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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
757/845

雪をかきわけるのです③

******


「…………はっ、くしゅんッ!」


 盛大なくしゃみで体が跳ねる。


 同時に瞼も跳ね上がったけど――あれ、俺、眠ってたのか……?


 いてて……直に地面に転がってたんじゃ体も軋むよな……。


 考えながら腕で顔を擦ったところで俺はガバリと跳ね起きた。


「あ……シエリア⁉ ラウジャ……! っていうか皆は……⁉」


 シエリアとラウジャどころか皆の姿も見当たらない。


 聞こえるのは川の音だけで、立ち上がった俺の肩から落ちたのは誰かの寝袋だ。


 えっ、皆どこに行ったんだ……⁉


 ひっつかんで慌てて洞窟の入口に走ると…………そこでは皆がのんびりと焚火を囲んでいた。


「……は、うわ、なんだよ! 起こしてくれてもいいのに……ッ!」


 口にすると、そのなかのひとりが立ち上がる。


「ハルト君ッ! おはようございます! やっぱり君は僕の『幸運の星』です!」


 飛び付くようにやってきて俺の手を握り締めたのは……そう。シエリアだ。


 冷めた蒼い色の三白眼が細められ口元にはニヤリと浮かぶ笑み。慣れたはずだったけど相変わらず恐い。


「お……おう、シエリア……。久しぶりだなこの感じ……」


 思わず言うと、シエリアは俺の手を放して両手を顔の横でひらひらさせた。


「あぁっ! ご、ごめんなさい。嬉しくてつい……! まさかハルト君たちが助けにきてくれるなんて思ってもみなかったですから……!」


 別に手のことを言ったわけじゃないけどまあいいや。


 俺はどうにか笑みを浮かべ、ほっと息を吐き出した。


「とりあえず起きたんだな……よかった」


「はいっ! おそらくハルト君のバフのお陰だと――」


「まあ座りなよシエリア。〈逆鱗〉にはあたしも礼を言いたいし」


 そこでラウジャが言うので、俺はいそいそと座ったシエリアとボーザックのあいだに腰を下ろす。


 俺がバフを覚える頃に雪は止んでいたなと思い当たったけど、ここから見える空は晴れているとは言い難い。


 地面には俺の膝上くらいまで雪が積もり世界を白く染めている。


 ふたりが起きてくれなかったら厳しかったな――。


 考えているとボーザックが器を差し出して笑った。


「ぐっすり眠ってたから先に朝食にしたんだ。はい、これハルトのぶん」


「ありがたく頂戴するけど……起こしてくれてもいいだろ」


「ふふ。あのねハルト君。先に王子様たちが起きて慌てちゃったのもあるんだけど……結構にぎやかだったのにハルト君が全然起きなかったんだよ」


 俺の言葉にディティアがくすくす笑う。


「え、俺そんなにぐっすり眠ってたのか?」


 真顔で聞き返すと、ラウジャがバシバシと膝を叩いて身を乗り出した。


「あっはは。雪で相当疲れていたんじゃないかい? とにかく礼を言うよ〈逆鱗〉! 〈爆風のガイルディア〉を連れてきてくれるなんて!」


「ははは。お前、礼を言う部分がおかしいんじゃないか?」


「相変わらず冷たいこと言いますね。あたしは会えて嬉しかったんですよ? 感動の再会じゃないですか!」


「俺は別段感動していないがな」


〈爆風〉の返しにラウジャが「またまたー」と豪快に笑っている。


 俺は横目でそれを見つつ、シエリアに聞いた。


「それで? なんで魔物に捕まったんだ? 体は大丈夫なのか?」


「はっ……! さすがハルト君、僕の体調を見抜いているなんて! ……実はこの寒さで風邪を引いたみたいなんです。体調がすこぶる悪くなって意識が朦朧としたところを見事に親蜘蛛に噛まれてしまいました。ラウジャが庇ってくれたのですが、逃げることもままならないくらいで……気付いたらハルト君がいたというわけです!」


「ええ……」


 思わずこぼれた呆れ声に、グランが顎髭を擦りながらため息をこぼす。


「俺たちが来なかったら蜘蛛の餌だぞ……」


「まあまあ、いいじゃないか……とは言えないね。あたしも同じようにもらっちまってたんだ。それでシエリアを護れないんじゃ近衛失格だ。もしかしたら子蜘蛛がなんか持ってたのかもしれないしね」


 ラウジャが頬の傷痕を指先でなぞるけど……。


「それだと困るわ。私たちももらっている可能性があるってことよ?」


 ファルーアが思い切り顔を顰めると、シエリアが恐い顔のまま二度頷いてみせた。


「そうなりますね。雪を掻き分けて花を摘み急いで帰りましょう。幸い僕たちは寝たら治りましたし、なんとかなりますよ」


「あのぅ王子様。聞いた感じですけど、親蜘蛛に噛まれたことで風邪みたいなものが中和された可能性もありませんか……?」


 シエリアの言葉にディティアがそっと手を挙げて意見する。


 その表情はものすごく硬い。


「わーお。だとしたら俺たちもそろそろ発症するのかなー? 子蜘蛛を相手にしたのは俺とグランと〈爆風のガイルディア〉だよね」


 確かめるように肩をぐるぐる回しつつボーザックが言うけど……それ洒落にならないな。


 俺は急いで朝食を掻き込み、流れる川の音を背に頭を振った。


「どっちにしてもさっさと発とう。まあ俺が寝てたせいもあるんだけど……」


 すると〈爆風〉がカラカラと笑って言った。


「思ったより疲れていたようだからな。少しは休めただろう?」


皆さまこんばんは!

本日もよろしくお願いします。

よかったらブクマなどなどどうぞー!

いつもありがとうございます。

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