杯をかわしたいのです①
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道中にシュレイスの依頼だったことやアルミラさん、彼女を治療してくれたデミーグさんと怪鳥のこと、ユーグルに連絡を取りたいことを伝え、俺たちは城へと帰ってきた。
山に比べたら暖かいし、一歩城内に入ればめちゃくちゃ快適だ。
「シュレイス……!」
そんな城の廊下で両腕を広げたシエリアはまさに「王子様」だった。
厚い外套は城に到着した時点で脱いであり、深い蒼色の鎧がよく映える。
そのシエリアに向かって……紅いドレスの裾をたくし上げたシュレイスが転げるような勢いで走ってきたんだけど。
感動の再会を黙って見守るつもりだった俺は彼女がシエリアの左腕をバシンと叩き落とすのを見た。
「……なにやってたのよ王子様ッ! どれだけ心配したかわかってる⁉」
「わーお、ここは飛び付く場面じゃないんだねぇ」
「あっはっは! むしろ満点の反応さ! いいね、嫌いじゃないよあたしは!」
ボーザックがこぼしたのをラウジャがゲラゲラ笑いながら拾う。
「ああ、うう、私はむずむずします……!」
「そうね。ここはシュレイスから思い切り甘えてほしかった気もするわね」
真っ赤になって胸元で両手を泳がせるディティアにファルーアが妖艶な笑みで言葉を紡ぐ。
けれどそんな女性陣の反応を知ってか知らずか、シエリアは問答無用でシュレイスをぎゅーっと抱き締めた。
「ほあへッ⁉ ちょ、ちょっと王子様⁉」
「心配をかけましたね。でも――君のために花を摘んできました。まあハルト君たちが来なかったら危なかったんですけど。ありがとうございます、彼らを派遣してくれて。……さあ、これが誓いの花です」
すぐに解放されたシュレイスは口から魂とやらが出ていそうな放心状態。それでも顔は真っ赤で湯気が出そうだ。
うわ、なんか俺も心臓がバクバクしたんだけど……?
隣ではグランが眉を寄せて難しい顔で顎髭を擦っていて――うん、わかる。グランも俺と同じだよな。
「ははは。〈光炎〉を除いて全員酷い顔だぞ〔白薔薇〕」
「あら、あなたも〔白薔薇〕よ〈爆風のガイルディア〉?」
「はは! 俺を数に入れるな、伊達に長く生きていない。この程度では動じないぞ?」
歯を見せて笑う〈爆風〉にファルーアが肩を竦める。
はっとして振り返ればディティアは顔を覆っているしボーザックはしゃがみ込んで頭をガシガシしていた。
「……私、こういうの、あんまり慣れていなくて……!」
「俺もー……。不意打ちすぎて心臓が痛いやー……」
「……だってさ、グラン」
「俺に言うんじゃねぇよハルト……お前だって耳まで真っ赤だぞ」
えっ、そんなにか⁉
慌てて両手で耳に触れると……ひやりと冷たい。
あれ……? と思ったとき、グランが噴き出した。
「ぶっ……は! そうか、お前ちゃんと照れてんのか!」
俺はむうと唇を尖らせてグランを見上げる。
くそ、謀ったな……!
「仕方ないだろ……! こうも堂々とされたら……」
しどろもどろ言うと、しゃがみ込んでいたボーザックが跳ね起きた。
「え! ハルトが言う⁉ しかも照れてるの⁉ ハルトが⁉」
「なんだよその反応……」
「ふふ。僕の『幸運の星』ですからね、ハルト君は。ちゃんと成長しているということです!」
「いやいや、お前もなんでそうなるんだよシエリア……っていうか成長……?」
何故かシエリアが乗っかってきたのに突っ込んで、俺は肩を落とした。
「……まあいいや。それで? シエリアとラウジャも見つけたし花も摘めたし。依頼は完了か?」
経験上なに言っても無駄だもんな、諦めよう。
すると立ち直ったらしいシュレイスが腕を組んで大きく頷いた。
「……ええ! そうね! お金はアルミラに渡してあるわ!」
「ん……? アルミラさん?」
「そうよ。なにか準備するとか言ってたわ!」
「えぇと……婚姻の準備じゃなくて、か?」
「それとこれとはまた別。ああそれと、今日はこのまま城に泊まっていくといいわ! ほかの王子、王女様たちが夕食をともにしたいそうよ。……肩が凝るけど仕方ないわね」
「うふふぅ、シュレイスは新参者だもの。しっかり対応してもボロが出るのだから気にしなくていいわぁ」
シュレイスの一歩後ろ、ラミュースが目尻を下げて微笑む。
「ここまできたら完璧に熟してみせるわ!」
「ふふ。シュレイスはそのままでもいいんですけどね」
シエリアは三白眼を細めて恐い顔で笑いながら言うと、俺たちを振り返った。
「それじゃあ夕食のあとに今後の相談をしましょう! ユーグルへの連絡やアルミラさんとの取引の話でしたね? ラミュース、ラウジャ、準備をお願いします」
急激に涼しくなりましたね、いかがお過ごしでしょうか!
私はものすごく眠気に襲われています……更新遅くなってしまいました……すみません。
引き続きよろしくお願いします!