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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
758/845

雪をかきわけるのです④

******


「そういえば、あたしたちの荷物まで回収してくれていたんですね。さすが〈爆風のガイルディア〉!」


「僕の鞘まであって驚きました! さすがハルト君です!」


 …………。


 俺はなんだかムズムズして頭を振った。


「いや……褒める対象が限られすぎじゃないか……?」


「あっはは! 冗談だよ〈逆鱗〉! あんたら〔白薔薇〕には感謝しなきゃね!」


 豪快に笑うラウジャはすっかり元気に見える。


 シエリアは「僕は真面目に褒めていますよ」なんて真面目な恐い顔で言った。


 皆にかけたバフは『肉体強化』を二重。さらに『脚力アップ』に『五感アップ』で四重。


 俺たちは川沿いを下り、雪月蛾(せつげつが)を頼って雪のなかを必死で進む。


 いや、ほんと、昨日よりさらに歩きにくい。


 ものすごく体力を持っていかれるんだよな……これは『五感アップ』を『持久力アップ』にしないとならないかもしれない。


 息も切れれば汗もかく。水分を補給しつつようやく広場まで戻ってきたけど、今度は残された「糸」に悩むことになった。


「この糸が原因で病をもらった可能性もありますね」


 シエリアは眉を寄せて言うけど――それだと困るんだよなぁ。


 俺が口を開こうとすると、先にグランが唸った。


「だとすると俺たちもほぼ全滅だ。触ってねぇのは……〈爆風〉とボーザックか?」


「うん。俺も〈爆風のガイルディア〉も子蜘蛛係だったからね」


「子蜘蛛係って……随分な名前ね」


 突っ込んだのはファルーア。その隣でディティアがすこぶる嫌そうな顔をしている。


「魔力をふんだんに含んでいるから糸はよく燃えそうだけれど、それだと花まで燃えてしまうかしら」


「ふむ。消し炭にしかねんな」


「やっぱりそうなるわよね」


「触らねぇってのはあきらめて糸を何本か切ったほうが早いんじゃねぇか? 花の場所はだいたいわかってんだろうよ?」


〈爆風〉とグランが話に参加したところで、俺はふうと息を吐いた。


「病気もらうにしても糸が原因なら手遅れだしな。……よし、俺がやるよ」


 俺は〈爆風のガイルディア〉と〈疾風のディティア〉を見習って……というか、ちょっと意識して真似ながら双剣を引き抜く。


 しゃん、と頼りない小さな音がしたとき、ボーザックがぎょっとしたように体を跳ねさせた。


「ちょっ……ハルト本気で言ってる⁉」


「は? そりゃ本気だけど。俺はもう糸に触ってるし、いまさらだろ?」


「駄目駄目! もしそれでハルトの発症が早まったらどうするつもりなのさ? 俺たちにバフなしでこの雪をかきわけろってこと⁉ やるならグランだよ!」


「……はっ?」


 え、早まるとかそんなことあるか?


 いやいや、だとしたらさ。むしろ早くなんとかしないとだよな?


 そこでグランが眼を閉じたまま顎髭を擦りながらため息をついた。


「はー……。おいハルト、ボーザック。お前ら本気か?」


「はっ?」

「えっ?」


「あはは……ええとね、ハルト君の『魔力活性』でファルーアに切ってもらおう? ほら、親蜘蛛と戦ったときみたいに……」


 困ったように笑っているのはディティアで、その後ろの〈爆風〉は珍しく肩を震わせている。


 ファルーアにいたっては雪よりも冷たい妖艶な笑みが唇に浮かんでいたりして。


「あー……」


 俺はそろそろと双剣を収め、ばっと手を振り上げた。


「『魔力活性』ッ! ファルーア頼んだッ!」


「まったく……。王子様、ラウジャ、花がどのあたりにあったかはわかるわね?」


 ファルーアは呆れたような素振りに少しの笑いを含んだ声で言う。


 シエリアとラウジャは顔を見合わせ、すぐに広場を指さした。


「そこらじゅうにありますよ」

「そのへん全部さね」


「あら……それならちょっとくらいいい(・・)わね」


 俺はファルーアの言葉に一歩下がった。


 いいって……なんだ? 嫌な予感がするぞ……。


「吹き荒れなさいッ!」


 俺の考えを余所にくるりと回された龍眼の結晶が填まった杖の先、雪がぶわりと舞い上がる。


 それはぐるぐると円を描きながら言葉通り吹き荒れ、糸を切り裂きながら広場の上をすっ飛んでいった。


「わ、わあ…………!」


 現れた光景にディティアが感嘆の声を上げ、グランがぽかんと口を開けるけど……。


「……雪もだけど……花も飛んでるよな……?」


 きらきらと光を散らしているのは花弁のような形だ。


 思わずぼやいた俺にファルーアはザクッと音を立てて杖を雪に突き刺した。


「大丈夫よ。中央付近は少し荒れたかもしれないけれど、ほら」


 ファルーアの指先を追って視線を広場に落とし、俺は眼を(みは)った。


「……すご」


  魔法が掻き分けて吹き飛ばした雪の下、美しく凜と咲くのは透き通った薄蒼い花。花。花。


 俺の手のひらくらいの細長い花弁が五枚。


 氷のようだと聞いてはいたけれど、葉に奔る葉脈まで透明で……美しい。



「……ああ。ようやく摘めますよ、シュレイス……」



 シエリアが三白眼を細めて呟いたのが優しく耳に触れ、俺はゆっくりと息を吸う。


 大切なひとへの、永遠を誓う花。


 愛おしさがあふれたその声音が胸の奥をじわりと熱くする。


「…………ずっと幸せでいてくれよ、シエリア。もう暗殺なんてないんだから」


「……ハルト君……。ふふ、ハルト君も幸せでないと困りますよ。僕の『幸運の星』」


「おう」


 俺が右の拳をそっと差し出すと、シエリアの拳がガツンとぶつけられた。


 そうだったな、最初にシエリアに拳を出したとき叩きつけられたのはシュレイスの拳だった。


「大切なひと、か……」


 思わず呟いたとき、シエリアが恐い……もとい嬉しそうな笑顔で返す。


「ハルト君にだっているじゃないですか」


 不覚にも胸がギュッとなって、俺は少しだけはにかんだ。


「……おう。まだまだ遠いけどな」


******


 シエリアは茎を摘まみ、ゆっくりと引き寄せる。


 ぱきりと音がして手のなかに収まった花にシュレイスの面影を重ね、それを翳してシエリアは小さく笑った。


「……ねぇシュレイス。僕からすれば、もうそばにいるのに――ハルト君はいつでもハルト君なんですよね」


 その呟きが聞こえたのか――雲間から零れた陽光に花がきらきらと瞬いた。


すみません昨日寝落ちしました……

いらしてくださった皆さま申し訳ないです、ありがとうございます。


そういえばリベンジ企画のコミカライズ?を応募しているので、よかったら評価やブクマなどなどお願いします!

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