逃げ果せると思うなよ。①
次の日、早々に俺達はギルドに呼び出された。
まだ日が昇ってすぐで、ぐっすりと眠っていたところを叩き起こされたのである。
ギルドに着くと、半泣きのギルド員が縋り付いてきた。
ギルド長がいない今、俺達は判断を仰ぐに丁度良い存在でもあるみたいだ。
「あ、あのお、白薔薇の皆さん…宰相ヤンドゥール様から、昼に迎えにくると使者が……こういう依頼は、受けていいのでしょうか?」
「ははっ、受けるかはギルドが決めるんじゃないのか?」
グランが笑う。
ギルド員は本当に困ったように肩を落とした。
「こ、こんな人の居ないギルドですよ?しかもギルド長も不在なので、責任取れませんよう……そ、それにですね?」
何かもごもごして、ギルド員は俺達を受付の隅に引っ張った。
まだ早朝。
誰もいないにも関わらず、である。
そうして辺りを窺うと、ギルド員はものすごく小声で、囁く。
「は、ハイルデン王からも、その…ご指名が」
「ああ。来たか、早いな。……両方受けるから安心しろ」
グランが苦笑すると、ギルド員はぱあーーっと笑顔になった。
「ほ、本当ですか!?ああーーー、よかった、よかったです……!」
そして、王からの依頼の詳細を告げるから個室へどうぞ、と言って、準備を始めた。
俺達は、王都にしては小さな個室で待つことにした。
待つこと数分。
さっきのギルド員が入ってくる。
「まずはこちらを」
出されたのは、奴隷狩り阻止の依頼だった。
「これは、ドルムさんに依頼しているものなんですが…。……先に聞かせて頂けますか?宰相と王様、皆様はどちら派なのでしょう?」
「えっ?どちら派?」
わざとらしく聞き返してみると、ギルド員は真に受けたのか話し出した。
「ギルドでは奴隷制度は認めていません。冒険者は冒険者ですから。宰相は奴隷制度を認め、王は奴隷制度に反対しています。それは、その、ご存知ですね?」
そこまで聞いて、グランが右手をギルド員に向けて、軽くあげる。
「大丈夫だ。俺達はギルドに所属する冒険者。この依頼については、昨日マルベル王と話してある」
すると、ギルド員はぐったりと机に突っ伏した。
「はあ?もう、早く言ってくださいよ……名誉勲章持ちが来たのも初めてなのに、敵対してるも同然の2人からの指名依頼…こんな時にギルド長は不在。判断をミスったら私の首が飛ぶんですよ??」
「わあ……それは、ごめんね?」
ボーザックが笑って謝る。
ギルド員はそれをさっぱり無視して依頼を指差した。
「皆さんには、この依頼を尾行してもらいます」
「尾行??」
聞き返すと、ギルド員は深々と頷いた。
「これ、ギルドの情報ではかなり信憑性が高いんです。奴隷狩りが行われるのは確実かと。ただ……罠の可能性も排除出来ませんでした。奴隷商人達に、逆におびき寄せられているっていう罠です」
「なるほど」
「そこに、王からの依頼を深夜、受け取りました。この奴隷狩りが罠であること、首謀者が様子を見に来るであろうこと。私達ギルドは、奴隷制度反対派の王とは本来は協力関係である必要がありますから…その情報は信頼性が高いと思いました。そして、王は名誉勲章を持つ白薔薇を指名してきました。間違いなく、本気なのだと私は判断した。……貴方達白薔薇には、その罠を突破し、奴隷商人を捕縛してもらいます」
へえ、と思った。
頼りなさそうなギルド員に見えたけど、なるほど、考えてのことだったらしい。
「中々見る目があるわね」
ファルーアが頷くと、ギルド員はため息をついた。
「いや…本当に悩みましたよ?人生で1番です」
「大丈夫だよー、まだまだ先は長いから、1番は塗り変わるって~」
ボーザックの言葉に、ギルド員は泣きそうな顔をする。
「勘弁してください、二度と味わいたくないです」
******
尾行は恐らく数日以内に開始される。
可能性が高いのは2日後らしい。
その日は新月だからだそうだ。
場所は、どうやら王都からそんなに離れていない場所。
罠だけあって、移動面でも行きやすい場所を選んできたのかもな。
不穏な動きを感じたら、すぐに報せますと言われた。
だからしばらくは宿で過ごす事になったんだけど…まずはヤンドゥールだ。
「さーて、どんな交渉してくるだろうな」
グランが切り揃えられた髭をさする。
「そうだなあ。魔力結晶を欲しがるかもしれないしな」
「珍しい石ではあるしね。宝石としても価値は高いわ」
俺達はあれこれ話しながら、迎えとやらを待つ。
やがて、礼服であるローブを纏った女性が訪ねてきた。
金の長い髪に翠の眼。
白い肌、細い体付き。
…綺麗な人だった。
「白薔薇の皆様、ヤンドゥール様がお待ちです」
その首には…奴隷の証。
俺はちょっと意外に思った。
ヤンドゥールは、奴隷をひとりで使いに出すような奴に見えなかったから。
「貴女、宰相の奴隷なのかしら?」
ファルーアが聞く。
すると、彼女は少し眉をひそめた。
「……そうですが、何か」
その声音に、不機嫌だってのはわかるんだけど。
奴隷が嫌だからなのか、俺達に怒ってるのか、さっぱりわからない。
ファルーアはじっと女性を見つめた後にひと言、そう、とだけ返した。
女性も、それ以上何も言わない。
ファルーアには、女性の気持ちが汲み取れたのかなぁ。
「……」
何事も無かったように歩き出す女性の後に続くと、宿の入口に馬車が止まっていた。
「さて、行くとするか」
グランが、変な空気を吹き飛ばした。
******
通されたのは王宮…ではなく、大きなレストランの個室。
ギラギラした装飾と、ゴテゴテの宝石(たぶん偽物なんだろうけど)の室内は、何て言うか落ち着かなくて……俺達は縮こまってたと思う。
…いや、ファルーアだけは堂々たるものな気はするな。
「失礼しまぁす」
そこに、3人の女性が入ってきた。
何というか、薄着の……。
首にチョーカーがあることから、奴隷なんだろう。
けれど、なんていうか。
「まあ、お兄さん達、ヤンドゥール様のお客様にしてはお若いわね~」
グラン、ボーザック、俺の隣にそれぞれ座った女性は、いきなりもたれかかってきた。
「うわ」
思わず声をあげると、気をよくしたのか女性は指で胸元を触ってきた。
ちょ、やめてくれ……。
助けを求めてファルーアを見たら、ふんと鼻を鳴らされた。
グランとボーザックも、ものすごく困った顔。
ディティアは……あれ、何かすごーく冷たい眼なんですけど…。
すると、
「ぐるる……」
フェンが威嚇した。
そう。俺達は何も言われないのをいいことに、フェンを連れてきているのだ。
途端、俺の横の女性が驚いて離れる。
「えっ、何この……犬?…え、噛まないわよね?」
「ぐるるる」
「や、やだちょっと…何で店に?わ、悪かったわよ、貴方の主人に手は出さないわ」
女達は慌てて距離をとって、部屋の隅で縮こまった。
「……」
フェンはふすーっと鼻を鳴らし、真ん中にいたグランのそばにゆったりと寝そべる。
「お前……ありがとなフェンー」
撫でようとしたら尻尾で叩かれた。
褒めようとしただけなのに、失礼な奴だなあ。
そこに、ヤンドゥールがやって来る。
「……おや、お気に召しませんでしたかね」
横にいるのは、さっき迎えに来た女性だった。
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