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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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魔法実験は失敗ですか②

******


 足跡は耳が痛くなりそうな静けさの奥へと向かい、そこに満ちていた闇を光るキノコが溶かしていく。


 足音や呼吸音、武器や防具が鳴る音、俺たちが立てるあらゆる雑音がその静けささえも掻き消して――眠っていたはずの古代遺跡を叩き起こす。


 質素で飾り気のない石の壁には松明を掛けるための突起が所々残っていて、俺たちの影だけが揺らめいていた。


「この部屋は……なんだ、資料室か?」


 グランが足跡をたどり、暗闇にぽっかりと口を開けた部屋に光るキノコを差し出すと……照らされた棚の向こうに濃い闇が身を寄せ合う。


 棚には殆どなにも残っておらず、ボロボロになって崩れ落ちそうな本らしきものが数冊見て取れるだけだ。


「足跡は中に入ってからまた出てきているみたいです。……なにもなかったのかな」


 ディティアの言葉に〈爆風〉が自身のキノコで床を照らす。


 たしかに足跡は部屋から再び出てきて、廊下の奥へと続いていた。


「グラン、とりあえずさくさく進まないか? まだ一階なんだし。……見た感じ五階まであっただろ、この建物」


 俺が言うと〈豪傑のグラン〉はそのでかい体を捻って頷く。


 どうでもいいけどそのキノコこっちに向けないでほしい。


 眩しいんだよ……。


「あっ、階段があるよ!」


 そこで反応したのはボーザックだ。


 小走りに前に進む大剣使いの足下、埃がぶわ、と舞い上がるのが見えた。


「ちょっとボーザック。埃が舞うわ、走らないでくれるかしら」


「視界も悪くなるし、呼吸もしにくいもんね」


 ファルーアとディティアはそう言いつつも自分たちの歩みを緩めることも止めることもない。


 ボーザックはふたりに手を上げて「ごめんごめん」と軽い返事をすると、階段の前で立ち止まった。


「グラン、照らして」


「人をランプみてぇに言うんじゃねぇよ……」


 階段は幅広で、なんというか冒険者養成学校の校舎を彷彿とさせる。


 一段一段はそう高くもなく、少し上がると踊り場があって折り返しているようだ。


「…………ふむ。〈光炎〉、あれがなにかわかるか?」


 そのとき、階段の一番下の段で真上を見上げた〈爆風〉が言った。


「え? ……あ……なにかしら、魔力の籠もっていない魔法陣のようね……?」


 光るキノコが照らし出すのは、冷たい石の天井にひっそりと描かれた魔法陣だ。


「ファルーア、これ、足下にもあるよー」


 ボーザックは足で埃を払い、床に描かれた同じ魔法陣を指す。


「……なにかあったときに魔力を注いで発動させるもの……ああ、たしか本にあったわ。緊急事態に備えた機構があるとか……」


「階段で緊急に備えるのか?」


 俺が首を傾げるとファルーアはくるりと龍眼の結晶の填まった杖を回してみせた。 


「ものは試しね。ちょっと発動させてみましょう」


「あ? 大丈夫なのか?」


「ええ。予想が正しければこれは……」


 反応したグランに応えたファルーアは床の魔法陣に向かってピッと杖を突き出すと、一呼吸置いて呟く。


「動きなさい」


 瞬間、足下から天井に向けて光の棒のようなものが何本も伸び上がった。


「うわっ! あ、危なッ……」


 咄嗟に飛び退くボーザックの鎧が鈍く光を反射する。


「これ……天井の魔法陣も発動したら通れなくなりそうだな――もしかして格子か? じゃあこの魔法陣は階段を塞ぐためのものってこと?」


 俺が聞くとファルーアは金色の髪を肩から払い、ゆっくりと頷く。


「そうみたいね」


「するってぇとなんだ、侵入者対策かなにかだったのか?」


「――もしくはその逆だ〈豪傑〉。なにか(・・・)が逃げないように封鎖するためだろう」


「……!」


〈爆風〉の言葉に背筋が冷たくなる。


 俺は――さっき掴めなかった「なにか」が急激に形を描くのを感じた。


「それって……生み出したものを逃がさないための防衛機構……ってことだよな?」


 呟いた言葉にディティアの双眸が見開かれる。


 ……血結晶を作るための施設なのではと気にしていたけど……血結晶は勝手に動かない。


 でも俺たちは知っている。


 遠い昔に禁忌の魔法が使われたことを。その魔法によって生み出されたもの(・・)たちが暴走し――長いあいだ封じられていたことを。


 そう、これは憶測だ。


 憶測だけど――震えるほどにゾッとする。



「…………なあ。まさか、ここ……『災厄』を生み出すための研究所なんじゃ……」



 唇を湿らせ、慎重に紡いだ声が掠れた。


 俺の言葉に……全員の動きが止まる。


 違ってくれればいい。違ってくれるなら、それでいい。……そう思う。


 すると、ボーザックが震える声で呟いた。


「……ねぇハルト――災厄のもと(・・)になったのって……」


「――ああ。ひと(・・)だ。……だから、もしかしたら……」


 なんらかの理由で破棄された――機密情報を扱っていた研究所。


 発動済みの魔法陣。血痕のない荒らされた拠点。


 この遺跡が発見されたと同時に現れ……俺たちも交戦した未知の魔物。


 ――それと同じ羽毛を持つ謎のキノコの魔物。


 結びついていく。


 全部、全部が。


 魔法が発動したとき、なんらかの理由でそこにキノコの魔物もいたとしたら?


 むしろキノコの魔物は捕まえてあって、古代魔法の実験に使おうとしていたのなら?


 拠点に戻った痕跡はなく放置されて食糧もそのままなんて……普通は考えられないじゃないか。



「…………未知の魔物は…………」



 俺がその考えを口にしようとした、そのとき。


「そこまでにしましょうハルト。まだ憶測よ」


 ぴしゃりと口にしたのは――ファルーアだった。


こんばんは!

最近あいてしまい大変恐縮です。

しばらくバタバタしつつやっておりますが、三日はあけないよう頑張りますのでよろしくお願いします。

1番いいのは毎日なんですが……!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 流石ファルーアさん‼︎いやーな空気になりそうなのを押し止めた!そうだよね、まだ憶測の域を出てないしね。ガイルディアはニヤニヤしてそう( ー̀∀ー́ ) [気になる点] 本が大して残っていな…
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