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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
719/845

魔法実験は失敗ですか⑤

******


 俺たちは魔法陣のある広い部屋に陣取り、近付いてくる気配を待った。


 数は二体。


 だけど――。


「俺たちが上がってきたのとは別の道から来てるね」


「……奥にも階段があるんだろうな」


 ボーザックに応えたとおり、いま気配があるのはまだ調べていない五階の奥のほうだ。


 俺たちに気付いているのかは不明だけど、真っ直ぐここに向かっているような気がする。


 グランと〈爆風〉が持っていたキノコは部屋の奥側……通常なら窓があるはずの壁に寄せ、離して置いてあった。


 その灯りだけで部屋の輪郭程度なら捉えることができるけど、念には念を、だ。


 ファルーアが小さな炎の球を天井近くにいくつか揺らめかせてくれていて、視界は良好だった。


「――ハルト、そろそろ頼む」


「おう。『反応速度アップ』『属性耐性』『肉体強化』『持久力アップ』」


 グランの指示で『五感アップ』を上書きして前二つは全員に。さらにファルーア以外は『肉体強化』、ファルーアは『持久力アップ』をかけて三重の状態にする。


 剣を、盾を、杖を構える俺たちの前……開け放たれた扉の向こうから、カリッカリッと床を掻くような足音が聞こえた。


 ――そして。


 暗闇からヌッと現れたのは――。


『ギュエェッ……』


「狙いどおりだな。よし、嘴を開けてやろう。外すなよ〈逆鱗〉」


 ――未知の魔物だった。


「任せろッ! あー、ただ、重ねるとなると何回か放り込まないとだから長めに頼む」


 渋くていい声で言う〈爆風〉に返して、俺は双剣を胸の高さまで持ち上げて腰を落とす。


「締まらないわね――」


「あはは、それがハルトだよね!」


 聞こえてくるファルーアとボーザックの会話が腑に落ちないけど、いまは集中だ、集中!


「あの高さから落ちて平気……ではなさそうだね」


 思わず唇を尖らせた俺の隣でディティアがそう言うけど――うん。


 ファルーアの魔法から崖から飛び降りて逃げたものの、未知の魔物はどうやら無傷というわけではないようだ。


 ところどころ羽は焼け焦げ、一体は脚を引き摺っている。


 赤黒くなった箇所は出血だと思うし――っと⁉


「おらあッ!」


 次の瞬間、俺の前に飛び出したグランが大盾を唸らせた。


 膨らんだ袋が破裂するかのような音を立て、頬を空気の塊がなぶる。


 あれこれ考えていたせいで反応が遅れたけど――魔法だ。


 問答無用かよ……わかっていたけど理性はないんだろうな……。


「魔法はできるだけこっちで相殺するわ。グラン、ボーザック、〈爆風〉の補助を。ティアはハルトを頼むわね」


「おおよ。〈爆風のガイルディア〉、右のやつは俺とボーザックに任せろ。ハルト! 先に〈爆風〉と左をやれ、いいな」


「わかった」


「ハルト君、援護するから好きに動いていいよ!」


 グランに応えた俺に我らが〈疾風〉は颯爽と言ってくれるけど――まあ、こんなに心強いことはない。まさに怖いものなしだ。


 うん、情けない気持ちはにじんでくるけどさ……。


「ではいくぞ〈逆鱗〉」


 肩を落とす俺ににやりと笑った〈爆風〉は言うが早いが急激な加速とともに双剣を閃かせる。


 闇を裂く白と黒の刃は未知の魔物との距離を絶妙に保ち、俺が集中するのを邪魔しないようにしてくれた。


「……弾けなさい!」


 その後ろ、ファルーアが魔法を放つ。


 弾けた空気がぶつかり合って風となり、ときに目を開けていられないほどになるけど……この程度なら問題ない。


「おおぉぉらあぁッ!」

「たぁ――ッ!」


 グランとボーザックも脚を引き摺っているほうを威嚇――うん、威嚇だよな――攻撃しているというよりは押さえ込もうもしていた。


 そこで隣に待機しているディティアがむう、と唸る。


「……私の出番はなさそうです、ハルト君」


「はは、そうかも」


「――それなら〈疾風〉、こっちをお前がやれ。こいつが嘴を開けた瞬間に柄を叩き込んで閉じさせないようにするといい」


 指示を出したのは〈爆風〉で、ディティアはちらと俺に視線を送る。


 しっかり頷くと口元を緩めた彼女はスッと息を吸ってからひと言だけ告げた。


「いきます」


 俺は自身の『肉体強化』を『魔力活性』に書き換えて――一気に仕掛けることに決める。


「いまだ〈疾風〉」


「はい!」


 荒々しい風が右の剣――その柄で未知の魔物の額を打ち据える。


『ギュエェッ』


「はあぁ――ッ!」


 気合一閃。


 たまらずいななく魔物のその口へと、大きく踏み込んだディティアの双剣の柄が叩き込まれた。


「ハルト君!」


「おうっ! ――『魔力活性』『魔力活性』……もういっちょ! 『魔力活性』ッ!」


 ひとへのバフであれば、手を握ったり肩に触れるなんかして注ぎ込むのが効果的なのはわかっているけど、口からバフを摂取する魔物相手にはあまり効果がないだろう。


 やるならその口に自分の腕を突っ込むことになるはずで、その場合は当然噛み千切られることを考慮すべきで。


 だから俺は投げ入れるバフの数を増やすことでそれを補うことにした。


「お前が魔法でそうなったなら――お前は誰だ?」


 声を張り上げ、次いでバフを練る。


 ジェシカたちの両親だったなら、どうか気付いてほしい。


 俺はありったけの思いを込めて……練り上げたバフを投げた。


「思い出してくれ――『知識付与』ッ!」



ちょっと月末でバタバタしております!


少し更新があいている状態ですがちまちまでも頑張っておりますので何卒お付き合いくださいませ!


いつもありがとうございます。

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