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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
756/845

雪をかきわけるのです②

******


 その夜。


 俺と〈爆風〉の見張りの時間がきたので外に出ると雪はまだ降っていた。


 この分だと皆が起きてくる頃には相当積もるだろうな。


 俺たちはファルーアとディティアとの交代だったんだけど、どうやら茶を沸かしておいてくれたらしい。


 焚火にかけられた鍋から甘い香りのする湯気がくゆっている。


「ありがたく頂戴するとしよう」


〈爆風〉はそう言うとさっさと俺の分も器に注いで差し出してくれた。


 俺は茶を受け取ると焚火の横に腰を下ろす。


 身を切るような冷たい空気が頬に触れるけれど、火のそばなら耐えられそうだ。


 あたりは静かでなんの気配も感じない。


 まるで山全体が眠ってるみたいだな……。


「……なあ〈爆風〉。シエリアとラウジャ、起きるかな」


 茶を(すす)る〈爆風〉に問い掛けると、彼は白い息を吐きながら肩を竦めた。


「うん。それなんだが――ある程度暖まることで起きるという線は望み薄かもしれん。洞窟内は年中同じくらいの温度だ。それにふたりは懐炉(カイロ)も持っていたのだろう?」


 俺はその言葉に茶を飲みかけていた手をビタリと止める。


 なんかこう……鈍器で殴られたみたいに衝撃的だったんだ。


「ああッ⁉ そうか、そうだよな! 気付いてたなら早く言ってくれればいいのに……!」


 鼓動が速くなって指先に熱が奔る。


 文句を言うと、彼はカラカラと笑った。


「ははは。どっちにしろ休息は必須だったからな。それに懐炉があってもこのとおり寒い。より暖まることで起きる可能性がないわけでもないだろう?」


「それはそうだけどさあ……」


 ぼやきながら今度こそ茶を飲み、俺はほーっと息を吐く。


 うん、まずは落ち着こう。そうでないといい考えも浮かばないからな。


 ――香り付けされた茶はアルヴィア帝国の特産品だ。


 あの国で病と戦っているであろうキィスヘイム=アルヴィアを思い唇を引き結んだ俺は……もうひとくち茶を飲んでから大きく深呼吸した。


 シエリアとラウジャの状況をキィスの状況に重ねてしまったからだ。


「あのさ。魔力が不活性化してる可能性はないかな……」


「ふむ、それは俺も考えたが……シエリアとラウジャは『深く眠っている』と見てわかるからな。お前のときとはまるで違う。あいつらは呼吸も脈もあるがかなり遅く体温も低い。しいて言うなら時間の流れる速度が半減しているような状態か。呑気なものだ」


「だよなぁ……そうするとやっぱりなにかの毒かなぁ……」


「毒を抜くバフはないのか?」


「そんなものないよ……あったら〈爆風〉がやられたときに使ってるし」


「ははは。ならば作れ」


「はあ? 簡単に言うなよ……毒なんて分解する方法わからないし……そもそも呼吸も脈も落ち着いてるんじゃ治るものも治らない――ん?」


 待てよ。落ち着いてる?


 俺は一瞬だけ首を捻り、手元の茶を飲み干した。


 そうか! それなら精神安定バフを応用できないか?


 あれは精神を落ち着けて混乱状態を予防するためのバフだ。


 呑気なほどに落ち着いた状態だというなら、いっそ気持ちを昂ぶらせてしまうのはどうだろう――。


 さっき衝撃を受けたとき、俺はどうだった? 脈が速くなって体が熱くならなかったか?


「なあ〈爆風〉。ちょっと手伝ってくれ。思い付いたことがあるんだ」


〈爆風〉はそれを聞くと歯を見せてにやりと笑った。


「いいだろう」


******


 空が濃紺から薄青く透き通った色に塗り変わる頃、俺は右手を振り上げてバフを練った。


「いくぞ〈爆風〉! 『精神活性』!」


「……うん。よさそうだな」


 正直、使いどころがさっぱりわからないバフなんだけど……もしかしたらこれでシエリアたちを強制的に起こせるんじゃないかって思ったんだ。


 修得にもそう時間が掛からなかったのは大きい。


「気持ちが逸る、というとわかりやすいか。自制できないほどではないが……相手に無茶をさせたい場合に重ねれば心臓に負荷をかけられるかもしれん」


「なんだよそれ物騒すぎるだろ……まあとりあえず完成できたな。皆が起きたら試してみようか」


「気持ちが逸ってすぐ起きるとも限らない。見張りは任せてお前はバフを試してこい〈逆鱗〉」


「ん、そっか。ありがとう。じゃあ試してくる」


 本音を言えばすぐ試したいのもあって、俺はいそいそと立ち上がる。


 背中越しに〈爆風〉が笑ったのが聞こえたが気付かないふりをした。


 だってさあ、新しいバフだぞ。試したいだろ。


 そんなわけで俺は皆を起こさないよう気配を殺しながら、寝袋に包まれたシエリアとラウジャにバフを広げた。


 念のため重ねるのはやめておこう――。あとはこれを切らさないようにすればいい。


 耳をそばだてれば、皆の寝息に混ざってシエリアとラウジャの鼓動が聞こえる。


 寝袋に腕を差し入れて首筋の脈を確認すれば、うん……しっかり動いていた。


 体温はやっぱり冷たいほどだけれど、これももう少しすれば上がってくるかもしれないな。


 俺はふう、と息を吐いて……ふたりの近くに胡座を掻いた。


 頑張れよ、ふたりとも。


皆さまこんにちは!

コロナは咳が長引いて酷い状況です。

咳止めが品薄なのも頷けますね……


シエリアとラウジャは冬眠しているイメージです。

でも冬って概念を書いてないので……という。


引き続き何卒よろしくお願いします。

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