表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
738/845

力になりたいのです④

******


 そんなわけで俺たちはアルミラさんから研究塔の入退出方法を教わり、城に向かった。


 シエリアへの謁見申込みを済ませておこうって話になったからだ。


 ファルーア曰く「デミーグさんや怪鳥ふたりと古代魔法に関する話はしたいわね。……とはいえ、たった半日で終わる内容ではないわ。数日はみてもらわないと」とのことで、しばらくは王都に滞在することになる。


 初めて歩く都市になんとなく気持ちが逸るけど、時間はあるんだ。あとでゆっくりと楽しめるだろう。


 シエリアとも歩けるかもしれないし、ここはもう少しの辛抱だな。


 俺たちはキョロキョロと辺りを見回しながら、しばらく歩いた。


 そうして――。



「……城じゃねぇか」

「……城ね」


 グランとファルーアが言葉を重ねてぼやく。


 うん、そうなんだよ。


 ほら、王都は巨木と塔がみっちり建ってるだろ? でも……急に視界が開けてさ。


 あったんだよ、()が。


「はは。これだけ塔を建てているわりに城は随分と立派だな!」


〈爆風〉ですらそんな言い方をするくらいだ。


 俺の眼に映っている景色は夢でも幻でもなさそうである。


 白磁の外壁をした尖塔がいくつも建ち並び――そうだな、例えるなら海都で見掛ける細い巻き貝、その集合体。……そんな外観を描き出しているというか。


 尖塔の屋根は濃い緑で、まあ多少は森に馴染もうとしているのかなってところ。


 しかもこの城。巨大な穴の上に浮いている(・・・・・)のである。


 実際は巨木の根なのか枝なのかわからないものが絡み合って土台となり、吊されているってのが正しいかもしれない。


「アルミラさん、あれってどうやって浮いてるの? 根っこだけで支えてるってことー?」


「あ? 私が知るわけないでしょう」


「はい、ごめんなさい」


 ボーザックの素朴な疑問は即座に斬り捨てられてしまったが、彼は流れるように謝罪の言葉を口にしてから城を見遣る。


「ええと、城への道は何本かありそうだね。この先が一番太い道になってるみたいだ」


「この道が城の正面だしな。……見た感じ門番もいるみたいだぞ」


「ならそこで謁見申込みについて教えてもらえばいいよね」


 応えた俺にディティアが付け足して、俺たちは思い思いに踏み出した。



 ――約束通り来たぞ、シエリア。相談ごともあるけどな。



******


 門番らしき衛兵に謁見申込みについて尋ねると、彼は少し間を置いて〔白薔薇〕の皆さんですか? と聞いてきた。


「そうだ。……伝言でもあるのか?」


 グランが応えてくれたけど――そうだな。


 俺たちを知っているってことは、シエリアがなにか伝言していたりするかも。


 衛兵はどこか困ったような素振りをみせると、門の内側になにやら指示を出してから俺たちに頭を下げた。


「あるお方がこちらまで参ります。お待ちください」


「え、誰か来るのか? もしかしてシエリアかな」


 俺が言うとファルーアがぴくりと眉を寄せる。


「……ハルト、あんた。彼は曲がりなりにも王子様よ、呼び捨ても時と場合で使い分けなさい。いらぬ不興を買う可能性もあるわ。ね? ティア」


「あ、うん。そうだね。王子様自身は怒らないだろうけど、周りのひとが厳しいかもしれないもんね」


 ディティアが眉尻を少しだけ下げて笑ってくれたが、俺は首を竦めた。


「そうだな……ごめん気を付けるよ」

 

 いきなり「不敬だ首を斬れ!」なんて言われても困るしな。


 門番らしき衛兵は俺の言葉が聞こえなかったように直立不動を貫いていたけど、あえて流してくれたんだろう。


 俺は少し考えて話題を変えることにした。


「ところでアルミラさん。取引って言ってたけど、王族相手になにを売り込むんだ?」


「ああ……秘密と言いたいところだけど、まあいいわ。私自身の研究結果よ」


「ほう。王族が欲しがるほどの内容なのか?」


 話に乗ってくれたのは〈爆風〉で、横目で見た限りグランは渋い顔だ。


 一番気になってるのはグランだと思うけど、まだ力が抜けきっていないというか。


 本当、こういうグランは珍しい……さすがに少し心配だな。


「デミーグの見立てでは興味は持ってくれそうね。あとは私の腕次第――あんたたち始祖って知っている?」


「しそ?」


 俺が聞き返すと〈爆風〉が笑った。


「魔物の祖先のことか? 始祖龍なんてものが存在していたそうだな」


「わあ、さすがガイルディアさんですッ! ねっ、グランさん!」


 手を叩いたのはディティア。


 無理矢理グランに振ったところを見るに、彼女もグランを心配しているようだ。


「……龍が魔物の祖先なのか?」


 グランが顎髭を擦りながら会話に加わったところでアルミラさんが手をひらひらさせる。


「いいえ、始祖は龍だけじゃないわ。始祖鳥、始祖狼……様々よ。で、その始祖の情報を王族が集めているって話でね」


「なるほど、ミラの出会ったひとがその『始祖』の可能性があるのね?」


 ファルーアが左手で右肘を支えながら口元に妖艶な笑みを浮かべた。


 アルミラさんはそんなファルーアに向けて不敵に笑う。


「実際はどうかなんてわからないけれど、そう思わせるのが商人の腕の見せどころね」


 ふぅん、始祖ね……鳥に狼、龍……。


 そのとき、俺はふとなにか引っかかりを覚えた。


 ……なんだろう。なにか気になることでもあったか――? 始祖の話なんてどこかで聞いたことあったっけな……。


「あ、誰か来たよ」


 そのとき、ボーザックの声に俺はモヤモヤした気持ちを派手に散らし、我に返る。


 まあいいか、大事なことならまた思い出すだろ。


 そう思って開け放たれた門の向こうを見れば、女性がふたり。


 ひとりはローブを目深に被り、そのあいだから緑の髪を垂らしている。


 もうひとりは燃えるようなオレンジ色の髪を結い上げた、気が強そうな切れ長の紅眼の――んん?


「あれ、お前……シュレイス?」


 思わずこぼすと、彼女は濃紺のドレスを摘まんで腰を落とす礼をした。


 シュレイスは俺が〈爆風〉とシエリア、そして冒険者である〈雄姿のラウジャ〉と一緒に行動していたとき、とある村で出会ったトレジャーハンターだ。


 ズケズケと言いたいことを言う性格だけどどこか憎めない、金にがめつかった奴である。


 その後はシエリアのパーティーとして旅立ったはず。


 そういえば近衛がどうとか言っていたような……あれ、それはラウジャだったか?


 目まぐるしく記憶を辿っていると、当のシュレイスは口元を片手で隠しながら優雅に微笑んでみせた。


「お久しぶりですわ〈逆鱗〉様。〈爆風〉様。そして〔白薔薇〕の皆さまもご機嫌麗しゅうございます」


「…………は?」


 いや〈逆鱗〉様にもふざけんなと思ったけど! な、なんだ? なにが起こってるんだ?


すみませんッ!

昨日の分、区切りを間違えていてえらく短い投稿になっていました!

そのため本日分がほんのり長めです。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ