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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
733/845

魔法大国は極寒ですか④

******


 ……どこかホッとする土の香りが満ちた王都は思いのほか活気があって、見えている塔のあちこちにある窓――のような穴には行き交う人影がいくつも確認できた。


 塔は一本一本がかなり太い。門の代わりだという塔に入ってみると大きな広間になっていて天井が高かったんだ。


「すごい開放感だね……何階くらいまであるのかな」


 ディティアが意味もなく手で庇を作って見上げるのを横目に、俺も天井へと顔を向ける。


 天井あたりは木の枝が貫通していて葉が茂り、その付近には光球がいくつも浮いていて明るい。


 ……なんだ? あれ魔法か?


「すごいわ、魔法陣だらけよ」


 ん? 魔法陣?


 ファルーアの声につられて視線を辿ると……おお、本当だ。


 塔の内壁や天井に魔法陣がいくつも並んでいる。


「もしかしたらあれで灯りを着けているのかしら……?」


「そうね。発動させることで光球が浮かんだり、近くの松明に火を灯したりするわ。正直、普通に魔法を使えばいい場所まで魔法陣があって面倒くさいこともあるわね」


 アルミラさんがそう言いながらスタスタと歩を進めていくので、俺たちは足を止めずにきょろきょろしながら続いた。


 よそ者感が滲み出ているに違いないが……なんていうかこう……それだけじゃない。周りがメイジばっかり――に見える。


「どっち見てもローブだねぇ」


 同じことを思ったらしいボーザックの言葉に無言で頷く。


 きょろきょろしていなくても、メイジじゃないってだけでもよそ者っぽいよな。


「ははは。さすが魔法大国だな。〈爆炎〉の爺さんみたいなのがたくさんいるぞ」


〈爆風〉はすこぶる嬉しそうだけど……グランは渋い顔をして顎髭を擦っていた。


 あの擦り方は落ちつかないときのそれだ。


「どうした? グラン?」


「……ん? ああ、なんでもねぇよ」


「そうか? その擦り方はなんかあると思ったんだけど?」


 俺がひょいと肩を竦めてみせると、グランは唸って顎髭から手を離した。


「そういところは気が付くってぇのに……なんで肝心なところは駄目になっちまうんだ、お前……」


「は?」


「こっちの話だ。……いやな、考えてみたらこれから会うのは姉貴を長らく視てくれていた……所謂(いわゆる)恩人だろうよ? そう思ったらこう、ちと落ちつかねぇというか」


「全然こっちの話じゃないけど、まぁいいや……。そんなに緊張することか?」


「……当たり前だろうよ。義兄ができる可能性も……あぁクソ。どんな顔すりゃいいんだ」


 グランは仏頂面で吐き捨てるように言うと、また顎髭を擦る。


「あら、兄どころか親や祖父母世代かもしれないのに気が早いこと。……ふ、いまの感じじゃ硬すぎるから笑顔を作ろうなんて思わないほうがいいわよ、グラン」


 聞いていたらしいファルーアが妖艶な笑みを浮かべ、


「黙っていても迫力がありますし、グランさんなら大丈夫です!」


 ディティアも胸の前で手を合わせ、にこにこした。


 うん。まったく以て大丈夫じゃないぞ、それ。


「はは。それはさぞや印象が悪いな! ……さて、目を閉じろ」


「はっ⁉ 一、二、三ッ……⁉」


 そこに〈爆風〉が割り込んで、俺は慌てて数える。


 ……条件反射とは恐ろしいもので、町中で人も多いっていうのに咄嗟に数えて目まで閉じてしまう自分にちょっと不安になった。


 ……だけど。


 感じたのは、蠢く気配、気配、気配。


 漂う香りや行き交う人々の立てる足音、衣擦れの音、会話や呼吸音が様々なうねりとなって五感を刺激する。


 これは……なかなか難しいぞ。


 近くにいたのはグランとファルーア、ディティア。


 さらに数歩先にアルミラさんとボーザック、緑の怪鳥ふたり……の、はずだ。


〈爆風〉は、というと……すでにさっぱりわからなかった。


 魔力も相変わらず濃いみたいだし、慣れてきたとはいえ個々の気配は掴みにくい。


 俺はスーッと息を吸って、細くゆっくりと吐き出しながら「集中だ」と自分に言い聞かせる。


 捜せ……どこだ?


 …………。


 ……そこかッ!


 手を伸ばした先、触れたのは腕だろうか。


 自分の気配を殺しつつ様子を窺っていると……。


「うん。いいだろう」


 ……やがて〈爆風〉の声が耳朶を打った。


「ぶはぁー、俺が最後かー!」


 息を吐き出したのはボーザック。


「今日は町だし、どこかで食べるなんてどうかしら」


「わあ、賛成!」


 ファルーアが妖艶な笑みをこぼし、ディティアが賛同するけど……うん。


「え、えぇ……また俺が出すの? 小遣いもうそんなにないんだけど……」


 可哀想に、ボーザックがガックリと肩を落とす。


 俺はその肩に拳を一発入れて、全力で笑った。


「よし! どうせならパーッと美味いもの食おうな、ボーザック!」


「……ハルト。俺のお金だからって面白がってるよね?」


「まさか! 敢えて言うならお前が気落ちしないようにって配慮」


「半分もってくれたら落ち込まないけどー?」


「ははっ、冗談言うな無理に決まってるだろ」


「はぁー……」


 ボーザックの深いため息がこぼれると、前方にいたアルミラさんと怪鳥ふたりがこっちを振り返った。


「さっさと歩きなさいよ。夕飯の店なら王都一番の店に案内してあげるわ。奢りなんて気前がいいわね、ご馳走様」


『ギュエ!』


「えぇ……俺、それも出すの? 嘘だよね? ……あの、グラン……これって俺の小遣いからなの……?」


「仕方ねぇな、前払いしてやる」


「……今回負けるなんて最悪だー」


 俺はがっくり俯いたボーザックに笑ってアルミラさんに手を挙げる。


「いい店、楽しみにしてるな! アルミラさん!」


おはようございます!

少しのんびり描写続きます。

引き続きよろしくお願いします!

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