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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
755/845

雪をかきわけるのです①

******


 とにかくシエリアたちを温めようと洞窟の入口付近に戻った俺たちは……再び降り注ぐ雪に肩を落とした。


「さすがにふたりが眠ったままだと雪道はしんどそうだね」


 ボーザックがぼやきながら自分の寝袋を広げる。


 グランも寝袋を広げ、シエリアとラウジャに使わせると言った。


 それならばとファルーアに火を起こしてもらったけれど、外気に晒されるのは相当冷える。


 結局、俺たちは洞窟内に少し入ったところを拠点にした。


 硬い地面は痛いし触れると冷たいけれど文句を言うわけにもいかない。


 休む前に〈爆風〉とボーザック、ファルーアは魔物が残っていないかを確認するため再度奥へ向かい、ディティアが火の番と外の見張り兼、夕飯係。


 俺はグランと一緒にシエリアとラウジャの様子を見ることになった。


 本当にただ深く眠っているようだけど……触れた頬はひんやりしている。


 全体的にこう、活動を停止しているみたいな感じだ。


 なんていうんだろうな……仮死状態っていうのが丁度いいか?


 魔力切れのときに似ているような気がするし、もしかして魔力活性でなんとかならないかな……。


 あれこれ考えているとグランが顎髭を擦りながら切り出した。


「……なあハルト。親蜘蛛の強さはどう思うよ?」


「……うん? そうだなあ……シエリアとラウジャがやられるほどじゃなかった気がする」


「俺も同感だ。動きもそう早くねぇ。つまり、だ」


 グランはポンと膝を叩くとシエリアたちを指さした。


「シエリア王子と〈雄姿〉は袋の中にいた。普通に考えれば生きたまま子蜘蛛の餌にするためだろうよ。死んでる餌でいいなら生かす理由がねぇからな。ただ子蜘蛛も袋の中にいた……それはなんでだ? この極寒の時期を越えるためなんじゃねぇか?」


「……? 寒いあいだの餌にするってことか?」


「違ぇよ。暖かくなってから喰うんだ。あの袋が防寒の役目をしていたんじゃねぇか? あの中で魔物たちも眠って過ごす――暖かくなって目覚めたら空腹をなんとかする必要がある。だからふたりを暖かい時期まで強制的に仮死状態にする必要があったんだろうよ」


「眠って過ごす……あー、そう考えたら親蜘蛛の動きが鈍かったのも納得いくな。半分眠ってたんだ」


「そういうことだ」


 俺はグランの言葉に深々と頷いて……眠るシエリアに視線を移す。


「魔物はこの寒さを越える準備をしていたってことか……」


「最初は花がある広場を巣にするつもりだったのかもしれねぇな。そこをシエリア王子と〈雄姿のラウジャ〉に叩かれた。ここまで時間が掛かってるが……それだけ親蜘蛛が強かった可能性はあるだろうよ」


「んん……そしたらふたりを温めたら起きるのか……?」


「そこは――わからねぇな」


「…………」


 俺が渋い顔をしたせいか、グランは生温い笑みを浮かべて髭を整えるための道具を取り出した。


「なんにせよ皆が戻ったら少し休むぞ。そうしたら段取りだ。ずっとここにいるわけにもいかねぇからな」


「わかった。正直へとへとだし……腹も減ったよ」


 ここまできて焦っても仕方ないからな……。


 俺はシエリアの額にかかった金色の前髪を指先で払い、眠っていれば恐い顔じゃないなと失礼なことを考える。


 そうこうしていると奥から〈爆風〉たちが戻ってきた。


「子蜘蛛もすべて討伐できているようだ。おそらくだが……シエリアとラウジャが先に子蜘蛛を片付けていたのだろう」


「戦闘の痕跡があったんだ。荷物も拾ってきたよー! 雪月蛾(せつげつが)もこのとおり!」


「そりゃ朗報だな」


〈爆風〉とボーザックの言葉に顎髭を整えたグランが頷く。


 シエリアたちがいままでどうしていたのかって部分はこれで解決だな。


 それに焚火は昨日の夜も焚いていたはずだ。


 彼らが眠らされてから長い時間は経っていない。


 だったら起きるまでそう掛からないかもしれないよな。


「俺たちも少し考えたことがあるんだ。飯食べながら話そう」


 ――なんとなくだけど先が見えてきた。


 俺は立ち上がってディティアを呼んだ。


******


 食事を摂りながら俺とグランの会話をそのまま伝えると、皆同意してくれた。


 とはいえ、ふたりが魔物におくれを取った理由は少し弱いと〈爆風〉に言われる。


「あの程度の魔物なら起きていようが簡単に沈めるぞ、ラウジャは」


 ……なんだかんだ信頼しているんだな。


 隣で口にされた〈爆風〉の言葉に俺は口元を緩めてしまった。


 俺たちもこんなふうに言われるのかも、なんて思ったからだ。


 しかし甘かったというか、ちょっと自惚れていたというか。


 完全に意識が緩んだ俺の腹に〈爆風〉の指先が突き込まれたのである。


「……ッ、……ッッ!」


「いまのをハルトが避けていたら多少は認めてもらえたかもしれないわね」


 ファルーアにぴしゃりと言われて悶絶しながら右手を前に突き出してコクコクと頷く。


 わかってる。俺が甘かった。ごめんなさい。本当に痛いんだぞ……!


 っていうか、そこまで顔に出てたのか? 俺……。


「お前は本当にわかりやすいからな――まあなんだ。とにかく話を戻すぞー」


 グランは俺の疑問を正しく読み取った言葉を口にしてから軌道修正を図る。


 反対に俺はおとなしく唇を引き結ぶことにした。


「シエリア王子と〈雄姿〉は温められるだけ温めて様子を見るが、明日の朝になっても起きねぇなら背負って連れ帰る。雪がもっと深くなると危険だからな」


「そうですね。そうなったらハルト君に頼らないと」


「バフがないと王子様たちを背負って雪道は難しいもんねー」


 ディティアとボーザックがグランに応えたところで、俺は結んでいた唇をひらく。


「バフはなんとかするよ。あとは起きなかったとしても俺たちで花を摘んでやらないとだな」


 するとファルーアが思わずといった様子で噴き出した。


「あはっ。本当にそういうところは気遣えるのにね……!」


「……? なんだよ、そういうところって……?」


 褒められた気がしないのはなんでだ……?

 

本日もよろしくお願いしますー!

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