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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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雪はつめたいのです⑤

******


 山に辿り着くまでに同じ魔物に三回も遭遇したのはさすがに辟易する。


 同じ群れなのかどうかまではわからないけど――お陰で気配を探ることに神経を使った。


 最初こそ失敗したものの、二回目、三回目を早い段階で察知できたのは僥倖だな。


 まあ……〈爆風〉は「天然の遊びはいいな!」とかなんとか言って歯を見せ笑っていたけど。


 さて。山の麓から登山道へ入る場所には立て札があって、俺たちはそこから踏み込んだ。


 景色は森と変わらないんだけど……なんだかさらに寒くなった気がする。


 懐炉(カイロ)にはファルーアが魔力を込めてくれているんで温かいけど、正直足りない。


 露出した頬は痛いくらいに冷えていたし、手袋をしていても指先の感覚が鈍ってきている。


「寒いってのはここまで厄介なんだな……この寒さの依頼はもう請けたくねぇぞ」


 グランは不満を混ぜた不安を口にして木々の枝葉の隙間から空を見上げた。


 俺もつられて振り仰いだ先には厚く垂れ込めた雲。どんよりとしていて、まるでのし掛かってくるようだ。


 朝だっていうのに――暗いんだよな。


「これは……降りそうですね」


 ディティアが眉を寄せて言う。


 それが雨なのか雪なのか……俺にはさっぱりわからない。


「雪ってどんな感じで降るんだ?」


 ふと気になって口にすると、彼女はうーんと首を傾げた。


「えっと……なんかこう、ひらひら? とか?」


「えー? もっとドカドカッと降るんじゃない?」


「デミーグの魔法では槍みたいに降り注いでいたわ」


 ボーザックとファルーアも思い思いに応えてくれるけど……槍って……嘘だろ……。


「積もると厄介だぞ〈豪傑〉。今日進む予定の場所はどうなっている?」


 すると〈爆風〉がグランに問い掛けた。


 確かに……どのくらいで積もるんだろうな、雪って。


「道なりに進めば途中に洞窟があるみてぇだな。夕暮れ前には到着できる距離か。多少の雪なら凌げる」


「洞窟かー。魔物の住み家だったりはしないのかな」


「あー、記載によれは洞窟は深くないらしいぞ。大丈夫だろうよ」


 地図を広げたグランはボーザックに答えるけど、さすがアルミラさんの用意した地図だ。


〈爆風〉は頷くと先に踏み出した。


「昼飯は食べながら移動したほうがよさそうだ。少しでも早く到着して明日に備えるぞ」


******


 洞窟までもう目と鼻の先、だろうか。


 幸い〈爆風〉の腰で揺れている籠の中身――雪月蛾(せつげつが)の出番はなかったけど……。


「さむ……寒い……」


 ボーザックが両腕で己の身体を擦る。


「ほ、ほんとだな――こ、こんなに、冷えるのか……」


 かくいう俺も気を抜くと、こう……歯がカチカチ鳴るというかなんというか。


「……あ」


 するとディティアが立ち止まった。


 そこになにか……綿のようなものがハラリと舞い落ちる。


 ひとつ、ふたつ――。


「わあ……これが雪……」


 彼女はそっと手袋越しに欠片を受け止め、ほう、と息を吐いた。


 思っていたよりずっと幻想的で、鈍色の空から舞い降りてくる純白がよく映える。


「……」


 俺は右の手袋を咥えて外し、手のひらで雪を受け止めた。


「……冷たい」


 冷えた手よりもずっと冷たいその粒はすぐに溶け、小さな水滴が残るだけ。


 これが一面に積もるのか……。


「ふふ」


 すると、珍しくファルーアが吐息とともに笑った。


「……ん? どうした?」


 手袋をはめなおしながら聞くと、彼女はいつもの妖艶な笑みで首を降る。


「いえ、そういえばナンデスカットのチョコレートが雪のような口溶けを謳っていたわね……と思って」


「ナンデスカット……」


「って、何ですかっと!」


 俺が反芻した言葉にボーザックが続けて笑う。


 俺は彼の肩を軽く小突き、一緒になって笑った。


 ナンデスカットは俺たちの故郷がある大陸(アイシャ)、その北部の商業国家ノクティアにある老舗菓子屋だ。


 俺たちを模した『菓子白薔薇』を作った職人――ナンデストを護衛したっけ。


 もうずっと前のようで……そっか、随分遠くまで来た気がするな。


「ナンデストの護衛の途中でフェンに会ったんだよねー」


 ボーザックが雪を手に受け止めて言う。


 神々しささえ感じる美しい白銀の毛並みが雪と重なった。


「早く王子様たちをみつけて……そしたら会いに行こうね」


「ええ。きっと大きくなっているわ」


「そりゃあいいな……寒い依頼もフェンがいりゃよく眠れそうだ」


 ディティアの言葉にファルーアとグランが返す。


 聞いていた〈爆風〉は眼を細めると道の先を指差した。


「当面は自分たちの身を寄せ合うしかないだろうが、うん。フェンリルなら申し分ない温かさだろうな。洞窟が見つかったぞ」


「おお……とりあえず凍えなくて済みそうだな。俺、薪集めるよ」


 俺は応えてから皆の『五感アップ』をかけなおしたんだけど――。


「まあ待て〈逆鱗〉。まずはやることがあるだろう?」


「……は?」


「目を閉じろ」


「! い、一、二、三ッ!」


 俺は瞼をぎゅっと閉じて慌てて数え、冷たい雪を感じながらすぐに気配を追った。


早く書けたので今日もぽち。

いいねが増えていくので嬉しいです!

見てくれているひとがいるのはありがたいですね✨

いつものありがとうございます。

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