魔力感知は才能ですか①
そんなわけで――俺たちは丁度五体残されたキノコに向き直る。
ファルーアにかけた『魔力活性』はうまく機能したらしく、氷漬けにならず綺麗に分離されたキノコがくるくると笠を回す。
俺の手のひらくらいの笠に、柄の部分は双剣程度の太さ。
高さは俺の膝に届くかどうかで地面と接する部分は根っこのような短い脚が四本――つまりこいつらは四足歩行らしい。
とはいえ見た目は本当にただのキノコ。これが生えていたら確かにちょっと美味そうだよな……。
「一番最初は見て避けられれば御の字だ。次は目を閉じて避けろ」
「ああ? だから簡単に言うんじゃねぇよ……」
グランは大盾を体の脇に移動すると眉を寄せて呆れた声をこぼす。
〈爆風〉はカラカラと笑うとシャンッと双剣を鳴らして続けた。
「なぁに、気配を読むのには慣れてきただろう? 魔力が気配を滲ませるのは説明したとおりだ。つまり捉えた気配がより歪んで滲む瞬間が魔法を放つ前兆になる」
「うーん? じゃあ気配を読んでいれば魔法もわかるってこと?」
ボーザックが言うと、飛来した礫を弾いた〈爆風〉が頷いた。
「そうだ。魔法は基本的に狙った場所に撃ち込むか、無差別に広範囲展開するものだ。〈爆炎〉のじいさん曰く離れた場所に狙って発動させるのはそれなりの才能と鍛練がいるらしいが……それも前者に近い。発動と同時に回避、これが最も効率がいい」
「そうね。広範囲を消し炭にするなら相応の魔力が必要になるし、普通は変換具から打ち出すのが効率的よ」
あれ……だとすると……?
ファルーアがそう言ったので俺は首を傾げる。
「変換具って……例えばその龍眼の結晶だろ。メイジやヒーラーは必須だったよな。魔力を別のものへと変換するのを助ける……とか、魔法の威力を高めてくれるとかさ。それなら魔物はどうしてるんだ?」
「魔物は獣とも違う性質の生き物よ。私たちは様々なものを糧にするけれど、魔物は魔力を糧にする。つまり体そのものを動かすのに魔力を使うの。だから魔物自体が変換具みたいなもの――ということね」
「ああ、そうか……だから素材的にも魔法の威力を高めたりできるんだな」
ファルーアに応えてなるほどと頷いたものの――そういうものなんだとぼんやり認識できただけ。正直よくはわからない。
変換具になる部分があるなら破壊すれば……とも思ったけど、それは無理そうだってことはちゃんと理解した。
そこに礫が飛来したのを、ボーザックが大剣で受け止める。
「ねー、難しい話はあとにして先にあのキノコたちどうにかしちゃわない? 俺、腹減ったんだけどー。とりあえずあの魔法を避ければいい?」
「賛成です……ぱぱっとやっちゃいましょう」
ディティアがおずおずと言うけど――ああ、腹が減ってるんだな。
思わず笑みを浮かべた俺に、彼女はものすごく不満げな顔で唇を尖らせた。
「な、なにかな? ハルト君」
「いや、可愛いなと」
「またそんなこと言って……!」
瞬間、ディティアが左の剣を閃かせる。
白銀の刃に弾かれた礫は砕けてキラキラと散り、俺は首を竦めた。
後ろを向いていたのにわかるんだもんなぁ。しかも受け止めるでも避けるでもなく斬る――俺にもできるかは怪しい。
いや、反応速度アップがあればいけるか?
眉を寄せていると〈爆風〉が言った。
「そうだな……ひとり三回避けたら目を閉じて三回。喰らっても構わん。今回はあくまで『練習』だからな。〈疾風〉、手本を見せてやれ」
「えっ? は、はい……! お手本になるかはわからないけど――やってみます」
急に話を振られたディティアが肩を跳ねさせ、双剣を構える。
彼女は哀れなキノコ五体の前に歩み出ると、笠の上に生み出され、撃ち出される礫を軽やかに躱す。
移動幅はそれほど大きくはなく、少し大股の一歩程度だ。
「これで三回……次は目を閉じます」
目を開けて避けるのは当然のように熟し、ディティアは俺たちを背に目を閉じたようだ。
明るい茶色の笠の上、氷の礫が生み出される。
「…………」
なんとなく緊張して固唾を呑んで見守っていると……ディティアはするりと体を動かした。
その横を氷の礫が抜けて――。
「うわッ⁉」
「えっ、ハルト君⁉」
――俺のほうにぶっ飛んできた。
咄嗟に身を捻ったから事なきを得たけど……こんな状況で喰らったら格好悪すぎるだろ……。
「あ、危な……」
「はは。よく避けたな! その調子だ〈逆鱗〉」
「その調子だ、ってさぁ……ふん。絶対に当たってやらないからな!」
皆を見回して俺が言うと、グランもファルーアもボーザックも堪えきれなかったのか笑い出す始末。
「えぇっと……ハルト君、なんだかごめんね……?」
ひとり、ディティアだけは困ったようにはにかんで――後ろから飛んできた礫を再び躱す。
「――ちょ、うわぁっ!」
当然、俺へと直進してきたそれを今度はしゃがんで避けた。
「わあっ、ごめんハルト君!」
「……いや、ディティアのせいじゃないよ」
応えた俺はゆっくりと立ち上がる。
無性に腹が立ったというか、なんというか。
「――おいキノコ! お前ら絶対に串焼きにしてやるからな……!」
思わず叫ぶと……グランが顎髭を擦りながら言った。
「食って当たっても知らねぇぞ……」
「せっかく避けたのにねー……って、痛ッ!」
グランに呼応したボーザックの肩に一発入れて……俺は双剣を構えた。
「交代だディティア、さっさと終わらせてやる!」
今日も夜中になってしまいました、おやすみなさいまし!
いつもありがとうございます。