魔力感知は才能ですか④
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温め直した粥を食べながら〈爆風〉が俺たちの魔力感知について評価をしてくれた。
「〈豪傑〉は魔力を捉えるのに目を頼りすぎだ。……とはいえ『受け止める』ことに特化している分、感覚的には優れているようだな。見えない魔法への対処方法としては――〈逆鱗〉、やはりお前のバフが必須だ。魔法に耐えうる強化系を考えておけ。それができれば心置きなく『受け止め』られる」
「……あ、それなんだけどさ。『属性耐性』のバフがあるんだ。アイシャでは魔法をばりばり使うような魔物がいなかったし――覚えてなかったんだけど。初級だからすぐ覚えられるはず」
「えぇと……ハルト君。『属性耐性』ってことは……火なら火、雷なら雷に強くなるってことだよね? 空気が弾けるのはなんの属性になるのかな?」
粥に息を吹き掛けて冷ましながらディティアが応える。
ファルーアは優雅に水をひとくち飲み下してからゆるりと視線を上げた。
「……風ね。火球を小さくするのと同じで風を圧縮させているわ」
「うーん。でもさーハルト。未知の魔物が使う魔法が風だけとは限らないんじゃない?」
ボーザックが言いながら粥を口に運ぶ。
「そのときは別のバフに書き換えることになる……かな。たぶん全部の魔法に耐性をつけるようなバフもできるんだけど――その代わり効果は薄くなると思う。何重にもしないと使い物にならないはずだ」
「うん、そこまでわかっていればいいだろう。とりあえず〈豪傑〉への対応は決まりだ。次は〈不屈〉、お前だ。俺と似ているなら簡単だぞ、勘に頼れ」
「んんっ⁉ ――ええっと、それだけ?」
ボーザックが口の中身を懸命に呑み込んでから言うけど……〈爆風〉は笑いながら当然のように頷く。
「戦闘での勘は誰もが磨けるものじゃない。ただし気配を読むことを怠るな。どちらも磨けばお前はもっと強くなる」
「……ほ、本当に? そっか……なら俺、もっと頑張る!」
黒眼を大きく見開いたボーザックが意気揚々と応えると、〈爆風〉はもう一度励ますように頷き、粥を口にしてからファルーアを見た。
「――〈光炎〉、お前は魔力感知は問題ないようだ。ただし気配を読むときに魔力の滲みを捉え切れていなかったな。肉弾戦になる場合は〈豪傑〉と〈不屈〉に任せて魔法を捌くべきかもしれん。〈爆炎〉の爺さんなら魔法同士をぶつけて相殺するくらいはしてみせるだろう」
「あら……そのとおりよ。さすがよくわかっているのね。〈爆炎のガルフ〉は似たような魔法を使う奴と対峙したときに相殺させていたわ。私のほうは……確かに昨日の今日で気配を読めるようにはならないでしょうし、攻撃次第ではグランから離れないようにするのがいいかもしれないわね……」
「とすると俺も無闇に前には突っ込めねぇか――」
そこでグランが顎髭を擦りながら呟く。
ファルーアはそれを聞くと鼻先で冷ややかに一蹴した。
「馬鹿言わないで。止めたって飛び出すでしょう? 魔法を撃たれるだけなら対処できるから好きになさい。肉弾戦になりそうな相手だったときだけでいいし二、三体までならなんとかするわ」
「お、おぉ……」
消し炭にでもされそうな空気にグランが身動いだところで〈爆風〉は俺に視線を合わせた。
お、次は俺の番みたいだな!
「――さて〈逆鱗〉。お前だが――正直なところ微妙だ」
「……はっ?」
え? なに――微妙?
「気配と魔力、ある程度どちらを読むこともできるが特化しているわけでもないだろう。……咄嗟の対応には差が出るだろうが、どちらかに頼って魔法を避けるのは難しいかもしれん」
「え……えぇ……」
なんだよそれ……。
まさかの評価に俺は肩を落とすしかない。
〈爆風〉は眉を寄せた俺になにが面白いのか歯を見せて笑った。
「はは。なにを落ち込むことがある。お前はバッファーだろう?」
「それはそうだけど……『魔力感知』は使えないし……」
「『魔力感知』だけで言えばそれこそ戦うときに眩しくなければいい。例えは悪いがいっそキノコを燃やすという手もある。さすがにそんな手は使わないが――要は戦い方と場所次第ということだ。もしくは……さっき〈疾風〉と話していたろう? 相手に『魔力感知』をかける案はなかなか使えるかもしれん」
唇を尖らせた俺に〈爆風〉はそう続けると粥を口に流し込んで――飲み下した。
「――それにお前の最大の武器は多彩なバフの重ねがけだ。反応速度や五感を上げて回避し、ここぞというときに肉体を強化させて敵を穿つ。それでいい」
「んん……いい――のかなぁ……」
俺が眉根をギュッと寄せると彼は肩を竦めた。
「当然、今後はどちらも『読める』ようになることが前提だぞ。鍛練を怠るなよ」
「……わかってるよ」
これがいまの立ち位置ってことか。
なんだか酷く残念な気持ちになったが文句も言っていられない。
見回せば皆、粥を食べ終えたところだったんで、俺は沸かした茶を注ぎ足した。
「えっと、ガイルディアさん。私には…………」
そこでおずおずと右手を上げたのは――粥を食べ終えて落ち着いたのであろう〈疾風のディティア〉である。
「ん……? ディティアはできてたんじゃないか?」
俺が言うと彼女はぶんぶんと首を振って、濃茶の髪を揺らした。
「そんなことないよ! まだまだ気を付けることがあるはずだもん。皆が頑張ってるのに私だけこのままってわけには……!」
「そ、そう……」
うーん。個人的には既にかなり叩きのめされていて胸が痛いというかなんというか。
見ると、皆もなんとなく生温い笑みだ。
〈爆風〉はそんななかで茶をひとくち口にすると――たっぷり時間を空けてから歯を見せて言った。
「まだまだ俺の背は遠いぞ。精進しろ」
「は――はいッ! 私頑張ります!」
……あ、いいんだ。それで。
気付いてしまいました。
金曜更新できてなかっ…………た?
大変申し訳ございません!
こ、今週もよろしくお願いします!