杯をかわしたいのです④
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始祖の研究とは即ち古代の魔力の研究である。
俺と〈爆風〉はそう結論づけた。
ユーグルとの関わりを持つドーン王国としては当然血結晶を作るわけにはいかない。
けれど始祖の持つ魔力を調べれば、自分たちの持つ『古代魔法を使っていた時代の魔力』を底上げできるかもしれない――そう考えたそうだ。
おそらく始祖はいまも古代の魔力を色濃く受け継ぐだろうからな。
さすが魔法大国――古代魔法を研究するうえで当然の考えだったのかも。
檻の中、魔物たちは餌と水を十分に与えられ手厚く飼育されているそうだ。
時折眠らせて採血などを行うらしいけど……なんだろうな、災厄の砂塵ヴァリアス討伐で犠牲になったフォウルやその代役を務めようとロディウルに寄り添ったフェンを思うと複雑な気持ちがあったり。
優しくしてもらってるといいけど……。
ここの担当者は席を外してもらっているとのことで、どんな思いで世話してるのか聞くのはまた次の機会になりそうだ。
「いまのところの成果としては――まったく逆。目当ての魔力を変質させてしまうようなのです」
「変質って……?」
俺が聞き返すとシエリアは少し考える素振りをみせた。
「うーん。僕もよくわからないのですが、魔物の始祖から作った薬で強い魔力が弱い魔力になってしまうらしいです……そうすると心身に不調をきたすようですよ」
「ふむ。古代の魔力が現代の魔力に変わっているのかもしれんな」
〈爆風〉がさらっと付け足したので、俺は「ああ」と頷く。
「そっか、ディティアや〈爆風〉に使ったら俺みたいになるってことか。……待てよ、それなら勝てたりするのかも……?」
「言ってくれるな。負けるつもりはないぞ?」
……うん。勝てる気がしない。全然しない。
腰が退けたところで俺は「あれ?」と首を傾げた。
「ちょっと待ってくれ。それって昔の流行病と同じ効果じゃないか?」
「災厄が暴走する切っ掛けになった病のことですね? ユーグルのウル、ロディウルは『ことごとく魔力が奪われる病』と言っていたので……どうでしょうか。それにいまのところは亡くなるほど強いものではないと聞きましたが」
「っていうか、いまさらだけど人体実験までしてるのか? そもそも古代の魔力が少ないから効果が出てないだけかも。止めるべきじゃないか?」
「……それは……たしかに。さすがハルト君です……! 」
シエリア曰く、この研究で一番求められているのは始祖人だという。
ひとの始祖は古代都市国家、魔法都市国家を興した者たちじゃないかとも言われているらしい。
ただ、そこまで古い歴史となると手掛かりすら見つからないとか。
「始祖人から作る薬であれば、いい方向に魔力を変化させる……という考えのようですね。どういう研究でその考えに至ったのかはわかりませんけど。ちなみにこの研究についてはユーグルと一部情報共有しているみたいです」
「ふむ。監視の一環だろう」
〈爆風〉はさらりと言うと腕を組んで俺を見た。
「……アルミラが関係しているとすれば、なるほど……。覚えているか〈逆鱗〉? アルミラはお前の五重バフが切れても動いていた」
「ん? ああ、岩龍ロッシュロークのときだよな」
「あれはアルミラの魔力が『変化したあと』だから――ということはないか?」
「……!」
俺ははっとして瞼を二度瞬いた。
「そういえばグランは動けないもんな……姉弟なのに。アルミラさんは強いけど鍛えてるわけじゃなさそうだったし……」
俺は腰に両手を当ててうーんと首を捻り、結局諦めることにする。
「考えてもわからないし一度帰ろう。正直よくわからなくなってきた……。アイシャのこともちゃんと伝えないとな――」
「はい。約束どおり夕食のあとに関係者を集めてありますよ!」
シエリアは不敵な笑みを浮かべると踵を返す。
俺は〈爆風〉に頷いて――ひとつ思い当たったことを口にした。
「焦っても仕方ないし……風呂に入りたい」
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夕食はそれはもう豪華だった。
皆にはざっくり内容を話してあったから結構硬い顔をしていたけど……金ぴかのキノコに混ざってホグムワグムが出てきたときのディティアといったら。
凄まじい量の冷や汗を浮かべて固まっていて……はは。
緊張もほぐれるよな!
ちなみに俺はほとんどの時間を王子王女からの質問攻めにあっていたんで考えに耽ることもできず――結果としてよかったのもしれない。
…………そんなわけで。
「待たせたわね!」
「少し準備に手間取った、かな」
アルミラさんとデミーグさんが席に着き、今後についての相談が始まった。
場所は城内のどこか高い場所にある細長い部屋。細長いテーブルに深い紺色をした革張りの高そうな椅子がドンと置かれている。
大きく取られた窓は厚い布で覆われて、なんというか……作戦会議にでも使っていそうな感じの厳かな雰囲気だ。
俺たち〔白薔薇〕のほかにはシエリアたちパーティ、アルミラさん、デミーグさんがいる。
テーブルには酒、水、なにかのお茶、菓子や軽食が並んでいた。
「それではまず――改めて杯でもかわしませんか?」
シエリアはそう言うと……いきなり自分の杯に酒を注ぐ。
「皆さんの故郷アイシャが大変な状況であるとのこと。食事もそれほど喉を通っていなかったようですから――まずその肩の力を少し抜いてください。僕たちも力になりますから」
その恐い顔――もとい凛々しい顔が俺たちを順番に見つめる。
けれど、それを聞いたアルミラさんが足を組んで眉をひそめた。
「ああ? なんの話よ?」
…………しまった、話してなかった……。
いつもありがとうございます!
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