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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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古代遺跡は機密ですか⑥

「この古代遺跡が機密として――なにか理由があって放棄し巨大キノコで塞いだということになるか。その後も中心の巨大樹がこの森を育んでいたようだな」


〈爆風〉はそう言って俺たちを見回す。


「……じゃあジェシカたちの両親はその『機密』を手に入れるためにここに来たってこと?」


 ボーザックが誰にともなく聞くけど――。


「たしか『古代魔法を覚えに行って帰ってこない』って話だったよな? だとしたらその機密ってのも古代魔法……?」


 俺は応えてから少し考えた。


 その古代魔法がなんだかわからないけど、俺だったら新しいバフはすぐ試したくなる。


 だからもし……その魔法を既に手にしていたのなら。


「……そこの魔法陣、それが『そう』だってことは?」


「有り得るな。帰る前に試そうとしたのかもしれん」


 同意してくれたのは〈爆風〉で、表情を曇らせたのはファルーアだった。


「……ハルト、あんたアイシャの遺跡で扉に仕掛けられていた罠を覚えているかしら?」


「ん? ……扉に魔力が……こう、渦巻いてるやつのことか?」


「そう。発動前なら魔力が感じられるはずなのよ。つまり、そこの魔法陣は既に『発動したあと』。だから魔力が僅かしか感じられないんだわ」


「え――じゃあファルーアの言うとおりなら『なにか』が生み出されている可能性があるってことか……?」


「そうなるわね。……私はもう少し本を読むわ。悪いのだけれど、見張りからは外してもらえるかしら?」


 彼女の言葉にグランが顎髭を擦りながら頷く。


「当然だ。任せたぞファルーア。……どうも嫌な予感がしやがる」


 どこか重苦しい空気があれど……森はずっと明るいまま。それがまた不安な気持ちを掻き立てる。


 俺は息を深く吐き出して……勢いをつけて立ち上がった。


「よし、早く片付けてしっかり休む時間とらないとな! 手伝うよディティア」


「えっ? あ、うん……!」


 我に返って神妙な顔をしていたディティアが肩を跳ねさせ、濃茶の髪が揺れる。


「じゃあ俺は最初の見張り番するよ。ハルト、バフ頂戴ー」


「なら俺も見張りにつくか。〈爆風のガイルディア〉、あんたは先に休んでおいてくれ」


 ボーザックが言って肩を回し、グランが続けたので、俺はふたりに『五感アップ』を投げた。


「うん、そうすると次は〈逆鱗〉と〈疾風〉が見張りか。なら双剣を磨いておくといい」


〈爆風〉が言うと、食器を片付け始めていたディティアが先に頷く。


「はい!」


「…………あー。お手柔らかに頼むよ……」


 思わずぼやくと……既に本を開いていたファルーアが鼻先で笑った。


******


 ボーザックとグランが見張り番をしてくれているあいだに、俺はディティアと双剣を磨いた。


 まあ……まだディティアだけだから楽だと思うことにしよう。


〈爆風〉と〈疾風〉が揃ってしまったら磨き終わる気がしないからな……。


「ハルト君、どう? ……あ、ここまだ磨き切れてなさそうだね」


「お、おう……」


 するとディティアが光る樹液塊に自身の双剣――その刃を翳した。


「――ここ、ずぅっと明るいままだったのかな? 夜のない場所って不思議だね」


「そうだな。中心の巨大樹は長いあいだ眠っていないのかも」


「眠っていない――そっかぁ。ずっとこの場所を見守ってきたんだね……。地下を明るくしてまで……古代のひとはなにをしていたんだろう」


「人目に触れたくなかったんだとしたら……あんまりいいことじゃない気がするよな」


「――。……血結晶の製造、みたいな……?」


 一瞬だけ唇を噛んでから横目で俺を見るエメラルドグリーンの瞳は……翳した刃が反射する光を散らす。


 宿っているのは不安と……たぶん、もどかしさ。


 なにかをしたいのに、なにもできない。そんな気持ちを垣間見た気がして。


 俺は……苦笑いを浮かべた。


「こんなときに格好いい台詞のひとつやふたつ出てくればいいんだけどな。ただ……俺も、勿論皆も。きっと同じ気持ちだと思う。なにが『機密』だったとしても……ジェシカたちの両親見つけてなんとかしよう」


 ディティアはそれを聞くと双眸を細め、ゆるりと瞼を瞬いてから頬を緩める。


「……ふふ、ハルト君の言葉はシュヴァリエと違ってあったかくなるよね!」


 ――うん。なんでその名前が出てくるかな。


「そこでその名前を聞くのはちょっと……。まぁ参考までに……あいつの言葉はどんななんだ?」


「そうだなぁ……強い人は強くあれるような感じです」


「強くあれる?」


「うん。仲間を置き去りにして逃げるような人にとっては鋭い刃みたいに冷たいけど、強い人にとっては鼓舞されるような。やっぱり誰かを率いる人なんだなって思うかな?」


「……あー」


 言わんとしていることは察した。


 たしかにあいつの言葉は戦おうとする者にとって『鼓舞』になるときもある……と思う。


 でも……。


「あの嫌味な奴に鼓舞されるのは釈然としない。無駄に爽やかでキラッキラした空気も大嫌いだ……むしろイラッとくる」


 思わず本音をこぼすと、ディティアはくすくすと笑った。


「ハルト君の逆鱗に触れるのがうまいよね!」


「……いや、それ、なんにも嬉しくないからな……?」


「ふふ」


 ため息をつくと、ディティアは笑って自身の双剣を収め、俺の手元を覗き込んだ。


「ごめんね、話がずれちゃって! あとはこことここを磨きましょう〈逆鱗のハルト〉!」


「……ぐ。お手柔らかに頼むよ……〈疾風のディティア〉」


 応えて……俺は指摘された部分を目線に合わせ、じっと眺める。


 微々たる汚れでも滑りが悪くなるのだと〈風〉のふたりは言うけれど。


 俺からすればまだまだ遠い話なのだった。


昨日投稿できてなかったので!

今週も大変お疲れ様でした~!

投稿まちまちになってしまいすみません。

引き続きよろしくお願いします。

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