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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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隠蔽工作は得策ですか④

 まず、大前提としていまは『魔力活性』バフが三重の状態にある。


 それがもし重ねずに済むのだとしたら――切らさなければいいんだ。


 常にバフを保てる方法なら探せそうな気がするんだよな……。


 俺はそこまで考えて……そのまま思ったように口にした。


「……俺のバフ、いまは三重なんだ。必ずしも三重が必要かはまだわからない。直接食べる(・・・)ことで効果が得られているはずで……もし重ねなくてもいいなら『魔力活性』バフを切らさないように食べ続けることで自我は保てるんじゃないかな。例えば……そう、自分でバフを覚えるとか」


「そうなるねー。でも眠るときはどうするの?」


 応えたのは意外なことにボーザックだ。


 俺はその問いにギューッと眉間を摘まんだ。


「んん……さすがに何回も起きるのは厳しいよな、そんなに長く保つバフでもないし」


「ふたりとも覚えて交代で眠る……ってわけにもいかないもんね……」


 そう言ったのはディティアで、彼女はなぜか俺よりも深く眉間に皺を寄せている。


 可愛い。


「ああ、ならあれはどうだ? ファルーアが昏睡状態のときに寝かされた台があったろうよ? ずっとヒールが発動する状態だとかなんとか……」


 左手でぽんと膝を打ったのはグラン。右手はいつものように顎髭を擦っていた。


 眉間には同じく皺が寄っているがこっちは当然厳つい。


「クリスタルね? 確かにあれは魔力を溜めて少しずつ放出するけれど……バフはどうなのかしら。そもそも食べる必要があるのなら厳しいかもしれないわ」


 ファルーアは眉間には皺を寄せず、冷静な様子でそう言うと俺を見た。


「とにかく、重ねなくてもなんとかなるかどうかを知る必要があるわね。なにか方法が見つかるまではハルトが付きっきりでバフをかけなおさないとならないけれど」


「そうだな。……そしたらすぐ試そう。消すのは難しくないから」


 俺は応えて……残りの肉を口に放り込んだ。


******


 結果からすると……バフひとつだと微妙。二重なら問題ないって感じだった。


 なんていうのかな、本能に呑み込まれかけた――そう、自我が崩壊しかけているような――そんな状態だ。


 襲い掛かろうとした……と思ったら我に返って踏み止まる。そんなやり取りが何度かあって、ジェシカたちの両親も必死で抗っていた。


「……もう少し精度を上げられればひとつでいいかもしれないわ。――だとすると古代の血、その魔力を正確に捉えて活性化させることができれば」


 ファルーアは後半を小声で俺に話し、皆とも視線を交わす。


 古代の血の話は血結晶や災厄たちとも関わる話だからな。


 詳細を大っぴらにしていいのか判断がつかないし、どちらかと言えば俺も皆も口にするのを躊躇って警戒しているほうだ。


「ふむ。当面はその方向で考えることになるだろう。……さて、だとするとあとはこの遺跡をどうするかだ」


〈爆風〉は俺たちの微妙な空気をうまく遮って言うと、天に広がる巨大樹を振り仰ぐ。


 反応してくれたのはバフをかけ直し自我を安定させたジェシカたちの両親だった。


『あの巨大樹が遺跡を支えている。焼き払えば自然と崩壊するはずだ。ドルアグのほかの者がやってこないとも限らない。私たちはそれを望まない』


「――崩壊するって――物騒すぎないかな。この規模だとキノコの森ごと崩落するだろ? ……とりあえずまた隠すとかじゃ駄目か? せめてあの魔法陣を消しておくとかさ」


 俺が思わず言うと、ボーザックが頭を振った。


「でも……隠蔽工作は得策なのかな? 隠すだけじゃ解決にならないような……」


「そうさなぁ、遺跡があるってぇのはトレジャーハンター協会にもバレちまってるしな。あれだ――こういう遺跡ってのはユーグルの管轄じゃねぇか? あいつらならうまく処理してくれるだろうよ」


 グランは案外あっけらかんと口にして……(おもむろ)ににやりと口角を吊り上げる。


 俺は「ああ、なるほど」と頷いて一緒に笑みを浮かべた。


 ユーグルに会うとすれば――フェンもそこにいるはずだ。それを思い浮かべたんだろう。


『ユーグルは魔物と暮らす移動民族のことだろうか。であるとしても、容易に出会える者ではないと思うが』


 そこでジェシカたちの両親が操る炎がチラチラと言葉を描く。


 まぁ確かに……捜しにいくのは難しいかもしれない。


 散っていく火の粉が空気に溶けていくのを眺めつつ、俺はゆっくりと頷いた。


「なら向こうから来てもらおう。グラン、ドーン王国の王都まで行けばなんとかなるはず。確かロディウルが言ってたよな……『北のドーン王国とも連絡が取れる』って」


 ロディウルは風将軍(ヤールウインド)と呼ばれる緑色の怪鳥を従えたユーグルのウル……つまり長だ。


 俺たち〔白薔薇〕の一員である銀色の巨狼――〈銀風のフェン〉を預かってくれている頼もしい奴である。


 災厄討伐では多くのことがあったけれど、元気でいるだろうか。


「だとしたら、ユーグルと連絡がつくまで遺跡を封鎖すればいいね。そのくらいならなんとかできそう」


「そうね。その程度なら適当な理由をつければいいわ」


 心持ち嬉しそうなディティアが言うと、ファルーアが妖艶な笑みで応える。


 するとボーザックがぽんと手を打った。


「あれだ! 緑色の羽毛が生える菌!」


「……は?」


 思わず聞き返すと彼は黒眼をきらきらさせて笑う。


「ここには未知の菌がいる。キノコもどきにも生えてたしさ? どう?」


「ははは。それはいい案だ! 危険だからドーン王国の王族に指示を仰ぎにいくとでも伝えればトレジャーハンター協会も無下にできないだろう」


 あー、なるほどなー。


〈爆風〉が笑うと、よくわからない状況だろうジェシカたちの両親がくるくると大きな瞳を動かした。



月曜分です。

今日も……更新できたら……。

がんばります!

いつもありがとうございます。

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