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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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親子関係は継続ですか⑤

 まあ、そうはいってもさ。


 予想外のさらに斜め上ってこともあるわけで。



「お父さんお母さん! どうして私たちを捨てたのッ⁉」



 両足を肩幅に広げて地面に踏ん張るジェシカが放った言葉は……そりゃあもう凄まじい斬れ味だったんだ。


 このとき支部長ロロカルさんとアルミラさんはまだ離れたところでなにかを打ち合わせていたんで、正直助かった部分はある。


 嘘をついているとバレるのは避けたかったしな。


 ――しん、と静まり返った俺たちの目の前、焚火に()べた薪がパキッと爆ぜて火の粉を踊らせた。


 ちらりと光を散らした火の粉は空気に溶けるように消えていく。


 炎は肌を温めてくれているけど……空気は冷え込んだと言っていいはずだ。


「――あー……なんだ、その。俺は上手いこと姉貴たちを遠ざけてくるぞー。ファルーア、話をまとめるのは任せた」


 沈黙を破ったのは眉間に皺を寄せながら落ちつかない様子で顎髭を擦るグラン。


 でかい体をなんとなくソワソワと震わせているのがわかる。


 まあ……この空気はいたたまれないよな……。


「え? ……ええ……わかったわ……なんとかできるかはわからないけれど」


 目を丸くしてポカンと口を開けていたファルーアが我に返り、ボーザックが視線を泳がせ、ディティアが「もっと言っていいんだよ」とばかりに胸元で両手を握る。


〈爆風〉のオジサマはにやにやしているし、緑色の羽毛をまとう怪鳥――ジェシカたちの両親なんて余程驚いたのか縫いぐるみ並に動かない。


 俺は眉間を右の人差し指と親指でぐにぐにと揉みほぐしながら……思わず言った。


「あー、ジェシカ。とりあえず誤解を解くところからにしようか」


 捨てたわけじゃない。それは……間違いないだろうし。


 このままじゃジェシカの両親が可哀想すぎるだろ、そうだよな?


******


 そこからは――うん。ちょっと、かなり大変だった。


 グランは言葉どおりアルミラさんと支部長ロロカルさんをさり気なく連れ出してどこかに行ったようだ。


 キノコたちが聳える場所で、ファルーアとディティアに挟まれたジェシカは唇を引き結んでいる。


 その少女に向かって身振り手振りと炎の文字を交えて弁明する緑色の怪鳥たるや不気味……いや、不思議な光景だ。


『この姿は事故で』

『勿論帰るつもりだった』

『いままでは我を失っていた』

『つまり獣みたいになってしまっていて、自分のこともわからなくなっていたんだ』


 怒濤のように流れ消えていく文字列をジェシカは無言で見詰めていて。


 最初はスリなんてする危ない子だと思ったけど……いまは随分大人びて見えた。


 まさかとは思うけど、この成長を促したのはアルミラさんか? だとしたら意外――いや、グランの姉だもんな。面倒見がいいのは血筋なのかも。


 変な感心をしていると、やがてそんな少女がくすんだ朱色のローブの裾を握り締めて言ったんだ。


「お父さんとお母さんは『魔物』を作ろうとして鳥になっちゃったんだよね……それっていけないことじゃないの? ……ドル、アグ? とかいう人たちがアルジャマの町でいろいろ言われているの、私知ってるよ。お父さんとお母さんもそうなんだよね? ……悪いこと、してたの?」


『そのとおり、いけないことだった。古代魔法で魔物を作ろうとした結果、罰が当たったのだ。けれどジェシカ、これはドルアグのせいではない』


「じゃあなんで……」


『我々の失態、過ち以外のなにものでもない。生活の糧にするという理由をつけて自分の地位を守ろうとし、お前たちを(ないがし)ろにした。すまなかった』


「…………」


 ジェシカには難しい話で、なにを言われているかわからないんじゃないかって思う。


 だけど――彼女はゆっくり頷くと、まるでなにかを噛み砕いて呑み込むかのように小さな唇から言葉を紡ぎ出す。


「……古代魔法を覚えることは、生きるために必要? 私が覚えたら……お父さんとお母さんは元に戻れる?」


『我々には必要だったがジェシカたちにはなくていいものだ。いいかジェシカ。我々は元には戻れない。けれど獣にならないようにする魔法を覚えようと思っているよ』


「……鳥のままだけど、お父さんとお母さんでいる……ってこと? じゃあ帰ってくるんだよね?」


『ああ、勿論だ。けれどそのためには時間が必要で、我々は一度ここを離れなければならない。ジェシカ、そのあいだ弟たちを頼めるか?』


「……あのね、私『商売』を教えてもらったの。ホグムワグムを売ったんだよ! だから大丈夫!」


 両親が魔物になってしまったというのに――彼らの返答を聞いたジェシカは嬉しそうだった。


 俺なら戸惑ってしまうと思うけど、もしかしたらそれは彼女がまだ子供だからで……純粋で真っ直ぐで素直だから、なのかも。


 そのとき、ツンと俺の腕を突いてディティアが微笑んだ。


「親子って……なんだか素敵だねハルト君」


「ああ。……これで親子関係は継続だな」


 笑い返すと――ファルーアがぱちんと手を叩き妖艶な笑みを浮かべる。


「うまく纏まったわね。そうと決まればすぐに出発しましょう、秘密を隠しておくのは簡単じゃないでしょうから」


 そういえば話を纏めるようグランに言われていたファルーアはなにもしてないな、と思っていると――彼女の笑みがスイッと俺に向けられた。


「ハルト。あんた消し炭になりたいの?」


「ごめんなさい、遠慮します」


 ――どうやら顔に出ていたらしい。気をつけよう。


だいぶ開けており申し訳ないです……ボチボチです……。

本年も何卒よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってた!!!こうしんあざます
[一言] 更新あざます( ̄^ ̄ゞ
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