力になりたいのです⑥
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シュレイスの話はこうだった。
ドーン王国の王族は、普遍の愛を誓うために花婿から花嫁へと特別な花を贈る風習がある。
その花は寒い時期に山で咲くため、花婿は決まって雪深くなる直前に山へと入り花を摘んでくるそうだ。
シエリアもご多分に漏れず花を摘みに出たらしい……が、予定日を過ぎているのにいつまで経っても帰ってこない。
シエリアが連れていったのはラウジャのみ。ダンテはほかの騎士たちとの合同訓練に参加せねばならず、ラミュースはシュレイスの教育で手一杯。
そこで、いまここにいないテールがトレジャーハンター協会で戦闘専門かつ信頼できるひとを捜し中らしい。
とはいえ、だ。
トレジャーハンター協会はシエリアを暗殺しようとしていたサーディアスがいた組織。
ほかの王子、王女たちの賛同が得られないと派遣はできないらしい。
そこに俺たち〔白薔薇〕がやってきた。
シエリアも俺たちのことを話してくれていたので、俺たちなら即刻派遣できるはずだという。
「……そもそもなのだけれど。ほかの王子、王女たちの賛同はいいとして……王の賛同は不要なのかしら……?」
ファルーアが疑問を口にすると、ラミュースが小さく微笑んだ。
「王は王子、王女たちに信頼を置いているのよ。ここの王は彼らの判断を尊重するわ。シエリア王子を逃がした判断もとても評価されておいでだったもの。うふふ、だから大丈夫」
「そう。この国ではそういうものなのね」
「そうらしいわ。……勿論、自分が行ければってすごく思うわよ。だけど――私とテールじゃ実力不足。山には強い魔物もいるっていうし……」
シュレイスは被せるように言うと手元の茶を飲み干してバンと両手を突き、頭を下げた。
「お願い、王子様が困っているなら力になりたいの。お金……は、私のだけじゃ心許ないけど、なんとか稼ぐわ!」
へえ。
あくまで自分のお金を使おうとしているとわかって、俺は少しだけ彼女を見直した。
それに……俺だってシエリアを助けたいのは一緒だ。
戻ってきていないと聞いて、胸の奥がひやりとしたんだから。
シエリアとラウジャ、ふたりなら大丈夫だと思うけど――なにか事故でもあったのかもしれない。
「……グラン」
「グランさん」
ファルーアとディティアがどこか意志を秘めた瞳をグランに向ける。
グランは大きく肩を竦めた。
「だから俺を見るんじゃねぇよ……俺たちだってシエリアに用がある。――断る理由はねぇだろうよ」
「はい! 流石グランさんです!」
「力になりたいのは俺たちも一緒だしねー」
ディティアがぱちぱちと手を叩き、ボーザックがにやりと笑う。
すると〈爆風〉が渋くていい声で言ってのけた。
「まったくお前たちらしいな。そうなると雪対策が必要になるだろう。案内役の手配も可能か? アルミラ」
「ふふっ、任せなさい! 装備一式と案内役の準備ね。王子様の紹介料を差し引いて安くしておくわ?」
話を振られたアルミラさんは胸元を叩くとシュレイスに頷く。
「いくつか追加で確認がしたいから少しだけ時間をくれるかしら」
「わかったわ! ラミュース、貴女はハルトたちを連れて〔白薔薇〕を派遣する許可を取ってきて」
「うふふ、いいわよ。それじゃ〔白薔薇〕はこちらに」
俺たちはアルミラさんに頷いて立ち上がる。
動くなら早いほうがいい。
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「君がハルトか! 可愛い弟が本当に世話になったな『幸運の星』! 〈爆風のガイルディア〉も一緒と聞いて嬉しいぞ!」
「貴方が『幸運の星』ね! ハルト! 〔白薔薇〕の皆さまもよくお越しくださいました!」
ラミュースの案内で客間に通されたあと、次々と王子王女が入ってきた。
シエリアは金髪で吊り上がった蒼い三白眼だったけど、全員緑髪に緑の瞳だ。
俺たちの故郷である大陸アイシャの血を継いでいるから違うんだろうけど、兄弟姉妹には愛されているようで素直に嬉しい。
……が。
「あの子のこと頼んだわね『幸運の星』」
「ハルトと〔白薔薇〕なら安心だな! 任せたぞ!」
…………うん。
〈逆鱗〉と呼ばれないのは新鮮だしありがたいんだけど……。
どうやら許可も下りたみたいだからいいんだけど……。
「ハルト君、大人気だったねぇ」
「はは。『幸運の星』か、シエリアがずっと言っていたな」
挨拶を済ませた俺にディティアと〈爆風〉がそう言って笑う。
「大人気というかなんというか……」
「すげぇな、誰も〈逆鱗〉って言わねぇぞハルト。……あー。よかった、のか?」
「それなんだよッ! …………モヤモヤした違和感を抱えてる自分が悔しい」
「あら、皆わかっているわよ。案外気に入っているのよね〈逆鱗〉」
「ファルーア、やめてくれ……」
俺はそのあいだ腹を抱えて笑っていたボーザックにでこぴんを喰らわせて、気持ちを切り換えることにした。
そろそろ戦いたい!
そうだろう? そうだろう?
というわけでそろそろ戦いたいと思います。
いつもありがとうございます!