力になりたいのです③
俺が聞くと、ふたりは顔を見合わせるような仕草をしてから空中に文字を描いた。
『効果有りと判断する。理性は保たれているようだ。ただし、血が行き渡るまでしばしの時間が必要と予想。万が一バフを切らしてしまった際、新しく効果を得るまで動きを止めてもらわねば誰かを襲ってしまうかもしれない』
「ほ、ほおぉ……! 炎の文字で意思疎通! 素晴らしい、かな!」
デミーグさんは弾けるような笑顔を見せて怪鳥ふたりをあらゆる角度から眺める。
触りたそうに両手がわきわきと動いているけど……いまは災厄とはいえ元々ひとだしな。怪鳥ふたりは気まずそうだ。
俺はというと、気が抜けてソファの背もたれに深々と体を埋めた。
「ハルト君……⁉ 大丈夫⁉」
「あーごめん、平気……。やっと……やっとここまできた……はあぁ」
「――うん。ハルト君、すごく頑張ってたもんね」
ディティアは隣で笑顔を浮かべると、ゆっくりと続けた。
「なんにもできなかったけど、でも、一緒に喜ぶことはできるよ」
「あー。ディティアは可愛いよなぁ……」
「ちょっと⁉ 私、真面目に言ったんだからねハルト君!」
俺は紅くなってぽんと膨らんだ頬に笑って体を起こす。
――なんにもできなかった、なんてことはないんだ。重荷だって分けさせてくれたから。
どれだけ軽くなって、どれだけやる気になったことか。
ぐるっと見回せば、皆が俺を見て頷いてくれる。
「……おう。ありがとなディティア、皆も」
これで解決とはいかないだろう。それでも進んだ。大きく、一歩。
俺はすぐにアルヴィア帝国へと手紙を出すことに決める。
あの国には俺の先生的な存在である〈重複のカナタ〉さんが派遣されているはずだ。
ラナンクロスト王国のルクア姫の許可が取れたらーなんてあの爽やかで嫌味な奴は手紙に書いていたけど、あいつのことだ。そこはうまくやっているだろう。
ふん。そんな言い方してやるのも不本意だけどな!
とにかく。カナタさんならこのバフをすぐに習得して使ってくれる。
念のため、俺は怪鳥ふたりに頼んで魔法陣が描かれた布を同梱させてもらうことにした。
この先、怪鳥ふたりには自分たちでバフを保ってもらって、次は眠るときなんかの長時間に耐えうる方法を確立するのが望ましい。
するとデミーグさんが言った。
「もしおふたりが承諾してくれるのなら、自分とここに残るのはどう、かな? アルミラの治療で得た知識が使えるかもしれない。それに、おふたりはドルアグ、かな。古代魔法に関する互いの知識交換が有効だと思うよ」
『それは願ってもない申し出だ。我らは彼らと行動しても邪魔になってしまう。それにデミーグ殿の知識には非常に興味がある。なにより、ここであれば子供たちに会うことが容易かと思うのだが』
するすると紡がれる炎の文字に、俺は「なるほど」と相槌を打つ。
俺たち〔白薔薇〕はこれからシエリアを頼ってユーグルと連絡を取る予定だけど、すぐに会えるかどうかはわからない。
封鎖してもらっている遺跡のこともどうにかしてもらわないとだしな。
グランも同じように思ったらしい。
ポンと膝を叩くと顎髭を擦りながら頷いた。
「むしろ俺たちからも頼む。ユーグルにも解決策がないか相談しておく。――そうと決まれば早いところ城に行かねぇとな」
皆さまこんにちは!
台風がこわい状況ですね。
お近くの方はお気を付けください。
引き続きよろしくお願いします!