力になりたいのです②
******
俺は、アルヴィア帝国の病の話と、ちゃっかりソファに座っている怪鳥ふたりの話をデミーグさんに事細かに聞いてもらった。
自由国家カサンドラで聞いた秘匿魔法としての側面も伝え、そのうえで俺のバフを試させてほしいことも。
「バフ……古代魔法とはまったく別物と思っていた、かな。なるほど隠密や諜報――素晴らしい考察だよ。ではぜひ自分にかけてほしいかな〈逆鱗〉君ッ」
デミーグさんは両手をわきわきと握ったり開いたりしながら満面の笑みで言う。
アルミラさんの『感染』とやらを研究するのに自分を使っているくらいだ……変なひとなんだろうなぁ。
結局呼び名も変えてくれないし――なんだよ〈逆鱗〉君って。
俺は諦め混じりの苦笑を返し、テーブル越しに手を差し出した。
「たぶん、直接触れるほうがわかりやすいと思う」
「えっ、ああ、はい! どうぞっ!」
デミーグさんは躊躇うことなく俺の手を両手でぎゅうっと包み込む。
やっぱりこの寒い国のひとだからなのか、その手はとても温かい。
ああ……風呂みたいな温もりだなぁ。この国、風呂ってあるのか……? っと、いまは考えないでおこう。
集中、集中。
「……それじゃ失礼して。『魔力活性』」
練り上げたバフは俺の手のひらを伝わり、デミーグさんを包む。
彼は瞼を閉じて無言。しかも俺の手、握られたままだ……。
それで、どうなんだ? デミーグさんならと期待したけど……やっぱりまだ改良が足りないか?
……ところが、である。
突然カッと眼を見開いたデミーグさんは悪戯っ子のような笑みを浮かべ、俺の手をますます強く握った。
「――『魔力活性』、かな」
「はっ⁉ っ……あ、え?」
そのときの感覚ときたら。
四肢を巡る俺の血、それが熱を持つような。
どくどくと脈打つ胸が、その熱を力強く送り出していくような。
「……ッ、こ、れ……」
全然違うんだ。俺のバフと。
いや、正確にいえば感覚は似ている。だけど……。
悔しいとか、驚いたとか、そういうゴチャゴチャした気持ちは全部ぶっ飛んでいて、衝撃だけが胸を打つ。
こんな……こんな簡単に使えるっていうのか……? ここまでの精度で。いくら古代魔法と似ているとしても、俺、いままでなにやってたんだよ……!
「どうしたのハルト?」
ファルーアに問い掛けられ、俺は吐いたまま吸うのを忘れていた空気を思い切り吸った。
「どうもこうも……。デミーグさん……これ……」
「うん、『魔力活性』かな。なるほど、古代魔法と思えば確かに共通点があるよ。だけどそんなに驚かないでほしい、かな。これは君が組み上げた魔法そのものなんだから」
「いや……全然違うんだ……。俺はこんなふうに活性化できない。練習してきたけど活性化したい魔力をうまく選別できなかったんだ、ずっと――」
「ふふ。自力選別は不要かな。視点を変えるだけでいい、かな」
デミーグさんはようやく俺の手を放すと、右手の人さし指を立てて俺の胸元をトンと突く。
「ここに集まり、巡る。君はそれを知っているはず、かな。〈逆鱗〉君」
ここ……って、あ……心臓……? 巡るって……そうか、血……!
「心臓にバフを? 選別しなくても通れば勝手に活性化されるように……」
「君のバフが活性化したい魔力はなんとなくわかった、かな。君は体全体にバフをかけることで魔力をひとつひとつ活性化しようとしているでしょ。そうではなく、魔力が必ず流れるその場所に集中させれば効果が上がるかな」
「……すごい……こんなこと思いつきもしなかった……これなら、これならきっと……!」
俺はすぐに体を捻り、怪鳥ふたりに向けてバフを練った。
「口開けてくれ! 『魔力活性』ッ!」
緑の羽毛に覆われた体にバフを受けた血が巡る。
血に流れる魔力。そのことには気付いていたのに――どうして思い付かなかったんだろう。
そこはたぶん俺と彼の思考力の差みたいなもので、咄嗟の判断にも影響が出る部分だ。
俺ももっと鍛えなくちゃならない――バッファーとして。
流れるように考えながら少し待って、俺は先に掛けていた二重のバフを消した。
さあ、頑張れ……頑張ってくれよ……ふたりとも!
「――どう、だ?」
おはようございます!
少なくともお盆中は毎日更新できそうです。
引き続きよろしくお願いします✨