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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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雪はつめたいのです②

「あ? 心配だ?」


「そ。グランはアルミラさんのことでずっと気を張ってるだろ。――アルミラさんは自分自身の状況をちゃんと受け入れてるように見えるし、グランももう少し肩の力抜いたら? ……シエリアなら大丈夫だ、ラウジャもいるし」


「…………」


「力抜くのが無理なら無理でさ、俺にも吐き出してくれよ。たまには聞き役になるからさ」


「…………」


「……グラン?」


「ハルト、お前……本当にそういうところは気遣えるのにな……」


「…………。俺、真面目に話してるんだけど……?」


「はっ、悪ぃな。わかってる。茶化したわけじゃねぇよ――なんだ、ちょっとした照れ隠しか」


 グランはでかい手で俺の頭をわしわしすると、アルミラさんへと踏み出すボーザックを見た。


「ハルト。俺も受け入れて踏み出す必要があるとは思ってる。姉貴は自分でなんとかしようとしてきたんだろうよ。それでも届いてねぇんだ――なら俺が手伝ってやらねぇと」


「俺も皆も、グランのためなら手伝うぞ」


「ふ。そういやファルーアにも同じことを言われたな」


「はは。そっか」


「ああ。……よし。ハルト一戦付き合え。姉貴に一撃入れてやる」


「おう!」


 俺は肩を回して踏み出すグランの隣に並び、双剣を抜く。


 きっとそれがグランなりの切り替えなんだ。なら全力で補助しないとな!


 そのとき、少し先でアルミラさんに大剣を突き付けたボーザックが笑った。


「取ったよ、アルミラさん!」


「……ふう。さすがに肉弾戦は無理。ここまで飲み込みが早いとはね。――あら、次はあんたたち? いいわ、ふたりまとめて相手してあげる」


 アルミラさんは負けたはずなのにどこか余裕の表情で言うと、手のひらの上に氷の礫を作り出す。


「わー、なんか勝った気がしないなー、俺ー」


 ボーザックは苦虫をかみつぶしたような顔で言うと、大剣を回して背中に収め踵を返した。


「じゃあ俺、ティアと〈爆風のガイルディア〉と観戦してるー」


「ん? あれ、ファルーアは? ……ああ」


 俺は思わず振り返ったけど……彼女はデミーグさんと怪鳥ふたりと一緒に古代魔法について議論しているようである。


 好きだなぁ……。


「ハルト君、グランさーん、頑張ってね!」


 ディティアは俺たちに向けて握り拳を突き出す。


〈爆風〉は黙ったまま口角を持ち上げ、やってみろと言わんばかりだ。


 あのふたりは雪でも難なく戦えるんだろうな――。


 ……そんなわけで。


「いくわよグラン、ハルト」

「来い」

「いつでも!」


 アルミラさんとグラン、そして俺は短いやり取りを合図に動き出す。


 まずは氷の礫が飛来したところをグランが大盾で弾き、俺はバフを練り上げた。


「『肉体強化』『反応速度アップ』『属性耐性』」


 単純に身体の強化と、雪で滑ることに対応するための反応速度、それからアルミラさんが使う魔法への耐性を上げておく。


「いくぞハルト!」


「任せろ!」


 次々と生み出される氷の礫を踏み込む勢いで粉砕し、前進するグラン。


 俺はその後ろに追随しながら双剣を構えた。


 防寒具のせいで普段の感覚とはまったく違う。


 ブーツは重たいし、厚手の手袋のお陰で剣を握るのにひと苦労だ。


「はっ、隠れているつもり? 甘いわ」


「くっ……!」


 瞬間、アルミラさんの声とほぼ同時に飛び退いた俺は雪に足を取られて体勢を崩した。


 グランの後ろ、俺がいた場所(・・・・・・)には氷の柱がズドンと聳える。


 けれど……それだけじゃない。


 ――やばい。


「『腕力アップ』ッ!」


 そのときの感覚は勘なのか『遊び』の賜物だったのか。


 属性耐性を書き換えた俺は崩した体勢を活かして両手で上半身を跳ねさせる。


 顔面スレスレに氷柱が突き上がり、冷たい空気が頬を掠めた。


「おおぉっらあぁ――!」


 そのあいだにアルミラさんへと到達したグランが盾を大きく振りかぶる――が。


「……」


 アルミラさんは動かなかった(・・・・・・)んだ。


 強気で不敵な笑みさえ浮かべ、グランの大盾が迫っても瞬きすらしない。


「……ッ」


 グランが動きを止めたのがわかる。


 ……そうだった。グランは女性に対して攻撃するってことができない。


 過去にもあったんだ。


 あれは俺たちの故郷の大陸(アイシャ)、そのハイルデン王国でのこと。


 王子であるマルベルと追い詰めた奴隷商人の親玉が女だった。


 グランは攻撃を躊躇い、代わりに〈鉄壁〉の二つ名を持つガイアスが殴ったんだけど……もしあのとき誰もグランを助けなかったら。


 だから――俺は。


「グランッ! 殴るだけが攻撃じゃないだろッ! 『脚力アップ』!」


 自身の腕力アップを脚力アップに変え、雪を蹴る。


 重たいブーツの裏、踏み締める地面が沈み込む。


「うおぉ――ッ!」


 気合一閃。


 アルミラさんへと突進する俺に、彼女は右の手のひらを向けた。


「そういうの結構痺れるわね。だけどハルトが来るのは想定内よ!」


「ははっ、アルミラさんでもそんなこと思うんだな! でも残念、俺はバッファーだから――『反応速度ダウン』ッ!」


「……!」


 アルミラさんの――グランに似た紅い双眸が見開かれる。


 ほんの一瞬遅らせるだけ、それでいいんだ。


 ()が踏み出す、その一瞬だけで。


「グラン――ッ!」


「おぉよッ! らあぁッ!」


 閃く銀色。


 グランは大盾の内側に装着された短剣を突き出した。


 冴えた空気を斬り裂いて――その切っ先がアルミラさんの首元を捉える。


「…………取ったぞ、姉貴」


「――はっ、悔しいけどやられたわ」



 ふたりは清々しく言葉を交わした――けれど。


 アルミラさんの放った氷の礫は見事に俺の額にぶち当たっていたりする。



「……いっ……てぇー」


 ヒリヒリする……属性耐性も書き換えてたしなぁ……。


「はは、それでお前が倒れたら意味がないだろう〈逆鱗〉」


〈爆風〉に笑顔で釘を刺されるけど――ぐうの音も出ない。


「書き換えるなら『肉体強化』のほうだったかも……だね?」


 ディティアも小さくはにかむ。


「はぁー。俺の判断力不足ってことだな……」


 俺は応えながらドンと腰を下ろした。


 ――まあ、でも。


 晴れ晴れとした顔でアルミラさんを見るグランに……ちょっと嬉しくなったんだ。


ギリギリ本日!

何卒よろしくお願いします!

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