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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
712/845

古代遺跡は機密ですか④

******


「あぁ……」


 ――そうであってほしくないという思いほど簡単に覆る。


 探し始めて間もなく、俺は破れた布切れのなかに見覚えのある刺繍を見つけたんだ。


 空色の布地に、首の長い白い――鳥。


「これ……ジェシカたちの家の紋章だよな……」


 誰に問い掛けるわけでもなく呟いた俺に、皆の視線が集まった。


「食器もふたり分あるみたいだね――それに、なんだろう……なにかの儀式の道具みたいなものも」


 潰れたテントの下を見ていたボーザックが続ける。


 俺たちのあいだに重い空気が漂って……俺は手のひらくらいの刺繍を手に唇を引き結んだ。


「なにかあったのは間違いねぇと思うが、まだ落ち込むには早ぇぞ。……ここらの服は千切れてるが血痕は見当たらねぇ」


 それを打ち破ってくれたのはグランで、彼は地面に膝を突いて裂けた上衣のような布を手にしていた。


 ――その色はくすんだ朱色。これもまた、ジェシカたちの纏うローブと合致する。


「…………あれ、ねぇ……これって……」


 そこで声を上げたのはディティアだ。


 俺は彼女に歩み寄り、その肩越しに覗き込む。


 ディティアが見ていたのは建物からテントを挟んで向かい側――下草が生えている場所だった。


 そしてその下草は薙ぎ倒されているようだけど――。


「……!」


 俺は彼女の見つけたそれに気付き、ゴクッと息を呑んだ。


 ……下草に絡み付く形で残されていたのは緑色の羽毛だったのである。


「『未知の魔物』と戦ったようだな」


〈爆風〉が言って、足下を調べる。


「……うん。ここを通ったのは魔物だけのようだ。戦いが終わったか途中離脱したか――とにかく森へと姿をくらましたのは間違いないだろう」


「だとしたらジェシカたちの両親は無事な可能性が高いよな?」


「ここに血痕や遺体がない以上は『未知の魔物』を退けることに成功したと考えるのが普通だろう」


 聞いた俺に応え、〈爆風〉はなにかを考える素振りをみせてから俺に言った。


「〈逆鱗〉、『魔力感知』をかけろ」


「え? ……いいけど……そのキノコ眩しいぞ」


「隅にでも置けばいい。――〈豪傑〉、キノコを」


〈爆風〉は言うが早いがグランの光るキノコを鷲掴みにしてふんだくり、少し離れた場所に放った。


 俺は右手を翳し、一気にバフを練り上げて広げる。


「――『魔力感知』」


 すると――どうたろう。


 俺たちの近く、テント付近で地面が薄らと光ったのだ。


 その光は本当に僅かなもので、注意深く見てようやくわかる程度。


 細く頼りない線を浮かび上がらせているけど――なんだ?


 移動して確かめると……線はゆるりと弧を描き、円だったのだろうと予想できた。


 その円の内側にもなにか文字――もしくは図形のようなものがあったようだ。


「これ、魔法陣の罠かなにかだった?」 


 ボーザックが言うと……ひとりパラパラと本の頁を捲っていたファルーアが首を振った。


「違うわ。なにか――ここで魔法を使おうとしていたようね」


 その細く白い腕が伸ばされ、本の一頁が示される。


 そこに描かれているのはなにかの魔法陣と……びっしり書き込まれた走り書きだった。


「……こりゃなんだ?」


「古代魔法のようだけれど、まだどんな魔法かまでは読み切れていないわ……。でもこの本、ご丁寧にキノコの絵もあるの――おそらくこの遺跡が記されているものね」


 本を覗き込むグランに応え、彼女は本を引き戻すと俺たちを見回した。


「このままここでテントを張りたいのだけれど……どうかしら? 本の解読を進めたいわ。もしかしたらジェシカたちのご両親が戻るかもしれないし」


「私は賛成。……入れ違いになっても困るし……ここなら開けているから警戒もしやすいと思う」


 ディティアはそう言うと建物を見上げる。


 建物の向こう側を大樹の根が蹂躙し、次の建物までは回り道が必要だろう。


 そこでグランが顎髭を擦りながら言った。


「よし、そうと決まれば準備だな。ハルト、ボーザック、テント張るの手伝え。〈爆風のガイルディア〉は警戒を頼めるか? ファルーアはそのまま解読だ」


「えっと……グランさん、私は……?」


 聞き返すディティアに俺は思わず笑う。


「ははっ、ディティアは久しぶりの夕飯当番だろ?」


「あ! そ、そうでした……。お、美味しくできるかなぁ……」


「ふ、とびきり美味い飯、期待してるな?」


 そっと頭を撫でると――ディティアは恨めしそうに俺を見上げて唇を尖らせる。


「ハルト君、意地悪です……。あと撫でるの禁止!」


「…………」


 急に禁止と言われると……当然もっと撫でたくなるものだろ?


 俺がそのまま撫で続けているとディティアはみるみる赤くなって固まってしまった。


 うんうん、可愛いなぁ。この不穏な空気も中和されるってもんだよな?


「……ハルト。お前はそろそろ自覚しろ」


「本当にね。俺、いたたまれないよ……」


「は? 自覚? いたたまれな……いッ⁉」


 グランとボーザックに聞き返した瞬間、俺の頭に龍眼の結晶が落とされた。


「気が散るわ。さっさと動きなさいハルト?」


「はは。折を見て荒療治というのも楽しめるかもしれんな!」


 い、痛い――っていうか荒療治ってなんだよ?


 渋い顔で頭を擦る俺に、ディティアが脹れっ面で言った。


「とにかく! お料理するのでテントをお願いします! はいっ、開始!」



皆様こんばんは!

本日もありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 荒治療により意識し始めるハルトも見てみたいな…ԅ(¯﹃¯ԅ)うへへ
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