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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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雪はつめたいのです④


 俺が武器を構えると、ディティアも〈爆風〉も双剣を抜く。


 グラン、ボーザック、ファルーアもすぐに臨戦態勢になって、俺たちは互いの背を内側に円形をとった。


 ――囲まれていたからだ。


「参ったわね……真面目に気配を探っていなかったわ」


「気配を殺した相手ってぇのは厄介だな。ここまで気付けねぇとは……」


 ファルーアとグランが言うけど確かに厄介だな。


 森自体がひっそりと息を潜めているように静かで微かな気配も目立つだろうし、隠れることに長けていないと生き残れないのかも。


 しかも俺たちを囲むこの布陣――相手は俺たちを『狩る』つもりなのだ。


「――数、結構多いね」


 ボーザックが囁く。


「一体の大きさはそこまでなさそうだけど――油断はできないな」


 俺が応えたのと同時、〈爆風〉がひとこと告げる。


「来るぞ」


 悟られたことを察した気配たちが一斉に動く。


『ギャギャッ……シャーッ!』


 鼓膜をつんざく叫び声は前後左右から呼応して発せられ、飛び出してきたのは人の形に似た二足歩行の魔物。


 体は白い体毛に覆われ、なんというか腹のあたりが丸々している。


 体高は俺の胸くらいだが腕が長く、猿とも違う楕円形の頭には突き出した大きな丸い眼がギョロリと動いて(・・・)いた。


 唇を捲りあげて開かれた口には太い犬歯が見える。


 耳……はどれだろうな……。


「ふむ。この大陸(トールシャ)でも初めて見る形だな」


〈爆風〉は呑気に言ってのけるけど――。


 そいつらは両脚で跳ねるように俺たちへと迫り、腕を振り上げた。


「まぁまずは挨拶だろうよ! おらああぁっ!」


 ドガァッ!


 挨拶というには強すぎるグランの一撃が一体を跳ね飛ばす。


「……『肉体強化』『肉体硬化』『反応速度アップ』!」


 そのあいだにバフを練った俺は五感アップに上書きして三重に展開。


 飛び掛かる一体をボーザックの大剣が一刀両断したところでファルーアがくるっと杖を回した。


「――突きなさいッ」


『ギャヒッ!』


 地面から突き出す土塊に数体が跳ね上がる。


「うん。これはいい的になる」


〈爆風〉がその土塊を足場にして駆け上がり双剣を閃かせた。


「……ふっ!」

「はぁっ!」


 俺は自分に飛び掛かってきた一体を蹴り飛ばし、次の一体をディティアが屠る。


 一匹一匹は強くないようだけど――数が多い。


 それに、なんだろう。


 遠巻きに見ているだけでこっちに来ない奴らがいる。


 長い腕を前に伸ばし奇妙に揺らすその姿は異様だ。


「グラン、なんか変だ! 気をつ――ッ⁉」


 言いかけた瞬間、首筋がチリリと粟立った。


「うおっ……」


 グランの大盾がバチンと大きな音を立てる。


 その縁から散ったのは――炎。


「あちっ! 寒いところで火かぁ、でもさー、熱すぎるのはありがたくないよね!」


 グランのそばから飛び退いたボーザックが腕で頬を拭う。


 そこに次の炎が球となって飛来するのを躱し、彼はブンと大剣を振った。


「――近寄ればいけるかな?」


 しかし――。


 ぼ、ぼ……っと揺らぐ空気の音とともに、周りにいた魔物の腕の先で炎が盛る。


 心なしか体感温度が上昇し、さっきまでの寒さは感じなくなっていた。


「『持久力アップ』『威力アップ』ッ……ファルーア、いけるか⁉」


 俺は我らがメイジ――ファルーアの肉体強化と肉体硬化を上書きして問い掛ける。


 四方八方から魔法を撃たれたんじゃ分が悪い。


 そう思ったけど……さすがというかなんというか。返ってきた言葉はきっぱりしていた。


「当たり前よ。氷壁を造るわ」


「わあ、さすがファルーア! ……それじゃあ反撃は任せて」


 ディティアがぱっと笑顔を咲かせると、ファルーアは地面に龍眼の結晶の填まった杖を突き立てて妖艶な笑みを浮かべる。


「頼んだわ。いくわよ」


 ディティアが腰を落として反撃に備えたので、俺も追随する。


 当然グランとボーザックも構えていて、〈爆風〉だけはそもそも視界にいない。


 とっくに敵に肉迫しているんだろうな――あのオジサマは……。


 どうでもいいことを考えた一瞬あとには俺たちを包むように氷壁がせり上がり、放たれた炎は厚い氷の向こうで派手な音を立て爆ぜる。


 色だけ見れば華やかに散る紅と橙。それが消える前に俺たちは一斉に駆け出していた。


 崩れて消える氷壁を突き抜けるようにして、一気に魔物との距離を詰める。


 次の魔法を準備する前に間合いに入ればこっちのものだ。


 右足を踏み込むのと同時、左の剣をひと凪ぎしてから間髪入れずに右の剣を叩き込む。


 いつもに比べたらやっぱり外套もブーツも重い感覚はあるけど、バフがあればさほど障害にはならなかった。


 うんうん、いいぞいいぞ。最近まともにバフしてなかったもんな!


 魔物たちの陣形はあっという間に崩れてめちゃくちゃになり、逃走していく奴らも多い。


 なんというか……群れてはいるが纏まっているわけではないようだ。


「うん、親玉がいるわけでもないらしい」


 やはり〈爆風〉はすでにかなりの数の魔物を屠っていて、そう言うと腰を上げてゆるりと構えを解く。


 まだ魔物は残っていたが、戦意を喪失しているのか恐れているのかジリジリと後退。やがて踵を返すと森の奥へ消えていった。


「バフがあれば動くのは楽になるだろ」


 魔物の気配が遠ざかったのを確認して俺は笑ってみせる。


 するとファルーアの龍眼の結晶の填まった杖が脳天に叩き落とされた。


「油断大敵。そもそも五感アップも忘れていたでしょう? 消し炭になりたいの?」


「うぐ……ごめんなさい」


戦闘回!

白薔薇は強くなったなぁと思いますが、いかに。

引き続きよろしくお願いします!

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