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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
711/845

古代遺跡は機密ですか③

******


 そうして建物の前まで戻ってきたものの……たぶんもう夕方だろうと思う。


 遅いと思われる昼を食べてからもそれなりに時間が経ったはずだ。


〈爆風〉との遊びで負けたのは珍しくディティアで、たぶん『キノコではないなにか』に気を取られ、剣を抜かないよう〈爆風〉に言われて対処が遅れたのだろう。


 ……そもそも指示を優先して〈爆風〉に触れるのを忘れた可能性もあるかも。


 考えるあいだも樹液塊は絶賛発光中。


 暗くなる気配のない森はやっぱり静かで、俺たちは「さてどうするか」と顔を見合わせた。


「いまから調査するとして、だ。それなりに時間が掛かるだろうよ。夜通しってわけにもいかねぇが……外周を調べる程度ならやれそうか」


「そうだな。ぐるっと周りを見るくらいなら」


 グランに応え、俺は既にかけ直していた皆の『五感アップ』二重を上書きする。


「それなら早いところ済ませましょう。今夜拠点にする場所もついでに探せばいいわ」


「うん。あとは……罠に注意しないとだね!」


 ファルーアが言ってディティアが頷く。


 俺たちはそれそれ踏み出し、灰色の石を積んで造られた建物へと向かった。


 ……一番近くにあったのは大中小でいえば『中』の建物だ。


 窓が縦に三つ並んでいるのを見るに三階建てだろうか。


 箱形の短面に金属製の扉が備え付けられているが、どういうわけか外側から大きな板で塞いであったらしい。


 朽ちた木片が崩れて散らばっている。


「最近扉を開いたような痕跡はないが……窓が割れている箇所も多い。誰も入っていないと言い切るには早いな」


「はい……でも外側から扉を塞ぐなんて……暮らしていた人はこの建物を放棄したんでしょうか?」


〈爆風〉とディティアの会話を聞きながら、俺は辺りを見回す。


 下草はほんの数歩前までびっしりと生い茂っていたけど、建物付近は何故か開けている。


 まるで建物に近付くのを拒んでいるかのように見えて、俺は腕を摩った。


 なんかこう……嫌な感じなんだよな……。


「あのあたり……蔦が剥がれてるみたい」


 そこでボーザックが指をさした。


 場所は扉に向かって左手の長側面。白く濁り所々割れた窓が並ぶ一画だ。


 枯れた蔦だけはほかの草と真逆で自ら建物に取り憑くように壁面を這っているんだけど……なるほど、その一部が千切れてダラリと垂れている。


 俺たちは慎重に近付き、付近の様子を探った。


「魔法……のようね。切断面が焦げているわ」


「ふむ。最近焼いたようだ。枯れているとはいえまだ水分が残っている」


「魔法陣は――ないみたいだね」


 ファルーアの言葉に〈爆風〉とディティアが続ける。


 グランとボーザックは窓から中を窺っているけど――見えるのは薄暗い空間だった。


 奥のほうは真っ暗な闇に溶けてしまっていて、いくら目を凝らしてもなにもわからない。


 窓があるとはいえ、日の光ほど明るくもないもんな……。


「気配はしねぇと思うが……レイスやリッチみてぇなのもいるからな。中を調べるのは予定どおり明日にすべきだろうよ」


「そうだね。夜になったかわからないのにいきなり動き出してから気付いたんじゃ遅いし」


 グランとボーザックはそう言いつつ窓から離れ、壁沿いに奥へと歩き出す。


 窓の高さは俺の胸元付近。よじ登って入ることも十分可能だ。


 ――窓枠にも特に痕跡が残っているとかそんなことはない。


 もしかしたら、ここに居たはずの『誰か』も同じように中を覗いただけなのかも。


 そう思って一歩引いた瞬間、ボーザックの鋭い声がした。


「皆! ちょっと来て!」


******


 ボーザックがいたのは建物の裏手、扉とは対角の短側面にあたる場所だ。


 駆け寄った俺たちを肩越しに見た彼は難しい顔で数歩下がり、その光景が見えるようにした。


「――テントか? ……でも……」


 思わず呟く俺に、眉を寄せたまま顎髭を擦っていたグランが唸る。


「数日は経ってそうだが――こりゃ、なにかと戦ったあとだ」


 ……そうなんだよ。


 テントは潰れて、周辺もまるでなにかが転げ回ったように荒れている。


 それだけじゃなく引っくり返った荷物が散乱していて、千切れた服のような布切れも確認できた。


 崩された焚火跡の周り、食事だったのであろう残骸は既に乾いたり腐ったりしていて……グランの言うとおり数日は経過しているのだろう。


「――〈光炎〉、あの本を確認できるか?」


 そこで〈爆風〉が少し先を指差す。


 見れば、散らばる荷物のなかに分厚い本が数冊混ざっていた。


「こんなとろに持ってくるには厚みもある。それほど重要なものなのかもしれん」


「ええ、やってみるわ」


 固い表情のファルーアは静かに応えると皆に目配せして進み始める。


 俺たちもそれぞれそろりと踏み出して「この荷物が誰のもの」なのか調べようとした。


 ……嫌でも考えるだろ。


 ジェシカたちの両親のテントなんじゃないかって――。


皆様こんばんは!

今週もよろしくお願いします!

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