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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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逃げ果せると思うなよ。⑤

ゴガアァァッ


吹っ飛んだ女は、ゴロゴロと岩場を転がった。

それでも、失神するまでには至らず、よろよろと立ち上がる。


殴られた顔面を右手で押さえているけど……。

あれ、歯折れただろうな……。


容赦なく距離を詰めるガイアスの左手には、まだ大盾。

右手には短めの剣。


……あれ?

その時、初めて気が付いた。


あの短めの剣、もしかして大盾の裏に隠し持つ短剣なんじゃないか?


つまり、ガイアスの本領は、大盾使いってこと…なのかな。


「ち、ちょ、ちょっと!女を、しかも、顔を容赦なくぶん殴るなんて……何なの、馬鹿なの!?」

後退る女の顔が、既に腫れ上がっている。


俺には後ろ姿しか見えないけど、ガイアス、恐そうだ。


「知ったことではない」


吐き捨てられた言葉に、戦慄。

大盾をふんだくられたグランは、ガイアスをぽかんと眺めていた。


さらに向こうで戦っている奴らも、何て言うか、気もそぞろ。

逃げるべきか、助けるべきかで迷ってるようにも見えた。


「ま、マルベル…」

「うん、みなまで言うな、ハルト。あーあ…ガイアスは怒ると恐いんだぞ…」

「……恐ぇ」


たくさんの視線が見守る中、ガイアスは女の目の前まで詰め寄っていた。


「ちょ、ちょっ……これ以上、殴るッへ言うの!?」

口元が腫れて端から血が垂れている女は、痛みで上手く喋れないらしい。

「わ、わはひの顔、腫れてる!もどらなはったら、どうひてくれふの……」

よろよろした足取りからも、完全に戦意喪失状態ってわかった。

顔も、武器のひとつだったんだろう。

「………」

冷たさだけが伝わってくるガイアスの沈黙。

「や、やめ…」

女が顔を歪めたけど…。


「鉄 拳 制 裁」


ゴッ


……ガイアスは、敵の親玉の意識を刈り取った。


******


「おっしゃー!最後-!!」

どかぁっ


ボーザックの声で、戦闘終了となった。

致命傷は無いとはいえ、小さな傷からは今も血が溢れている。


マルベルも、小さな傷があちこちにあった。

「マルベル…!ここ治療活性のバフしとくよ」


ディティアも、ファルーアも、フェンも。

怪我をしていても隠しそうなので、先手を打ってマルベルに治癒活性をかけておく。


王様がバフ済みなら、気にせずバフを受けてくれるだろう。


あらかたの治療を終えた俺は、辺りに転がる奴隷商人、もしくは雇われ狩人を、マルベルが用意してきた紐で縛った。

全員を捕まえられたわけじゃないけど、一網打尽に近い成果は出ていると思う。


「ふう……流石に疲れたわね」

「お疲れ様ファルーア!」

「ティア、あれだけ動いたのに元気ねぇ」

「そんなことないよー、結構疲れたよ?」

他愛ない会話を始めた女性陣と、その足元に寄り添うフェンの姿。


空は、まだ暗かった。


俺は縛られて転がされた親玉の哀れな顔に、治癒活性のバフをかけた。

まだ意識は戻ってない。


「ほっとけばいいだろうに」


ガイアスに言われて、苦笑する。

「うん、それでもいいけどさ。やっぱり女は綺麗でいたいとは思うから。ディティアとかファルーアがおんなじ状況だったら、見過ごせないだろ?」

「……そうか。すまない、逆に手間をかけたな」

俺は、困った顔をするガイアスに続けた。

「そんなこと無い、むしろ……ガイアス、もしかしてさ、ガイアスは……」

「……それは、マルベルから聞くといい。逆鱗のハルト」

「……そっか、わかった」

頷いて、拳を突き出す。


ガイアスは、俺の拳に、自分の拳をコツンとぶつけてくれた。


******


その日、ハイルデン王都はまさに歴史的な瞬間を迎えていた。


奴隷狩りの首謀者の拘束。

宰相ヤンドゥールの解雇。

そして、王が奴隷制度廃止を宣言する瞬間だ。


同時に俺達白薔薇が、この大捕物に関わったことを告げてもらうことにした。


箔をつけたい、そう願ったからだ。


正直に言えば、宰相ヤンドゥールや親玉に舐められていたことが許せなかったんだよな。


結果的には、罠にはまる振りをして罠にはめたわけだけど。


それでも、もしかしたら。

俺達がもっと有名だったら。


もっと、誰も傷付かない方法で解決出来たかもしれない。


だから、そう願わずにはいられなかったんだ。


拍手でハイルデン王を迎える民衆。

その、期待に満ちた表情。


これはきっと、マルベルの枷にもなる。


裏切ることの出来ない、掛け替えのないもの。

その重みが、マルベルにのしかかるだろう。


だけど、きっと。

これからは。


俺は、ハイルデンの未来に思いをはせた。


******


式典が終わると、俺達は、マルベルと夕食をとった部屋に招かれて、しばしの休息を得ていた。

もちろん、マルベルとガイアスが一緒だ。


「……では、改めて紹介しよう、グラン。鉄壁のガイアス。俺の近衛だ」

マルベルに紹介され、ガイアスが頭を下げた。

「まあ、そうなるよなあ」

グランは苦笑して、ガイアスに頭を下げる。

「あの時は助かった」

「いや、でしゃばったマネをしたことを詫びる」

「鉄壁の盾はどうしたんだ?」

「……奴隷狩りの際、家族の命と引き替えに差し出したんだ」

後悔はしてない、と。

ガイアスは静かに言って、笑った。

「これからは、もう奴隷だなんだと騒ぐこともないからな。そうだろう?マルベル」

この言葉に、マルベルが照れたようにそっぽを向く。

「ふん、わかりきったことを聞くな」


マルベルはもちろん、それを守るガイアスも、これから忙しくなるよな。

それでも、この国にはまだまだ可能性がある。


「ハイルデンはこれからだ、逆鱗のハルト」

「そうだな。……俺達、見てるよ、マルベル」

告げると、彼は白い歯を見せて笑ってくれた。

「はははっ、ますます失敗出来ないな!」


こうして、俺達は山岳の国ハイルデンを変える手伝いをした冒険者となった。


奴隷狩り達は、これから法の下に裁かれていくそうだ。


この国は、変わる。


そんな瞬間に立ち会えたことを、俺は誇りに思った。


24時間に合わなかった!

すみません、25日分の投稿です。


毎日更新しています。


本日分は、夜に更新しますのでよろしくお願いします。


うう、読んでくれてる皆様、本当にすみませんでした。


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