力になりたいのです①
*******
デミーグは齢三十二歳。
なにを隠そう俺より――というか〈爆風〉を除く俺たち〔白薔薇〕より年上だった。
聞けば、アルミラさんを研究して思い付いた仮説を実践しているという。
正直なにが起こるかわからないので自分以外で試すつもりはないそうだけど――若く見えるのがそのせいなのか、はたまたデミーグ自身が幼い容姿なだけかは不明だ。
ファルーアとディティアはどこかソワソワして見えたけどな。
部屋には俺たち全員が座っても余裕がある八人掛けソファが二脚向き合っていて、間には石っぽい素材の黒い長テーブル。
俺たちは自己紹介を済ませ、ここに来た目的と理由を説明したところ。
アルミラさんが暖炉で部屋を暖めてくれて、心地よくなったところでグランが改めて頭を下げた。
「姉を救って面倒までみてくれたってんだ――言葉じゃ足りねぇだろうが感謝する」
「ええっ、いや、その。自分は興味があっただけ、かな! あっ、救うつもりはあったんだけど……顔を上げてほしいかな、グラン君!」
ぐ、グラン君……ッ⁉
噴き出しかけた俺は思わず口元を押さえて視線を逸らす。
やばい、笑いそうだ。グランを君呼びって……新鮮すぎる……。
しかもグランときたら。
義兄になる可能性もーなんて言っていたからかガチガチなんだよな。
「ははは。〈豪傑〉、いつもの威勢はどうした?」
爽やかに言ってのける〈爆風〉を一瞥したグランは唸りながら顎髭を擦る。
その隣、ボーザックは俺と同じように口元を押さえていた。
「とりあえず要件を片付けるわよ。まず私のことだけど――デミーグが見つけてくれたとき、体にはなんらかの爪痕が無数についていたらしいわ。爪のあるなにかが何体かで私を掴んで運んできたんだと思う」
なんとなく微妙な空気を無視して話し出したのはアルミラさんだ。
そして、いち早く会話に参加したのはファルーアである。
「龍や鳥だって大陸間を飛ぶのだもの。十分有り得る話ね。ただ……ミラ、貴女を眠らせたのは……」
「そう、ひとよ。眼が紅くなったりするような――ね。だから私を運んできたのがなんであっても、そいつらに使役されている可能性がある。……あんたたち、魔物を使役する者に心当たりがあるわよね?」
「ユーグルのことか?」
俺はその内容に思わず返し、眉を寄せた。
「あいつらはそんなことしないぞ! 元々眼が紅いやつもいるけど……!」
「あ? 別に疑っちゃいないわ。私をこんなふうにした奴らに思い当たる部族でもいてくれたら楽だとは思ってるけれど」
アルミラさんはフンと鼻を鳴らすとソファの背もたれに深く体を埋めて足を組んだ。
「デミーグ。私のことを説明したら『聞きたいこと』を聞いてもいいわ。だからいまは会話に参加してもらえる?」
「……はっ、自分としたことが顔に出ていた、かな? えぇと……うん。アルミラのことだね。彼女の体はおそらく『感染』していたようなものかな。見つけてからの五年間は仮死状態に近かった。起こすためにありとあらゆる仮説を立てて魔法を使ってきたけれど……効果があったのはレイスやゾンビに有効な攻撃魔法だよ」
デミーグさんは慌てて話し出すけど、その視線は――怪鳥ふたりに釘付けである。
まあ……災厄を生み出す魔法の産物だもんな……古代魔法の研究者からすれば相当気になるんだろう。
「『魔力活性』『魔力活性』」
俺は身を寄せ合って挙動不審な動きをしている怪鳥ふたりにバフを投げ、お茶を啜った。
「攻撃魔法って……眠ってるアルミラさんに撃ったってことー?」
「そ、それはまた随分と過激ですね……」
そこでボーザックとディティアがデミーグの視線に苦笑しながら言う。
「加減、調整は当然したかな。……アルミラが耐えてくれたのは間違いないけどね。完治したのかは未だに調べているところかな。こんなものを『感染』させるような存在――アルミラの言う紅眼たちの動向がわからない限り安心もできないし、それも調査中かな」
「…………そうか。里帰りが難しい状況ってぇのはわかってるが……」
グランが重く呟いたところで、アルミラさんが豪快に笑った。
「実は、いままでもユーグルに接触しようとしたことがあるわ。うまくいかなかったけれど、ね。でも私の『幸運の星』が現れたからそこはもう問題ない。王族とも話せそうだし。あわよくばどちらとも商売をしたいところね」
「はは。情報収集に商売までしようとは豪胆だな!」
〈爆風〉は楽しそうにそう言って……俺を見た。
「なあ〈逆鱗〉。少し気になったんだが……バフに光るやつがあったろう。あれはアルミラに効果があるんじゃないか」
「え? 光る……ああ、『浄化』のことか? あれは攻撃に効果を上乗せするやつだから……いや、待てよ。確かにそうかも……? 『魔力活性』と同じでその感染ってのを弱体化する効果が出る可能性は……」
「それ、それだよ〈逆鱗〉君ッ! その話をしよう!」
「ちょっ、は⁉ げっ〈逆鱗〉君ッ⁉ や、やめてくれよ……!」
「ぶっは! なにそれハルト……! 俺、それは耐えられない! ふ、あはっ、あははっ! げき、〈逆鱗〉君……ッ」
「うるさいぞボーザック!」
俺は腹を抱えるボーザックを睨んでからバン、とテーブルを叩いた。
「ハルト。ハルトでいいッ! ですッ!」
毎回、毎回、なんだよ本当に! くそーッ!
皆さまこんにちは!
いつもありがとうございます。
評価やブクマなどなどよかったらお願いします!