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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
713/845

古代遺跡は機密ですか⑤

******


 テントを張り終え、ディティアが夕飯の準備をするあいだ、俺はグランとボーザックと手分けして潰れたテントを片付けることにした。


 ジェシカたちの両親のテントだっていう確率も高いし……なにかほかに見つかるかもしれないからだ。


「テントの支柱がいかれていやがるな。……古代魔法がぶち当たったのか」


「布も裂けてるしね」


 グランとボーザックが言いながらテキパキと布を退かして畳む。


 俺は支柱や固定具を回収し、その下に埋もれていた荷物を確認した。


 テントの中……だった場所にはランプや寝袋が残されていて、食糧の入った革袋や水筒もある。


 あとは遺跡を調べるための道具かなにかだろうか……? インク瓶のようなものには赤黒い液体が半分ほど入っていた。


「食糧はそれなりにあるな……結構早い段階で襲われたのかも」


 俺が言うと、布を畳み終えたグランたちが一緒に荷物を覗き込む。


「ジェシカたちには十日くらいで帰るって話してたんだっけー? それでこれだけの食べ物があるなら到着して二、三日あたりかもしれないね」


「ああ。帰ってこないまま二週間くらい経ってるって話だったな? そうすると襲われてからさらに十日以上ここには戻ってねぇことになるか」


「ここで怪我をしたってわけじゃなさそうだから隠れてるとか? ――いったいどうしてるんだろうな……」


「夕飯の準備ができました!」


 ふたりに応えた俺は、ディティアの声で顔を上げた。


 グランがその声に手を振って応え、ボーザックが困ったように口元を緩める。


「……とりあえず食べて休もうか。明日、建物内を調べればふたりの痕跡も見つけられるかもだしね」


「そうだな……焦っても仕方ないもんな」


 頷いて……俺たちはディティアのもとへと戻ったのだった。


******


 夕飯は乾肉を細かく裂いて煮込んだスープに固いパン。


 このパンはスープに投入すれば独特のもさもさ食感を緩和することができる。


 乾肉の出汁が利いたスープは旨みがあって……申し訳程度に入れられた乾燥具材もパンと一緒に頬張ることで満足感があった。


 食べられる食材が手に入ればファルーアに流してもらって煮込むこともあるけど……この森じゃいまのところ見つけられていない。


 見込みがあるのはやっぱりキノコなんだけどな……毒とかあったら嫌だもんな……。


「ど……どう思う? ハルト君」


 そこでディティアがおずおずと聞いてきた。


「ん?」


「美味しいかなって……」


 キノコに思いを馳せていた俺は我に返り……彼女が夕飯の味について聞いているのだと気付く。


 危ない、毒の有無について口にするところだったぞ……。


「すげー美味いよ。久しぶりにディティアの料理が食べられて満足してる」


「……!」


 誤魔化しを兼ねて微笑んでみせると、ディティアがエメラルドグリーンの瞳を瞠って息を呑む。


 するとため息をこぼしたファルーアが器を置いて首を振った。


「なにかしらね……私までむずむずするわ」


「……むずむず? 虫でもいるのか?」


「それハルトが虫ってことになるけど気付いてる?」


「は?」


 ボーザックに言われて聞き返すと、グランが笑うのを堪えて咽せたのがわかる。


「なんだよ……グランまで?」


「ごほっ、ごほ……いや……お前本当に……はあ、まあいい。いまに始まったことでもねぇしな……。ファルーア、ディティアが固まっちまったから解読の話でもしてくれー」


「ええ、そうね……」


 ……?


 ディティアを見れば確かに赤くなったままだけど。


「料理美味いって褒めたの……おかしかったか?」


 本人に聞くのはなんとなく憚られたんで黙々とスープを口に運んでいる〈爆風〉に聞くと……彼は生温い笑みを浮かべた。


「若者はいい。だがお前はもう少し大人になれ〈逆鱗〉」


 はあ……?


「――とりあえず。読み解けたのはほんの僅かよ。ただ、この上に広がるキノコの森は――というよりこの遺跡を含めた一帯が古代魔法によるものだってことはわかったわ」


 よくわからないまま、ファルーアの話が始まる。


 俺は諦めて大人しくスープに舌鼓を打つことにした。


 どうせ皆、教えてくれないだろうしな――別にいいけどさ。


「理由はまだ読み解けていないけれど、この遺跡は放棄されたもので間違いなさそうね。なにかの機密情報を扱っていたようで暗号みたいな文が多いわ。……走り書きで補ってあってもまだ私の知識量じゃ難しいといったところかしら。――そういえばハルト、秘匿魔法の本を持っているわよね?」


「んっ……⁉ ……ああ、ソイガさんの店で買ったやつか?」


 思いのほか急に話を振られ、俺は危うく喉に詰まらせそうになったパンを流し込む。


 ソイガさんは自由国家カサンドラ首都で趣味の本屋を営む……『知識付与』のバフを教えてくれたお婆さんだ。


 集めているのは古代魔法の本が多く、俺はバフの起源と思しき秘匿魔法の本を買わせてもらったのである。


「少し見せてもらえるかしら? なにかしら情報になるかもしれない」


「わかった。……ほら、これ」


 俺は自分の腰に装着していたポーチから秘匿魔法の本を取り出しファルーアに渡す。


 全然読んでなかったな……そういえば。古代文字で書かれているから俺単独で読むのが難しいっていうのもあるけど。


 ファルーアは大切なものを受け取るように柔らかな手つきで本を受け取ると……続きを口にした。


「それから、そこにあった魔法陣なのだけれど。……なにかを攻撃するものというより……なにかを作り出すもの、といった感じみたいだわ」


「なにかを作り出す……? 火とか水とかってことー?」


 ボーザックが眉間に皺を寄せて聞き返すと、ファルーアは首を振った。


「火や水であれば攻撃と大差ないわ。もっと……そうね、種もないのに花を生み出すような感じかと思うのだけれど」


「そんなこともできんのか? すげぇな古代魔法ってのは」


 グランは食べ終わったのか器を置いていて、右手でいつもどおり顎髭を擦る。


 ……機密情報、か。


 俺はそれを眺めながら考えていた。


 ――機密だっていうなら、血結晶の作り方だってそうだよな……。


 なんだか嫌な予感がした。



本日(日付変わっちゃいましたが!)もよろしくお願いします。

おやすみなさいー!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「若者はいい。だがお前はもう少し大人になれ〈逆鱗〉」 それができたらハルトじゃないと思う・・・。
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