遺跡調査は難航ですか④
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そんなわけで。
キノコ森から地下遺跡に入り『未知の魔物』との遭遇を経て謎の森へと進んだ俺たち〔白薔薇〕だったけど……この森がまた、なかなか大変だった。
ジェシカたちの両親が調査するなら当然上から見えた建物だろうってことで、目的地は決まっている。
だけど――。
「……あーくそ。こっちも駄目か。迂回するぞー」
「さすがに骨が折れるな……全然進めない」
何度目かのグランのため息に、俺は肩を竦めた。
眼前には見上げるほど太い木の根が張り出していて、潜ることは勿論、登ることすら難しい。
足下に生い茂る下草も歩きにくさを発揮しているっていうのに――回り道ばかりを余儀なくされるのだ。
「これ、中央の大樹の根なんだよねー? 樹海の樹より大きく見えたけど、ここまであちこちに根を張られたら古代人も困ったんじゃないかな?」
ボーザックが言いながら右手で根っこの表面に触れる。
ちなみに左手には光るキノコが握られていた。
……グランと〈爆風〉もベルトに括り付けているし、この先も持ち歩くつもりらしい。
まあ俺の分はぶっ飛んだし、もういいんだけど。
そんなふうにどうでもいいことを考えつつ、俺はボーザックと同じように根のしっとりとした感触を確かめて口を開いた。
「確かに困るだろうな。こんなに太いし……」
……そして、その一部から突き出す光を纏う岩に目を移す。
この岩……天井や壁だけでなく足下からもタケノコみたいに生えているし、大きいものだと外にあった巨大キノコに負けず劣らず――いや、もっとでかいか。
「――この光る岩、砂漠にあったのと似てるけど……こっちは蒼じゃなくて緑っぽいから別物かな?」
思ったことを口にすると〈爆風〉が岩をコンコンと叩いた。
「いや、これは樹液だ〈逆鱗〉。長い年月で表面が硬化したのかもしれん。おそらく光るのは樹自体の魔力が反応しているんだろう」
「あら樹液なのね? ……宝飾品にもよさそう。剥がしたら光らなくなるかもしれないし、きっと綺麗だわ」
食い付いたのはファルーアで、彼女は光る岩改め光る樹液塊を指先でなぞる。
「岩ほどは硬くねぇだろうな。試してみるのも悪くねぇか」
案外乗り気そうなグランが自慢の大盾を後ろ手で撫でるけど――。
「もう、グランさん! まずはジェシカちゃんたちのご両親をみつけないと! 樹液はそのあとです!」
ディティアが頬を膨らませた。
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『五感アップ』にはなにも引っかからず、俺たちは静かな森のなかで道なき道を割って進んだ。
建物があったのは中央の大樹付近だけど、その周りをぐるりと半周強は歩いただろう。
さすがに腹も減ったんで、俺たちは適当に草を掻き分けた場所に座って昼食を取ることにした。
「本当に通れないね……大樹が建物を護ってるみたいだ」
ボーザックがそう言って頭上を振り仰ぐ。
気付かなかったけど――遥か高くまで聳えた大樹の枝葉はいつのまにか俺たちの上も覆っていた。
大樹……つまりこの半球状の空間の中心地まではそれなりに近付いたんだと思う。
「ずっとこの明るさってぇのは時間感覚がおかしくなるな。昼はとっくに過ぎてるはずだが――こうも静かなのも落ち着かねぇ」
グランは乾肉を口に放り込み、革袋の水をひとくち飲み下す。
「空気は綺麗ですけど……生き物の気配がしなくて少し寂しいですね」
ディティアが乾燥させた果物を取り出しながら応えたところで、ボーザックが近くにあった下草を指先で弾いた。
「虫ですら見当たらないしねー。『未知の魔物』しか住んでないのかな?」
するとディティアはビクッと肩を跳ねさせ、エメラルドグリーンの瞳を泳がせる。
「えっ、む、虫は……いなくてもいいかなぁ……」
「はは。そう言うな〈疾風〉。虫だって立派な生物だぞ? 彼らがいなければ実は育たない。しかも貴重なタンパク源にもなる」
「うぅ……た、食べたくはない……です。ガイルディアさん……」
その言葉に皆が笑ったところで、グランがポンと膝を打った。
「とりあえず遺跡までの道をこのまま探す。それでも見つからねぇなら登るしかねぇな」
「そのときは『腕力アップ』と『脚力アップ』でなんとかするしかないな」
俺が応えるとグランは顎髭を擦りながら頷く。
「そのときは頼むぞハルト」
「おう」
口角を吊り上げて言った俺は……そこでふと空気の匂いを嗅いだ。
なんというか――違う匂いがするような気がして。
香ばしいような、煙たいような……。
「……? なんか……えぇと、そう。焦げ臭くないか?」
またもや日付変わってしまいました!
昨日もすっとばしてしまいすみません。
引き続きよろしくお願いします!