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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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75/847

目指す場所があるので。①

ハイルデン王都のギルドは、まさにてんやわんやだった。


元奴隷達が大挙してきて、ギルド内はパンク寸前。


ある者は冒険者としての登録が抹消されてないかを確認。

ある者は冒険者になるための情報を集めに。


当面は今の主人に仕え、後に独立するなんて人達もいた。


奴隷制度廃止は、思った以上の成果を上げてるみたいだな。

どこに隠されていたのか、虐げられていた奴隷達も、逃げてきたのかちらほら見かけることが出来る。


そして。


「白薔薇!」

黒い鎧から惜しげも無く晒された腹筋のドルムが、何故かカウンター内にいる。

呼び名に、元奴隷達からどよめきが起こった。


なんか久しぶりかもしれない、この、視線がちくちくする感じ。


「おお、どうした」

グランが応えて、俺達はカウンターへ移動。

ドルムは人手不足に陥ったギルドをヘルプしているそうな。


「母さんから連絡があってな。やってくれるなあ、まさかサーシャの知り合いだったとは」

「いやいや、俺達の方がびびったってば。ドルムがサーシャのお兄さんとかさー」

ボーザックが笑って返す。

「まあ、そうなるか。…とにかく、奴隷制度が唐突に無くなったらこんなことになるってのは想定外だったぜ!どうするんだ?すぐ発つのか?」

「そうね、もう少しはやることがあるのだけど。まだもう一つ行く場所が残ってるしゆっくりはしていられないわ」

ファルーアが言うと、ドルムは「ヴァイス帝国か」と呟いた。

そして、声をひそめる。

「お前等が王族を訪ね歩いてるって噂な、出所がわかったんだ」

「あ、そういえばそんな話してたな」

すっかり忘れてた。

「それで、どこだったのかしら?」


「……マルベル王の近衛、ガイアスだ」


「……えっ?」

「俺に届くように、ギルドで噂を流してたみてぇだ」


まさかとは思うけど。

ガイアス、俺達にドルムが接触するように?


「してやられたか」

グランが笑う。


そう、俺達の力を借りたいとマルベルは言ったけど。


ガイアスが、それを叶えるべく動いていたんだろう。


「流石、鉄壁ね……壁が厚すぎるわ」

敵には回したくないな、と思った。


******


翌日、マルベルが集めた貴族達と、露店の宝石商人達の前に俺はいた。


2回目の、足元がすーすーする礼服を着て、その面々を眺める。

頭の固そうなじいちゃんや、きつい顔のおばさん等々。

おそらくだけど、古い貴族達だろう。


「なんだ、あいつは」

ざわめく貴族達を、マルベルが手を上げて制する。


「紹介しよう、彼の飛龍タイラントを屠りし白薔薇のバッファー、逆鱗のハルトだ」


空気が変わる。

俺は頭を下げて、マルベルの隣に立った。

後ろの方に、礼服に身を包んだディティアが控えている。

彼女は、礼服の下に双剣を隠して、有事の対処のために付いてきてくれていた。


眼が合うと、にこりと笑ってくれる。


俺は、ローブの内側にあるブレスレットを、ローブの外側からそろっとなぞった。

……調度良いから、帰りにでも渡そうと思ってさ。


「今日皆を集めたのは他でもない。我が国のこれからについてだ。新たな切り口でハイルデンに冨をもたらそう」


着々と説明が進む。

並べられた、濁ったエメラルドと澄んだエメラルド。 

俺はマルベルの合図を待って、バフを練り上げた。


「魔力感知、魔力感知!」


「お、おお……」

「これはっ……」


魔力を含む宝石は、魔法を使える者にとって重要な役割を果たす。

宝石を通して魔法を使うと、より強力なものになるんだ。


そして、魔除けとしても優秀。

これだけの含有量なら、弱い魔物はそれだけで寄ってこない……らしい。

うん、全部ファルーアの受け売りなんだけどさ。


だからこの宝石は、冒険者にとっても、街道を歩く商人達にとっても、すごく価値がある。


……ちなみに、その極めつけが魔力結晶ってわけ。


唸る貴族達。

拍手する商人達。


俺はマルベルと顔を合わせて、頷きあった。


******


「報酬はこれだ」

渡されたのは、加工されたエメラルドが填まった腕輪だった。

「……え?これ俺に?」

「ああ。バフも魔法と変わらないだろう?」

「まあ、そうかも」

「なら持っておけ。……礼を言う、ハルト」

「何だよ今更!……やったな、マルベル」

俺達は腕を交錯させて打ち、笑う。

「ハイルデンの英雄。必ず、その名が価値あるものにしてみせるから待っててくれ、ハルト」

「おう、楽しみにしてるよ」


それから、と。

マルベルが、ディティアを見た。

「疾風のディティア。貴女にも礼を。ありがとう、可愛い人」

「かっ、や、やめてくださいってばマルベル王…」

「はははっ、やはり良い反応をするな!」


控えているガイアスが、哀れそうな顔をしている。

俺はディティアとマルベルを横目に、ガイアスに話しかけた。


「なあガイアス」

「なんだ?」

「俺達が噂に流されたわけじゃないって、知ってた?」

「おや…ふふ、もうばれていたか」

「まあ、わかったのは昨日だけどさ」

「知らなかったし、ルーシャ様経由で謁見の申し込みがあったのでな、ちょっと予想外だった。……しかし1番の予想外はグランだ。まさか鉄壁を探してるとは」

笑うガイアス。

俺は頷いた。

「グランが2つ名欲しいって言ったら、つけてくれるか?」

「……。いや、私では駄目だ。彼はもっと強くなるだろう。だから、グランには、さらなる箔を与える方がいいはずだ」

「……つまり?」


「望むなら、俺が付ける。逆鱗のハルト」


「マルベル…!」

「側近と友が認めた男なら、当たり前だろう?」

俺は、ちょっと感動してしまった。

やばい、友って。

「ふふ、ハルト君うれしそう」

「い、いいの!そういうところは突っ込まないの!」

俺はごほんと咳払いして、2人に向かい合った。

「それじゃあ、もしグランが望んだら、その時は」

「任せとけ」


それにしても。

グラン、王族には縁でもあるのかなあ。


俺はマルベルとわかれ、ディティアと共に宿へと向かった。

露店が並ぶ道を並んで歩きながら、ことの顛末を話し合う。

「ハルト君、素敵な腕輪もらえて良かったね!」

「…えっ?あ、うん」

「?、どうしたの?」

いつ渡そうかなあなんて思ってたから、ちょっと変な反応をしてしまった。


…いや、むしろ今しか無いよなあ。


「あのさ、ディティア」

「なあに?」

「………これ」


あれ。

何か、すげー緊張するんだけど。


俺はそっと、彼女に包みを手渡した。


「開けて」

「うん?………わ、わあ!」

包みを開けた彼女は、エメラルドグリーンの眼を見開いた。


きらきらした表情に、俺は。


「…!……!?」

動揺してしまった。

何だこれ。


「は、ハルト君、これ、私にくれる、の?」

「あ、えっと。…エメラルドに魔力がいっぱい入ってるって解ったときに、その……」

「買わされちゃったってやつだよね?」

「あ、う、うん」

「………いいの?」


俺は。

少し迷って、言った。


「ディティアの眼みたいで、綺麗だなって思ったから、さ。…初めから、その、ディティアのためにって思ったんだ」


「…………」

ディティアはぽかんと俺を見ていた。

じわじわと、照れがくる。


「も、もういいだろっ、ほら、帰ろう、ディティアっ!!」


俺が背中を向けると、ディティアの笑い声がした。


「わあ……ふふっ、えへへーー嬉しい、ありがとう、ハルト君!!」


それから、宿までずーっと。

ディティアは手首のブレスレットをかざしながらにやにやしていた。


……まあ、良かった、のかな。



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