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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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親子関係は継続ですか③

 ……そうと決まれば俺がやることなんてひとつ。


 さらに『魔力活性』の精度を上げることだ。


 グランの姉であるアルミラさん――彼女を治療してくれたという古代魔法の研究者にお願いして試してみる予定だったけど、早く精度を上げられるのであればそれに越したことはないもんな。


 そもそも俺の――いや、俺たち〔白薔薇〕の目的のひとつは『魔力活性』バフを使って病に侵され弱っていくアルヴィア帝国のひとを助けることである。精度を上げることは必須だ。


 災厄になってしまった彼らを治すことはできなくても、その手助けになるのなら必ず習得してやらなきゃ。


 皆にも『重荷』ってやつを分けたからさ。ここで俺が無様に諦めるなんて絶対嫌だもんな。


「――よし、早速その魔法陣を試させてくれるか? それができればバフを重ねなくても理性が保てるわけだし。あとはどうにか持続させる方法があれば平気だろ? ――だからさ、もしバフの精度が上がったら――ジェシカたちに死んだなんて言わずに親子関係は継続させたら?」


 気合いを入れて手を握ったり開いたりしながら言った俺に……彼らは顔を見合わせた。


 そんな俺を横目にファルーアは妖艶な笑みを浮かべて黙っている。


「俺、ジェシカになんとかしてやるって言ったんだ。……あんたたちのその姿を見てジェシカたちがどう思うかはわからないけど――死んだなんて言うよりずっとマシだと思う。どうかな?」


******


 そんなわけで。


 彼らが回収していた特殊な塗料で描いた魔法陣を必死で光らせていると……アルジャマに向かった皆が帰ってきた。


「ハルト、なにしてんのー?」


 ボーザックがひらひらと手を振って底抜けに明るい声を出す。


「『魔力活性』の精度を上げようとしてるところ……あれ?」


 俺が応えてほかの皆の姿も確認すると……そこにはトレジャーハンター協会アルジャマ支部の支部長ロロカルさん、グランの姉であるアルミラさん、そして……ジェシカがいた。


「……えぇと、なにごと?」


「やあやあ、すみません。支部長のロロカルさんは現状把握のためにやってきましたー」


 にこにこと胡散臭……もとい人懐っこそうな笑みを浮かべるのはロロカルさん。


 ジェシカやアルジャマの人々に比べたら淡い緑髪で、くすんだ朱色のローブの下は裾が膨らんだ黒いパンツ。


 今日は腰に太い革ベルトを巻いていて、幅広の双剣が左右にぶら下がっていた。


 ――ふーん、支部長ロロカルさんは戦闘専門だったのかもな。しかも双剣――形もあんまり見たことない形だ。


「私はジェシカの保護者代わりとしてね」


 考えている俺に向けてグランとよく似た紅眼を片方だけバチリと瞑ったのはアルミラさんだ。


 意味深なその笑みから察するに彼女は事情を把握しているんだろうと思う。


 ちらとグランを見ると小さな頷きが返ってくる。


「それで、そちらが件の魔物さんですか……たしかにほかの方々の話していた特徴とも一致する容姿ですねー?」


「そうだ。彼らは知性を持ち、この遺跡に関する情報を報せてくれた。未知の菌が跋扈(ばっこ)するとあっては勝手に動くわけにもいかん。いまは調査を見合わせたほうがいいだろう」


 ロロカルさんに応えたのは〈爆風のガイルディア〉。


 なるほど、そういう設定にしたわけか。


 つまりこの魔物――ジェシカたちの両親は知性がある安心安全な魔物という流れなんだろう。当然、彼らは菌をばら撒いたりしないという設定もくっついているはずだ。


「遺蹟の奥に施設らしきものがあるんですが、危険な菌があるから近付くなって炎の文字で教えてくれたんです。ほかの冒険者……いえ、トレジャーハンターたちは遺跡に入らないよう威嚇したと」


 さらに付け足したのは〈疾風のディティア〉だけど……彼女は胸元で両手を握り締め、一生懸命に言葉を紡いでいた。


 可愛いもんである。和むなぁ。


「……聞いてはいたけど、この遺跡が危険なのね? で、炎の文字とやらを描いてもらえるかしら?」


 アルミラさんの問いに、俺は見た目は怪鳥であるふたりに向かって頷いてみせる。


 すると、すぐに炎の文字が躍った。


『危険だ。菌が外に出れば大変なことになる』


 意を汲んだ返答。アルミラさんは満足そうな笑みを浮かべて「本当に知性があるのね」とひと言。


「……ふむー、たしかに。こうなると――」


「ねえ! お父さんとお母さんはどうなったの? ここに来てないの? 私と似た髪と服のはずなの! 魔物さん、教えて……!」


 支部長ロロカルさんの言葉を盛大に遮ったのはアルミラさんの後ろに控えていたジェシカだった。


 ……両親からすれば予期せぬ再会。


 眼を白黒させながらバサバサと羽ばたく彼らを前に、少しだけ怯えた様子はあるものの必死の形相で唇を震わせる少女。


 俺は胸がちくりとするのを感じた。


 ――そうだよな、会いたいよな。勿論ジェシカたちの両親も同じはずだ……それがもどかしい。


『ひとは追い払った。もしかしたらそのなかにいたのかもしれない。すまない』


 炎の文字が宙に浮かぶ。


 ジェシカは肩を落としたけれど……いまはここまでにしよう。


 アルミラさんが彼女の頭をわしわしと乱暴に撫でるのを確認し、俺は支部長ロロカルさんに視線を移した。


 ジェシカたちのためにも、その両親のためにも、早く動かないとだからな。


「それで、このあとはどうするんだ?」


「ロロカルさんには荷が重いですからねぇ。提案どおり皆さんに王都で指示を仰いでもらいたいところです。それまではロロカルさんが責任を持って遺跡を封鎖しておきましょうー。ただ、そこで問題なのはドルアグの方々の動向です。彼らが強硬手段に出ないとも言い切れませんー。ですので取り急ぎトレジャーハンターたちを集めますが……そうなると資金が必要ですねぇ」


「あーそうかぁ。まさかただ働きさせるわけにもいかないよねー」


 からからと笑ったのはボーザックだけど――いやいや、笑い事じゃないだろ。


 すると……アルミラさんがふっと笑った。


「いいわ、私が投資してあげる」


「あ? いいのか姉貴」


「あら、私のはあくまで先行投資に決まってるでしょ。王族に会いに行くのに私もご一緒できるのよね? ふふ、稼がせてもらうわ」


「…………」


 さすが商売人。グランが若干引いているのがよくわかる。


 なにか策があるんだろうけど……聞くのも恐い。


「支部長、いくら御入り用なのかしら? 何人手配する予定? 資材はどう考えているの? ここからの連絡手段は?」


「はいはい、ひとつずついきましょうー」


 アルミラさんはすぐにロロカルさんと話を始めてしまったんで、俺はグランに向けて肩を竦める。


 終わるまでは動けないだろうな。


 どこか不安そうなジェシカをディティアとファルーアが励まし、彼女の両親を交えて……俺たちは焚火を囲むことにしたのだった。


首がヘルニアで酷い目にあいました。

治りかけで黒いあいつが視界の端を過ったために再び痛めるという最悪ッぷりです。


ちなみに家じゃなくて出先に出たのでまだよかったと思うことにします。


いましばらくスローな予感ですが何卒よろしくお願いします!

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