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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
763/845

杯をかわしたいのです⑤

******


 アイシャで人間が自我を失ったり昏睡状態に陥っていること。


 その事案がラナンクロスト王国で顕著であること。


 シュヴァリエが動いていて、かつ始祖の研究が関わっていそうなこと。


 説明した俺に、斜め前でかなり前のめりに聞いていたデミーグさんが目をキラキラさせている。


 ちなみに、乾杯はお預けだ。


「始祖の研究については知っている、かな。それがまさかこんな形で……! どうやら僕の研究が役に立つ、かな」


「そうね。私が眠らされていた状況に近い気がするもの。なによりセウォル――あいつらが関わっていそうだわ」


 デミーグさんが意味深に微笑む横、どういうわけかアルミラさんはグランによく似た豪胆な笑みを浮かべる。


 セウォルっていのはアルミラさんを眠らせたと思われる「紅眼の男」だ。


 もともとの眼の色から紅く変化したっていうんだから、今回のことに関わっていると考えてもいいよな。


「ようやく尻尾を出した――そういうことでしょう? 何年も我慢した甲斐があったってもんよ。あの綺麗な顔を一発ぶん殴ってやらないとね」


 うわぁ、恐……。


 俺は身震いしながら聞きたいことを口にした。


「あのさ、アルミラさん。昏睡状態というか……仮死状態から起きてからの話なんだけど――強くなったと感じることはないか?」


 そのとき、アルミラさんがデミーグさんと目配せしたのを俺は見た。


 なにか掴んでいるんだな――。


「ま、どうせ話すことになるか。結論から言うとなってるわ。とくに魔法に関しては前より強い。体も丈夫になった気がしないでもない」


「……やっぱり」


 続けて俺が五重バフが切れたときの話をすると、デミーグさんが手を叩いて喜ぶ。


「素晴らしい、かな! 確認する方法がなくて困っていてね。なるほど〈逆鱗〉君の重ねたバフが切れると動けないのか。一度検証したい、かな。ちなみに僕は紅眼に関して『肉体の魔力を書き換える』力を持っていると考えている、かな。彼らが始祖人なんじゃないかとも疑っているよ」


「そう。だから私を研究した結果――これを王族に売ろうかと思っていたのよ」


 アルミラさんは腕を組むと眼をギラつかせた。


「私を起こす方法がアイシャで使える可能性がある。そうすれば、あいつらを見つけ出せるはず――は、(たぎ)るわね」


「落ち着け姉貴。だとしても、だ。自我を失ったやつとの差はなんだ? そいつにも同じ方法が使えるのか? 使えなかったら意味がねぇだろうよ」


 グランは言いながら目の前の杯を乱暴に掴む。


 その瞳はアルミラさんと同じくギラギラと光っていた。


「……お前ら、俺も一発ぶん殴ってやらねぇと気が済まねぇ。悪ぃが付き合ってもらうぞ」


「ふ。いまさらね」


 ファルーアが妖艶な笑みをこぼして杯を手にする。


「勿論ですッ!」


 ディティアが深々と頷いてそれに倣う。


「悪ぃなんて言わないでよ。俺も一発ぶん殴るからー」


 ボーザックがにやりと笑う。


「うん。若者はいい。狩るのは任せろ」


 ちゃっかり〈爆風〉も便乗して――俺は杯を手に肩を竦めた。


「狩らせるかは別だろ! ――よし、やるか! 乾杯ッ!」


 カーンッと心地よい音を響かせて皆と杯を打ち鳴らす。


 三白眼を細めて見守っていたシエリアが一緒に杯を持ち上げたので、俺は腰を浮かせて腕を伸ばしガツンとぶつけた。


「……はー。相変わらずむさ苦しいわね、あんたたちって。嫌いじゃないけど」


 シエリアの隣、シュレイスは僅かに杯を掲げ、肘を突いてごくりと喉を上下させる。


「相変わらずシュレイスのお行儀が悪いのは矯正しないとよぉ? ふふ、それがシュレイスらしいといえば、そのとおりだけれど」


 ラミュースはさすがというべきか優雅に杯をすべらせて酒を呑む。


 こうして……俺たちはとりあえず改めて食事をすることにした。


 栄養摂っておかないと浮かぶ案も出てこないだろう。


 シエリアのお陰か、張り詰めていた気持ちも少しほぐれたしな。


 するとデミーグさんが俺に向けて手をひらひらさせた。


「……ん?」


「〈逆鱗〉君! いい報告があるかな。もしかしたら、だけど……例のふたりの自我を保ちやすくできるかもしれない、かな」


「その呼び方はやめてほしいんだけど――って、え⁉」


「始祖鳥の薬が使えるかもしれないよ。うまく魔力に作用すれば、そもそもバフがなくても大丈夫になる可能性がある、かな」


「……!」


 そ、そうか!


 魔物の始祖なら、魔物に対していい作用があるかもってことだ!


 俺は頷きながらすぐに固まった。


 いやいや、待てよ? それって……もし始祖人の薬ができてしまったら古代の魔力が取り戻せるってことか?


 しかも不活性化しているわけじゃない完全な形で総量も増えるとしたら――。


 だとしたら――それは。血結晶を作るための『血を流すレイス』が生まれる可能性があるってことで。


 アルヴィア帝国で病と闘うキィスヘイム=アルヴィアの薬になると同時に、俺たちが恐れているものだ。


『魔力活性』のバフですらその可能性を孕んでいるのに、まったく気付いてなかった……。


「……ハルト君、その……難しい顔、してるよ」


「えっ?」


 そのとき、俺を横から覗き込んだディティアと目が合って……現実に引き戻された。


「この件、ロディウルとも話してからじゃないと進めないかもしれないね」


 どうやら同じ考えに至った彼女の瞳が不安そうに揺れる。


 しまった、と。そう思って。俺は思わずバチンと頬を叩く。


「えっ、どうしたの⁉」


「いや。いいことだって思いたいなってさ。俺がディティアを不安にさせるような顔するのは違うだろ。だってふたりだけじゃない。キィスだって治せるかもしれないんだ――そうだろ?」


「……ハルト君……うん。そうだね、絶対にそう」


 ディティアはエメラルドグリーンの瞳に俺を映し、にこりと微笑む。


 するとデミーグさんが隣のアルミラさんに笑った。


「僕と話していることは忘れられている、かな」


皆さまこんばんは!

ハルトの合間に別の応募用のお話に着手しています。

ばばーっと投稿するかもしれませんので、そのときはよかったらどうぞー!

いつもありがとうございます!

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