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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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逃げ果せると思うなよ。④

……やっぱり、簡単じゃなかった。


待てど暮らせど、ディティア達が帰ってこないんだ。

負けるとは思えないけど、何かあったのかもしれない。


そろそろ、バフも切れる頃合だ。


「……っ、グラン!」

耐えられなくて声を上げる。

同じくやきもきしていたのであろうグランはすぐに頷いた。

「わかってる。……ドルム!」


満身創痍だったドルムが、はっと顔を上げる。

グランはその肩をがしりと掴んで、言い放った。


「後を追う。奴隷商人は任せたぞ」

急がないといけない気がした。

心臓が、どくどくと脈打って身体を急かす。


速度アップを二重にしてさらに五感アップをかけ、グラン、ファルーアと一緒に2人と1匹が向かった方へと走る。


林から森、岩場へと景色が変わっていく中、真っ暗でも感覚が研ぎ澄まされていて進むことが出来た。


やがて、岩場の向こうから争う音が聞こえてくる。


俺達はまず様子を確認することにして、バフを反応速度アップと肉体強化、肉体硬化に変えた。


覗き込んで、驚愕する。


明るいのは、頭上に輝く光球のおかげだ。

魔法を使えるやつもいるんだろう。


その下。

前線で戦う、ディティア、ボーザック、そしてマルベルの近衛であるガイアス。


その後ろに、肩で息をするマルベル。


縦横無尽に立ち回るのは、銀色の風、フェン。


対する奴隷商人達は、少なくとも3、40人は見てとれる。

「っ、はめられてたか!」

グランが大盾を構える。

……一目で、これこそが敵の本当の罠だったことがわかった。

「行くぞ!」

俺達はマルベルの後ろから飛び出した。


「うおおぉっりゃあ!」

グランの大盾が、前線にいた敵をまとめて2人吹っ飛ばず。


「待たせたわね」

ファルーアの炎が敵の真ん中に着弾して弾けた。


「ま、待ってた-、ほんとやばかったー!」

「来てくれるって信じてました!」

ボーザックとディティアが呼応したところに、ガイアスもまとめて速度アップ、肉体強化、肉体硬化のバフを重ねた。

ファルーアには肉体強化のかわりに持久力アップ、肉体硬化のかわりに反応速度アップを掛け直す。


「き、来て、くれたか、逆鱗のハルト!」

「真打ちは後からだからな!」

マルベルの隣に立つと、ひらりとフェンが戻ってきて、ぐるる、と鳴いた。

「待たせたなフェン」

手を出すと、尻尾がそれを叩く。

「マルベルにもバフかける。戦えるのか?」

「ふ、見ていろハルト。伊達に王族してないぞ!」

マルベルは右腕を突き出し、左手で肘の辺りを支える。

その両手首に、エメラルドのはまった腕輪が煌めく。


その右手に、蒼い光が集まりだした。


「お、おお……」

「凍れ!!」


飛んでいくのは鋭いナイフのような氷のつぶて達。

それは敵に当たるとビシィッと音を立てて広がり、一部分を凍りつかせた。

足元に当たれば、動きが制限される。

顔に当たれば、余りの冷たさと被われた視界に、慌てふためくことになる。


「すげーなマルベル!メイジだったんだ!?」


「まあな、王たる者、身を守れなくては……はあ、はあ」

「ははっ、後は体力だな!持久力アップ、持久力アップ、威力アップ!」

「……おお」


俺は双剣を構え直して、マルベルに言った。

「親玉はどいつなんだ?」

「……あいつだ」


俺は、マルベルの視線を追って……止まった。


敵陣の一番奥。

ひとり、堂々と佇む姿。

闇の中にあっても尚、太陽のような金の髪。

乳白色の艶のあるローブは、ハイルデンの礼服。


「へーえ、やっぱ女は恐いな」

ヤンドゥールの横で無表情にはべっていた女性が、そこにいた。


「ハルト!!」

短い剣を操るガイアスと組んで、グランが叫ぶ。

俺は、バフを広げた。


「任せろ!五感アップ!五感アップ……五感アップ!!」


「ファルーア!!」

すかさずグランが名前を呼ぶ。

「ええ。燃えなさい!!」

ファルーアの作り出した火の玉が、かなりの熱と光を放出。


「ぐああーっ!」

「や、焼ける――ッッ」


バフで五感が研ぎ澄まされた奴らが、目や腕を押さえる。

それは即ち、無防備なのと変わらなかった。

そこをディティアとボーザック、フェンが昏倒させていく。


「やるな白薔薇!」

「だろ!」


「気を抜くなマルベル!」

「ハルト君、次!」


ガイアスとディティアに怒られ、俺達は慌てて戦闘に戻る。


とは言え、相手だって馬鹿じゃない。


広げたバフを直感で避ける奴もいるし、こっちに狙いを定めるメイジもいる。


おまけに、向こうは俺達の息の根を止めることにためらいが無い。

それは、脅威だった。


「っ、く」

久しぶりに、誰かを守りながらのバフになる。

マルベルの傍につきながら、俺はかいくぐってくる敵にバフを重ね、柄で殴って昏倒させるのに必死だった。


皆のバフが切れそうなタイミングで、かけ直す必要もある。


マルベルも応戦してくれるけど、息が上がっていた。


……だから、見えてなかったんだ。


「マルベル!」

「おいハルト!」


ガイアスとグランの声。

はっとした瞬間、脇腹を強烈な衝撃が襲う。


「う、ぐっ」

「ホント、目障りね」


一瞬、息が詰まって踏鞴を踏む。

いつの間にか、敵の親玉が目の前に立っていた。

俺は咄嗟に双剣を構える。

「このっ……」

「っふ!」

「!?」

親玉が目の前でぐるりと回り……鋭い蹴りが飛んでくる!

俺は飛び離れてかわし…慌てて反応速度アップのバフを重ねた。

速い……!

ディティア程じゃないけど、かなりのものだ。


こいつに五感アップは恐らく通用しない。


体術に長けた奴ほど打たれ強いし、耳が聞こえなくなる程の爆音でも、無音で戦うだろう。


「……っはぁ!」


踏み出してくる女を避け、飛び退く。

グランとガイアスが合流してくれた。


俺は肉体硬化と速さアップを2人に重ねる。

四重までなら2人も大丈夫だろう。


「女を相手に大人数なんて、プライド無いの?」

さらりと金髪をはらう女は、獲物を狙う狩人の顔。


ちらりと窺うと、ディティアとボーザックがかなりの敵に囲まれながら応戦し、後衛に魔法を撃ち込むファルーアをフェンがカバーしていた。


これ以上のサポートは期待できそうに無い。


「マルベルは後ろからサポート頼む」

俺はグラン、ガイアスと並んで、女に対峙した。


「奴隷に仕立ててあげるわ」

女はそう言うと、踏み切った。


ガッ


グランが盾で弾き、ガイアスが追い打つ。

ガイアスの短めの剣をくるりと避けて、女がカウンターを放つところに、俺が横から蹴りを出す。


「ちっ」


明らかな舌打ちをして飛び離れた女は、左手を腰に添え、右の手のひらを上に向けて指先を滑らかに動かした。


「やるわね、ほら、いらっしゃい?」


妖艶な微笑み。

グランが慎重に距離をとる。


応える余裕は無かった。


「あら、来ないの?じゃあ……」


ひゅっ


一気に踏み込む女が、グランの盾に阻まれ……なかった。

盾の表面を滑るように、ぐるりとグランの懐に入る。


させるか!


「肉体硬化!肉体硬化ぁっ」

速さアップを2つとも書き換える。

女の肘がグランの脇腹を捉え、すぐさま飛び離れる。


「そのバフ、ふざけてるわね……硬すぎんのよ」

「凍れっ!」

「!」

突然の魔法に、女はまた飛び離れた。

しかし、それは結果的にグランとの距離を縮める。


「っ、らあ!」


グランが盾で女を殴ろうとし…

「………」

「っ」

女が、無防備に身をさらす。


グランが躊躇ったのがわかった。


「ふふっ、その油断が命取り……え?」


女は、グランを仕留める態勢に入っていた。

だから、気付いてなかった。


グランの、その後ろ。


ガイアスが駆け寄って、白薔薇の大盾をふんだくったのだ。


「女だろうがッ、男だろうがッ……」


彼は、勢いのままに叫ぶ。


「守るものが後ろにあるッ!!向かってくる敵はぶっ飛ばせ―ッッ!!」


ゴガアァァッ!!! 


聞いたことの無い音で。


女は、ぶっ飛んだ。


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