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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
739/845

力になりたいのです⑤

******


 ぱたん、と。


 重厚な扉が閉められ、俺たちはシュレイスの部屋だという場所に通された。


 肘掛けと背もたれの縁に煌びやかな装飾が施された革張りの椅子、揃いの装飾の長テーブル。


 その上には銀の花瓶にシュレイスの髪とよく似た色の大きな花がいくつか。


 大きな窓に華やかな刺繍のカーテン。奥には別の扉もあって、かなり広そうだ。


 あれ……まるで貴族の部屋じゃないか? さっきの立ち居振る舞いといい、シュレイスって貴族だったのか?


 すると……。


「…………ぶはあー。ほんっとにしんどい! どうよ、今回は完璧にこなしたはずよ!」


 いきなりそのシュレイスが吐き出した。


「案内の最中に姿勢が乱れたわ。うふふ、それに蛙みたいな顔をしていたわ、シュレイスらしいわね」


 応えたのは控えていたローブを目深に被る女性だけど……この独特な口調は覚えがある。


「え、もしかしてラミュースか?」


「うふふ、察しが悪いのはシュレイスもだけど、あなたも相当よ〈逆鱗〉様」


「うぐ……」


 ローブをはらりと落とした彼女の肩から、深緑色の髪がすべり落ちる。


 底の見えない同じ色の瞳が俺を見詰めながら細められた。


「と、とにかく。お前どうしたんだシュレイス?」


「はー? あんた、本当に本当に鈍いわねー。妃教育ってやつよ! ラミュースったらあまりに容赦なくて肩が凝るわ!」


「鈍いって……は? 妃?」


 俺が思わず皆を振り返ると、ファルーアが額を抱えながら深々とため息をついた。


「シュレイスはシエリア王子と結婚するのよ。さっきの立ち居振る舞いもそのための教育ね。気付いていないのはあんただけよ」


「あははっ、本当にハルトってハルトだよねー!」


「え、ええ⁉ 俺だけ? 嘘だろ……」


「おい、俺を見るんじゃねぇよ。わかってるに決まってるだろうよ……」


 ボーザックには笑われ、グランは俺と視線が重なると顎髭を擦りながら呆れたように言う。


 でもそれは……いつものグランな気がした。


「……ふ」


「あ? なんでいまお前が笑うんだよ?」


 思わず口元が緩んだところを目敏く訝しがられたけど、俺は首を振る。


「いーや、別になんでもない! じゃあラミュースはシュレイスの侍女……みたいな感じに収まったのか?」


「うふふ、正確には違うかしら。元々、私は王子たちに仕える侍女の筆頭だもの」


「……はっ?」


 今度こそ俺だけじゃないはずだ……よな?


 さっと皆を見回すと〈爆風〉とアルミラさん以外が驚いているのがわかる。


 よしよし、そうだよな、そうだよな。


******


 お茶が出され、話を聞けば――なんとラミュースは暗殺未遂によって城から逃がされたシエリアを護るべく、ほかの王子たちによって派遣されたのだという。


 とはいえ、シエリアがどこに向かったのかを含め詳細な情報もなかったので、トレジャーハンターとして活動しつつ捜していたそうだ。


 シュレイスとは協会経由で組むことになり、気に入ったので行動を共にしていたとのこと。


 彼女は「そうこうしているうちに『シエリア王子暗殺』に関する仕事が降って湧いたのよ、うふふ」なんて言ってのけた。


 そういえばシエリアの剣にある紋章について「本物」だと言ったのはラミュースだったな。


 まあそんなわけで、見事任務を完遂したラミュースはそのままシエリアのパーティーのひとりとして活動。


 ここに帰ってからはいち侍女、兼、シュレイスの教育係をしているそうだ。


 ちなみに、冒険者で〈爆風〉と旧知の仲であるラウジャはシエリアの近衛隊長、副隊長にはグランにどことなく似ているダンテが就任。


 いまは外しているが、シュレイスと元々一緒に旅していたテールはシュレイス付きの近衛になったらしい。


「まあそんなわけよ! 言っておくけどお金目当てじゃないから!」


「うふふ、そうねぇ。お金目当てだとしても矯正すれば大丈夫よシュレイス」


「ラミュース、貴女そういう怖い言い方しないほうがいいわよ……それで、そっちは? 見ないあいだになんだか増えているけど誰?」


 シュレイスに言われ、俺たちの視線がアルミラさんに向けられる。


 そんな言い方して――大丈夫か?


 するとアルミラさんは腕を組んで不敵な笑みを浮かべた。


「私はアルミラ。そこの弟が世話になったようね」


 うん、なんかこう、圧がすごい。


「……えっ、お姉さん? グランの? おはっ、お初にお目にかかります。私、第七王子シエリアの婚約者シュレイスですわ! どうぞお見知りおきくださいませ」


「いまさら遅いだろうよ……」


 グランはシュレイスに言うと、生き別れた姉がドーン王国で商人として世話になっていたと簡単に説明した。


「うふふ。シュレイスは礼儀を知らないわ。そこがとても彼女らしいのだけど」


 控えているラミュースのどこか不安になる笑顔と言葉に渋い顔をすると、シュレイスはもう一度アルミラさんに挨拶をした。


「商人だなんてすごいわ、お金も儲かるし! 普段はこんな感じなの、それでもよければ商品も見せてほしいわね!」


「勿論かまわないわ。せっかくの婚姻だもの、なにか形に残せるものや装飾品も見繕うわよ。巨人族の作った細工もいまならお安くするわ」


「きょ、巨人族の? すごい! あれって高級品なんでしょ?」


 ……あれだな、金の匂いでもしたのかも。アルミラさんもシュレイスも上機嫌だ。


 いつのまにかディティアとファルーアも会話に混ざり、女性陣が盛り上がる。


 残された男性陣は黙々と茶を啜ることに。


 とはいえ、俺たちにもやることがあるしな……。


「……あのさシュレイス。肝心のシエリアはどうしてるんだ? 相談があってさ」


 俺は話の隙間を縫って本題を切り出すことにした。


 すると彼女は途端に言葉に詰まり、しゅんと肩を落とす。


「んー、それなんだけど……ハルトたちを雇えない?」


「……は? 雇う……?」


 なんだか雲行きが怪しいぞ……。


こんにちは!

いつもありがとうございます。

本日もよろしくお願いします。


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