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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅢ 魔法大国ドーン王国
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焼却作業は簡単ですか③

 ……とはいえ、だ。


 火と水がないと夕飯は乾肉その他を齧ることになるからな。


 俺は少しだけ考えてから土を払って立ち上がり……ファルーアに右手を差し出した。


 ――すごくいい案を思い付いたからである。


「ファルーア、手、貸して」


「……? ああ、なるほどね。いいわ、やってみましょう」


 彼女もすぐに察してくれたらしい。


 白い右腕をついと伸ばすと俺の右手をギュ、と握る。


 俺はひと呼吸置いてからバフを練り上げた。


「いくぞ――『魔力活性』ッ」


 このバフを直接血に送り込むような感じで流せば――俺の活性化させたい『魔力』が反応するはずだ。


 威力を上げる『威力アップ』や消費する魔力や体力を抑える『持久力アップ』と違って……このバフは魔法を安定させてくれる。


 岩の槍はより鋭利に、炎の球はより凝縮され高温に――そんな感じだとファルーアが言っていたし、俺の『知識付与』バフもくっきりと記憶を描き出した。


 つまりいま使えば――魔力が多いこの場所でも、より繊細な魔法を使うことができるはずなのである。


「ふむ、考えたな〈逆鱗〉」


 へへ、そうだろ、そうだろ?


〈爆風〉が腕を組んで頷くのに俺は笑みを返す。


 グランとディティアは消し炭になった薪に新しい薪を重ねてくれた。


 ボーザックはというと――しゃがみ込んで踏まれた足を擦っている最中だ。


 あれは痛いもんな……自業自得だけど。


「……それじゃいくわよ。グラン、ティア。念のため少しだけ離れていてくれるかしら?」


「おう」

「うん!」


 ファルーアの言葉にグランとディティアが薪からするりと離れる。


 それを確認するとファルーアはくるりと杖を回した。


「燃えなさい!」


 瞬間、ボッと音がして明るい色の炎が踊り――薪がメラメラと燃え上がる。


 さっきの炎の柱みたいにはならなかったんで俺は思わず頷いた。


 いいぞ、バフの効果が出ているってことだ。


「――いいわね、かなり安定するわ。……これだけ魔力があるんだもの、持久力アップもあれば大きな魔法をいつもより多く撃てるはずよ。ただ『魔力活性』が切れると操作が難しくなるはずだから――さっきみたいに暴発しやすくなるわね。使いどころは見極めないと。――流れなさい」


 ファルーアはそう言いながら水の球を生み出して鍋に落とす。


 普段なら派手に水飛沫が散るんだけど……水の球はおとなしく鍋に収まってくれた。


 それを眺めていたボーザックはその場に胡座を掻くと眉を寄せる。


 ……どうでもいいけど足は落ち着いたらしい。


「ねえ、じゃあここの魔物は『暴発』並の魔法を使ってくるってこと?」


「そうなるね。『魔力感知』も眩しいから使えないとすると……避けるのは大変かな」


 ディティアが困った顔で付け足したけど、ひとり、伝説の〈爆〉は楽しそうだった。


「なに、簡単なことだ。魔力も読めるようになればいい」


「おい、簡単に言うんじゃねぇよ……」


 グランが呆れた声でこぼすけど……うん。読めたら苦労しないよなぁ。


「はは。遊んでいればすぐ覚えるさ。少し難易度を上げるからしっかりついてこい」


「はいっ、頑張ります!」


 笑う〈爆風〉に意気込むディティアを横目に……俺はよく燃えている焚火に鍋を置き、穀物と調味料を投入した。


「まあ……やるしかないんだろうけどな。……とりあえず夕飯作っちゃうよ」


「そうね。……ああ、そうだわグラン。そのあいだに鎧の手入れを教えてくれないかしら」


「おお、手入れか? 勿論だ。武器も防具も長く使うために手入れは欠かせねぇからな」


「あ、じゃあ俺も一緒に磨いちゃおうかなー」


「それなら見張りは任せろ。美味そうなキノコを採ってくるのも楽しそうだと思っていたところだ」


「あ、私も見張りに出ます! ハルト君、ごはん待ってるね!」


 皆は思い思いに応えてすぐに踏み出す。


 俺は手を振るディティアに軽く手を振り返し、追加の薪を火に突っ込んだ。


 ――『魔力感知』がなくても魔力を感知できる方法があればいいんだけど――やっぱり気配を読むのと同じようなやり方が早いか?


 そもそもこのキノコたちが光りすぎなんだよ。


 遺跡が見つかったのだって焼き払われたからだろ、魔力をあれだけ含んでいるんだからよく燃えただろう。


 魔力を感知するのに目眩ましみたいな光として感じるなんて相当だろ……。


 ……いや待てよ? それなら未知の魔物はどうなんだ?


 もし俺たちと同じように『魔力感知』で目が眩むんだったら――。


 ふつふつと沸いてきた鍋の中身をぐるりとかき混ぜ、俺は思わず口角を吊り上げた。


 試してみる価値はあるかもしれない。


******


 しかし、である。


 ようやく鍋の中で特製の粥がいい仕上がりになった頃、突如ディティアの声がした。


「えええっ⁉ が、ガイルディアさ――ひゃああぁ⁉」


「な、なんだ⁉」


 俺は咄嗟に鍋を焚火から外して立ち上がり、念のため追加の薪を投入して剣を抜く。


「どうした⁉」


 グランたちもテントから飛び出してくるけど――彼らは鎧を纏っていない。


〈爆風〉とディティアがいれば、余程のことがない限り戦闘はなんとかなると思うけど……。


 俺はそう考えて淡い水色に光るキノコ群の向こう、こちらに駆けてくるふたりを視界にとらえ――一瞬絶句した。



 …………キノコだ。



 無数の明るい茶色をしたキノコが――ふたりを追い掛けて文字通り『疾走』しているのだ。


 大きさは笠が手のひら程度で手頃なんだけど……その数たるや、何十ではきかないだろう。


「は、はあ⁉ なんだよあれ……っていうか、おい〈爆風〉! こ、こっちに走ってきてどうするんだよッ⁉」


 思わず怒鳴る俺に……〈爆風〉はディティアの一歩後ろ、キノコの前を走りながら大声で笑った。


「ははは! 美味そうだったから引っこ抜いたが、どうやらキノコの逆鱗に触れたらしい! 小さな魔法を使うようだからな、丁度いい練習相手だ!」


「いやそんなこと言ってる場合じゃないっていうかさあっ! ……っああもう! おいボーザック! 鍋頼む! グラン、ファルーア! いけるか⁉」


「わかった! 夕飯避難させたら戻る!」


「おぉよッ! 鎧がなくてもあの程度のキノコなんざなんとでもしてやる!」


「……もう、暑苦しいわね。消し炭にしてやればいいんでしょう?」


 俺の足下の鍋を掴んで巨大なキノコの下へと一直線に駆けていくボーザックを見送り、白い大盾を構えるグランの横でファルーアが妖艶な笑みを浮かべる。


「うん。いいぞ! 魔法を避けるのは気配を読むのとは少し違うが、まずはやってみろ」


「え、えぇと……はいっ!」


 ひとり楽しそうな〈爆風〉に……ディティアが勢いよく応えるのだった。


まずは肩慣らしにキノコ相手に戦います!

今週もお疲れ様でした、引き続きよろしくお願いします!

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