魔法大国は極寒ですか③
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魔法大国ドーン王国、王都。
森と共存しているその都は……砂と土を固めた塔を寄せ集め造られていた。
それがまた壮大なんだ。急に視界が開けたと思ったら、森と町が混ぜ合わさったかのような景色が広がっていたのである。
なんていうか、こう……大樹を模した土色の塔が枝に似せた渡り廊下のようなもので大量に繋ぎ合わされ、その間に本物の巨木が生えていて……なんなら本物の枝が塔を貫通していたり。
キノコの林に隠されていた遺跡――そこにあった大樹を彷彿とさせるほど巨大な木はここまで見かけなかったし、もしかしたら町に生えている木々は古代魔法で作られたのかもしれない。
よく見ると建物同士を繋ぐ通路は渡り廊下だけじゃなく、巨木の根や枝を活かしていたり、外付けされた金属の階段だったりして、蔦がぐるぐると巻きついている箇所もある。
……はー。まるで迷路みたいな町だな。高さも奥行きも相当ありそうだ。
入口付近の日当たりは見た感じ悪くないけど……奥に進んだら枝葉が邪魔で光が届かないだろう。
そういえば……輸送龍に乗って到着したものの、こいつら入れるのか?
そもそもシエリアがいるはずの城ってどこにあるんだ? むしろ『城です』って形をしていない可能性もあるんじゃないか……?
「ふわあ、すごいねハルト君……ライバッハの樹海ともまた違う森だよ」
あれこれ考えていると、ディティアがはるか頭上を振り仰いで言った。
ちなみにライバッハはドーン王国から南東、俺たち〔白薔薇〕がこの大陸で最初に降り立った町だ。
樹海の町……なんて呼ばれていて、町を囲むように巨木の海が広がっている風景を思い出す。
「――だな。樹海の樹も相当大きかったけど……ここはどこまでが一本なのかよくわからないし。そもそも家は……どれだ? あの塔が全部そうなのか?」
俺が輸送龍から降りて応えると、呆けていたボーザックが我に返ったように頷く。
「さっぱりだよね。ひと家族に一本の塔、なんてことはないよね……? すごい高さに階段とかあるけど落ちないのかな……?」
「塔の中に複数の家や店が入っているわ。店が集まった商業塔、ひとが住む居住塔って感じにざっくり分けられていて……まあ稀に落下事故もあるわね。とにかく私の世話になっている家に行くわよ。……さすがに輸送龍は入らないから預けるけど平気かしら?」
さらっと答えてくれたのはアルミラさんだ。
あるのか……落下事故……。
思わずぶるっと身震いすると、輸送龍の手綱を引いて御していたカンナがひらっと右手を振った。
「こっちは大丈夫。トレジャーハンター協会に報告して引き返すから、ここで別れよう」
「それなら今度協会に依頼して遣いを出すわ。商品を輸送してもらいたいし。……とりあえず荷物を回収するわね」
「了解。こっちとしても輸送龍の運用先を増やしたいから助かる」
「あら、ふふ……仲介するのも手ね……」
「仲介は互いに利益があるなら考える。まずは条件から聞く」
「任せなさい、いい条件を出すわ?」
アルミラさんが悪そうな笑みを浮かべ、カンナが薄く笑う。
なにか通じたのか力強い握手を交わすふたりを横目に、俺はおとなしくしている緑色の怪鳥を振り返った。
「……じゃあとりあえず移動だな。ふたりには申し訳ないけど、俺たちが使役する魔物って形を取るよ。『魔力活性』『魔力活性』!」
『ギュイ』
元々は人間、それが古代魔法によって魔物と化してしまったなんて誰が信じるだろう……いや、ここのひとなら信じるのかもしれない。
なんたってここは魔法大国なんだから。
……と、そのとき。
『キュイィ』
「うぐっ」
ドスッ
どうやら別れを察したらしい輸送龍が俺の腹に鼻先を突き込んでひと鳴き。
凄まじい衝撃で内臓が掻き回されたみたいに軋む。
「ゴホ……お、お前ッ……自分の大きさと強さわかってるかッ?」
『キュイッ』
「ははは。随分懐かれたな〈逆鱗〉」
笑う〈爆風〉は自分の荷物を片手に俺から顔を離した輸送龍の額を撫でるけど……いやいや、なんで〈爆風〉には撫でさせて俺には突っ込んでくるんだよ。
仏頂面で腹を擦りつつ見回すと……皆それぞれ輸送龍から荷物を降ろし、彼らを撫でていた。
「…………」
なんでだよ、もう。
「はあー。とにかく――元気でな、また乗せてくれよ?」
言うと、輸送龍は任せろと言わんばかりに鼻息をフンフンと吐き出してみせる。
俺たちはカンナと輸送龍に別れを告げ、アルミラさんの案内に従って進み始めた。
また会えるような気がするから、不思議と寂しくはなかったんだよな。
なんとなく胸がわくわくして……俺はぎゅっと手を握り締めた。
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