるのに時間がとられました……けっこう経ってました。

ゆるゆるパートはこのあたりにして、いざラナンクロストに戻りたいと思います。

引き続きよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ