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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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空ははれわたるのです①

「覚えていても平常通り、これがふたりの世界らしいわよ」


「ええっ⁉ あ、アルミラさんっ、そ、そ、それはっ……そんなことは!」


 アルミラさんが訳のわからないことを口にすると、ディティアが真っ赤になる。


 なんだ、ふたりの世界って……?


「俺とディティアだけじゃないだろ、俺たち全員が関わってることなん……」


「ややこしいから黙ってなさいよ、あんたは」


 言いかけた俺に被せてシュレイスがキッパリと言い切る。


 首を傾げて見回せば、皆は各々食べ物を口に運びながら澄まし顔だ。


「そんな変なこと言ったかな、俺……」


「いいえ! ハルト君はハルト君だから! それでいいと思いますッ」


「ええ? ディティアまで……」


「まあ、なんだ。とりあえずやることの整理をしちまうぞー」


「そうだねー、このままだとハルトがずーっとハルトしてる気がするしー」


 グランとボーザックにも言われて、俺は顔を顰める。


「なんか俺、最近雑に扱われてないか……?」


「あら。自分のことばかりでなく、むしろ皆が慣れて楽になったと考えてほしいわね。……まずは始祖人が関わっていると想定して、私たちの取るべき行動を挙げましょう」


 ぼやく俺に向けて、美しい所作で酒をひとくち含んだファルーアが妖艶な笑みを浮かべた。


「皆が楽に……? そうなのか? それならまあ、いいけど」


「うん。その答えに至るお前はさすがだぞ〈逆鱗〉」


〈爆風〉からお褒めの言葉を頂戴したところで、俺は酒をあおって杯をドンと机に置いた。


 褒められたんだよな……?


******


 始祖の研究から、災厄となってしまった怪鳥ふたりに薬を与えること。


 この結果を以て始祖から作られた薬の評価が確定する。


 それがうまくいけば、始祖人から薬を作ることでアルヴィア帝国の病をなんとかできるはずだ。


 ユーグルとの話し合いは必須だけどな。


「アイシャで既に凶暴化、または昏睡状態に陥ったひとたちの治療には僕の研究が使えるはず、かな。凶暴化に関しては実験が必要になるけどね。まずはどうやって発病させるのか? さらに症状が分かれる条件も探らなくちゃならないかな!」


 目をキラキラさせたままのデミーグさんだけど、彼の研究は必須だ。


 シュヴァリエはなにも書いてなかったけど、凶暴化したひとを制圧するのに武力を行使するのは必然だろう。


 あいつも疑っていたくらいだ。凶暴化っていうのは血結晶を呑んだ奴らと同等かそれ以上に厄介なはず。


 アイシャのひとを助けたい――気持ちは皆同じはずなのに、怪我だけで済むとは考えにくい。


 だから一刻も早く治療法を確立しなきゃならないんだ。


「始祖の薬はきっとうまくいく。だから私たちは始祖人を捜すのが最優先ね」


 アルミラさんがゴッゴッと喉を鳴らしながら何杯目かわからない酒を呑み干して豪快に口元を拭った。


「なにが目的かわからねぇからな。首謀者をとっちめるのが手っ取り早いだろうよ」


 反対にグランは慎重に酒を口にして、口は拭わずに顎髭を擦っている。


 ファルーアはグランの隣で焼き菓子を摘まみ、細部をうっとりと眺めながら続けた。


「ええ。いま私たちの持っている情報から、セウォル、タトアルというふたりを捜すのがよさそうね。たしかミラの話では山になにか埋めていたのでしょう? 魔力が関係しているのなら探し出せるかもしれないわ。そこになんらかの新しい情報があるのではないかしら」


「とにかくアイシャへの移動手段を確保しないとですね。輸送龍で港まで運んでもらえたとして、うまく船をつかまえないと。それでも数ヶ月は必要になりそう……」


「げ……そ、そっかあー、海かあ……船かぁ……」


 ディティアの言葉にボーザックが頭を抱える。


 だけど俺はいいことを思いついて笑った。


「いや、もっと楽で速い方法があるんじゃないか? どうせ呼ぶだろ?」


「うん。いい案だ。実際、俺も一度運んでもらっているからな」


〈爆風〉が次の酒を俺の杯に注ぎながら歯を見せて笑う。


「そうだユーグル! ロディウルたちの風将軍(ヤールウィンド)なら船はいらないよね⁉」


 いち早く察したのはボーザックで、その笑顔が眩しい。


 乗り物に弱いからなぁ……いつも顔真っ青だし。なんなら吐いてるし。


「もしかして魔物に乗れる、かな? それは嬉しいな。空を飛ぶなんて初めてだよ。せっかくだから研究に役立てられないかな。ふふ、すごく感慨深い……そうと決まればあれは必要、あの器具も……」


 既に同行する気満々のデミーグさんはなにやら遠くへ旅立ってしまったようだけど、心強いと思っておこう。


「あとは〈閃光〉たちとの情報共有を急がねぇとか。これも飛べりゃすぐだろうから、こっちの情報を報告書にでもしたためておきてぇな」


「それなら僕が手配しておきます。皆さん準備が必要ですよね? いつ発ちますか?」


 シエリアがグランに頷き、グランが顎髭を擦りながら唸る。


 するとアルミラさんが「はっ!」と笑った。


「一日あればすべて揃えてみせるわよ。もう支度金は貰っているし」


「えっ? 支度金って……ああー、シュレイスがアルミラさんに払ったって……」


 俺がぽんと手を打つと、アルミラさんはグランに似た豪胆な笑みを以て頷いた。


「邪魔な防寒具も売っ払うから回収するわよ。で、誰がユーグルに連絡してくれるの?」


「あ、それも僕が……というか」


 シエリアがなにか言いかけた瞬間、バァンッと窓が開いて頬を冷たい風がなぶった。


「……魔物……ッ!」


 アルミラさんの声に俺たちは椅子を蹴倒して立ち上がる。


「な、どういうことだよ⁉ 気配なんてしなかっ……! うわあぁッ⁉」


 ――瞬間、俺の視界が黒く染まった。


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