魔力感知は才能ですか⑥
振りかぶっての一投。
勢いよく飛んでいった土塊は狙いどおりに当たり、光るキノコがぐわんと揺れる。
たわんだ柄は反発して戻り、笠がゆらゆら弧を描く――が。
魔力の霧も毒霧も…………出なかった。
「……大丈夫そうね。そうするとあのキノコごと魔法に巻き込まなければ問題ないわ」
「そこは安心だな。ほかのキノコも魔力が高いなら試しておくか? 皆にも共有しよう。近くで戦うと危ないってことだもんな」
ファルーアはどこか優雅に頷くと、ふと俺を見る。
「……なに?」
「バフは強化されないのよね。やっぱり私の魔法とは根本的に違うんだわ」
「ん、そうだな。俺は自分の魔力の形を変えて渡してる感じだし。ファルーアのは体内と体外、両方の魔力を使うってことだろ?」
「ええ。体内の魔力を使って変換具に命令を送り、変換具を通して空気中の魔力を別のものに変えて使うといった感じだと思うわ。このあたりは魔力感知と同じで才能みたいなものね。だから魔法を使えるかは人による。……そうね、だとすると体内の魔力だけでも小さな火くらいは起こせるのかもしれない――魔力が全くない場所なんて聞いたことがないから試せないけれど……。そうすると消耗も激しくなる……?」
後半は独り言のように呟いて……ファルーアは頭を振った。
「いま考えても仕方ないわね。ハルト、『属性耐性』の効果を試しましょう」
「ん、助かるよ。ちゃんと耐性がついていれば怪我すらしないってこと……だよな?」
「比較したほうがわかりやすいのだけれど、さすがに試せないわね」
「切り刻むのはやめてほしい!」
俺が慌てて首を振ると、彼女はふふっと笑って持ったままの枝を地面に刺した。
「ハルトとこの枝、同時に撃つわ。枝が傷付いてもハルトが無事ならいいってことよね? 先に力加減を試すから『魔力活性』をお願いできるかしら」
「おお! そうしよう!」
俺はいちもにもなくファルーアの差し出した右手を握り『魔力活性』をかける。
このやり方のほうが効果が高いことを俺もファルーアもわかっていたからだ。
「ねえー、なにしてるのー?」
そこにボーザックの声が届いて、俺は一歩引いて軽く手を振った。
「丁度いいや、グランも呼んでくれるかボーザック!」
「なんかわかんないけど了解! おーい、グランー!」
「ディティアと〈爆風〉も少しいいか?」
「こっちはいつでも大丈夫だよハルト君」
「随分楽しそうなことをしているんで様子を見ていたところだ」
俺が言うと、ふたりはそう応えて笑ってみせる。
……なるほど、ずっと見てたんだな……。
たぶんキノコに土塊を投げるところも。
******
「いつでもいけるわ、ハルト」
「おう、頼むよ! ――『属性耐性』ッ!」
ファルーアは僅かな時間で魔法の威力を調整し、枝がうっすら傷付く程度にしてくれた。
枝の硬さからして、俺が受ければ多少傷になるはずだ。
それがなければ――即ち成功ってことになる。
まあ――どこまで耐性がつくんだって言われたら、正直試すのは難しい。
手頃な魔物相手に使って比べるのが早いんだろうけど。
ちなみに調整のあいだにキノコのそばで魔法を受けることの危険性は共有済みである。
「それじゃ――切り裂きなさい」
彼女のひと言はすこぶる物騒だった。
くるりと回された杖に填まる龍眼の結晶が淡く光り、俺と枝を風が取り囲む。
髪がバサバサッと跳ね回って咄嗟に瞼をぎゅっと瞑ると、すぐに風は止んだ。
「――どうかしら」
「…………えっと」
痛みは――ない。
ぱっと見たところ露出した肌に傷もない。
だけど……俺は気付いてしまった。
「…………服の生地がやられてるんだけどッ⁉ 嘘だろ!」
「ぶはっ、あははっ! ハルトって本当、ハルトだよね!」
噴き出したのはボーザックだ。
「笑いごとじゃないってボーザック! なにがハルトはハルトだよ! うわ……小さいけどあちこち裂けてるぞ⁉」
「そういや『肉体硬化』でも服はやられるしなぁ……」
グランが顎髭を擦りながら残念なものを見るような目で俺を眺めている。
「さすがに鎧は無事そうだな」
「飛龍タイラントの革ですもんね!」
〈爆風〉とディティアも笑うけど――。
「……ちょ、あのさ……グラン、これ……パーティーのお金から出るよな……?」
正直、いま俺の懐は寂しい。
恐る恐る聞くとグランは大袈裟な動作で肩を竦めた。
「仕方ねぇな――次からは出さねぇぞ?」
「……し、仕方ないって……酷くない?」
これ、グランや皆のための『属性耐性』なんだけど……?
「……ははっ、冗談だよ! ともあれバフは成功みてぇだな!」
思わず肩を落とすと……皆はそれぞれ盛大に笑うのだった。
本日②話目というか本日分です!
いつのまにか追加されていた『いいね』機能を解禁しましたッ!
つけてもいいよって読者さまはどうか『いいね』の力を私に教えてください……Twitterみたいな感じなのかしら?
引き続きよろしくお願いします!